たとえ未来が決まっていようと⑥
「なるほど。確かにそれはとびっきりの刺激じゃな。じゃが、この国はいまだに戦争の経験値が残っておる。生半可な戦力じゃ戦争にすらならんぞ? 平和ボケしてはおるがな」
「だねー。ま、その辺はいろいろ考えているから安心していいよ。で、聞きたいんだけど、この国を包む結界を破壊しようと思ったらどの施設を壊せばいいのかな?」
「ちょっと待て……国の四方にある柱の破壊。それに加え、大樹の頂上にある核を破壊すれば機能は一時停止するじゃろうな」
「そんだけやって一時的にしか停止しないんだね」
「当然じゃろ、あれらはあくまでダミーじゃからな。一応結界の機能の一部を担わせているというだけじゃ」
「へぇ、じゃあ本物はどこにあるんだい?」
「かつてこの結界が作られたとき、主制御部分は地下や樹の中に埋められたそうじゃ。そしてその情報をもつものは既に死んでおる」
「じゃあわからないのかい?」
「わしをなめるな。場所の見当はついておる……地図はどこにあったかのぉ」
メモリアは腰につけてあるポーチに手を突っ込むと、明らかにポーチよりもサイズの大きい地図が出現した。
「へぇ、アイテムボックスの類かい?」
「うむ、戦争期においてわしという存在は国家で最も重要と言っても過言ではなかったからのぉ。色々便利な道具を持たされ取ったんじゃ。これもその一つじゃな」
メモリアは地図を広げると、その地図にはすでに数カ所に目印が付けられていた。
「大体この辺に主制御装置があるじゃろうな。これらのうち一カ所でも破壊すれば結界は完全にとはいかんが、それなりの火力で壊せるようになるじゃろうな」
「流石だね。これ、いつ調べたんだい?」
「900年ほど前じゃな。あの頃はどうにかして神に嫌がらせをするかばかり考えておった。まさか役立つ日が来るとはな。それで、どうやって破壊するんじゃ? 永久機関ほどではないにせよそれなりに頑丈ではあるぞ」
「あぁ、安心してよ。これを使うから」
「……なぜお主はこんなにも大量の爆弾を持っておるんじゃ?」
「いやー王城の倉庫って本当にいいものが入ってるよねぇ」
「そういえばお主、元王族じゃったか」
「あ、知ってるんだそれ」
「そりゃそうじゃろ。5年前に行方不明になった王族として写真が出回っとるぞ」
「恥ずかしいねそれ。あれ、そういえばユウナは何で気づかなかったんだろ? 彼女の洞察力なら分からないはずがなさそうだけど……」
「ユウナ? 誰じゃそれ?」
「あぁ、言ってなかったっけ? ユウナはリスタルト王国で会った神様の目を持つ好奇心の化け物な女の子だよ。『歪み』で姿を隠してたのに見つけられてね――」
ラグナとメモリアが談笑を始めた頃、もう一人のラグナは地図に記された地点を巡っていた。
「なんか、楽しそうに談笑してる気配がするなぁ……あぁでも仕事しなきゃ。ぼくもぼくで楽しんでいかなきゃだね。あ、ここだね」
目標地点に到達すると爆弾を設置し『歪み』でその姿を隠していく。
「この能力本当に犯罪向きだよねー……これで最後かな? あぁでもまだ余ってるね爆弾。他の主要な施設にも設置しておこうかなぁ。どこがいいかな?」
(やっぱ戦争は一方的な蹂躙じゃ面白くないからねー。このくらいのハンデがあればちょうどいいでしょ。大丈夫大丈夫君たちならきっとできる。面白い戦争がね)
「さてと、こっちの準備はオッケーだね。あとは、戦争を仕掛けさせるだけだね。良い感じに悪感情がたまってきてる頃合いだろうしねぇ。あぁ、本当に楽しみだ。文字通り1000年ぶりの戦争、派手なものにしてくれよ?」
ラグナは大樹の上に座りながら、自らの手のひらを洗脳中の彼らがいる国家の方に向けると、謡うように口を開いた。
