たとえ未来が決まっていようと⑤

「あぁ。君の言う通り、ぼくは既に神になることが決まっている。それは変えようのない、ぼくの未来だよ」


 そういうラグナの表情はいつもと同じ笑顔であったが、退屈そうな色がそこに含まれていた。


「にしてもなんで気づいたんだい? 正直ばれるとは思っていなかったんだけど」

「ただの推測ではあるがな。まず、この世界において『世界の意思』と直接会った存在はこの世界に二人しか存在せん。お主と、今の神だけじゃ」

「それに加えお主は『世界の意思』に神の力をもらっており、お主の持つ二つの力は、世界を思うが儘に歪める力と生命を無尽蔵に生み出せる力。このような力を持つ存在を神と呼ばずして何と呼ぶんじゃ?」

「ハハハ。あぁ、その通りだね」

「それで、実際のところどう思っとるんじゃ? 神になるということ、未来が決まっているということについて」

「まぁ、そうだね。嬉しいとは言えないな。未来が決まっているっていうのは」


 ラグナは複雑そうな表情で手を上にあげ、呟いた。


「神様になれば世界は変えられる。世界を正しい形に