「ぼくは願う、破壊を。ぼくは願う、争いを。ぼくは願う、混沌を。故に、全て歪めぼくの手で――さぁ、動き始めろ。世界」
数時間後、エレクッシ民国とストーピッツ王国の両国が、同時にダイバステア連邦へと進軍を開始した。そしてその情報がダイバステア連邦へ伝わったのはそれから二日後、すでに彼らはダイバステア連邦に明日には到着する距離まで進み終えていた。
連邦の首脳陣はその現状を理解し、どうすべきか会議を行っていた。
「話し合いで解決はできんのか?」
「おそらく無理でしょうね。しかしなぜいきなり進軍してきたのでしょう? それも二カ国同時に」
「わからん。だがおそらくあの人間が原因だろう。だがどうやって進軍させたのだ?」
「直接聞きだすしか方法はないでしょうが……メモリア様は何をしているのですか。あれから全く尋問室から出てきませんし。監視カメラも切るなんて。一体どうなってるのですか」
「メモリア様がそう命令された以上、われらにはどうすることもできん。それよりも、どうやったら戦うのを回避できる?」
「結界が破られない限り、国に侵入することはできませんし……それで諦めてくれるでしょうか?」
「だといいがの……念のため防衛体制を整えておくぞ。予想外の出来事が起き続けている今、何が起こってもおかしくはない。準備しておけ」
「「「了解しました」」」
ラグナはその会議の様子を眺めていた。
(へぇ。思ったより対応が早いね。平和ボケしているとはいえ戦争を経験してるご老人方は危機意識はあるみたいだね。良いことだ。でも、楽観視が過ぎるんじゃないかな? すでにぼくという不穏分子が国の中にいるというのに。まぁ、いい)
ラグナは冷酷な目をしながら笑う。そして、メモリア曰く最もいい景色が見える地点へ向かった。そこにはすでにメモリアともう一人のラグナが待機していた。
「やっほーメモリア。それにぼく」
「思ったより遅かったのぉ。それで、あやつはちゃんと戦いそうか?」
「うん。まぁ無理やりにでも戦ってもらうから、彼らの意思は関係ないんだけどね」
「それもそうだね。っと、そろそろリソースが切れるからぼくはお別れだね。楽しかったよ、メモリア。直接見れないのは残念だけど、面白い戦争になると良いね」
「うむ、2日間、楽しませてもらったぞ。残りは任せるといい」
「うん。必ず、楽しい戦争になるさ。じゃあ、バイバイぼく」
「あぁ、頑張ってね。ぼく、メモリア」
その瞬間、そのラグナは消え、もう一人のラグナが差し出した手にその残滓は吸収されていった。
「よし、後は待つだけだね」
「そうじゃな……消えることを前提に作っているんじゃろうが、自分が消えているというのに一切気にしとらんのぉ、お主」
「まぁねー。記憶なんかはぼくにきっちり残ってるし、正直気にはならないね。というかそれは君もじゃない?」
「まぁ確かにそうじゃが」
二人の間に少し沈黙が流れた。が、すぐに楽しそうに笑い始めた。そして、わざとらしくかっこつけた表情をして言う。
「さて、消えてしまったぼくのためにも頑張るとしますかー」
「棒読みすぎるじゃろお主。まぁ、わしも頑張るとしようか。消えてしまったあやつのためにも」
「君も棒読みじゃん。やっぱぼくたちにこう言うキャラは向いてないね」
「うむ。その通りじゃな。とにかく、楽しんでいくとしようか」
「だね」
あとがき
次回、戦争開幕です。お楽しみに。
ユウナがラグナが第一王子であることに気づかなかったのは、ユウナが単純に覚えていなかったからです。その頃のユウナは10歳にもなってませんから、忘れてても不思議ではないと思います。
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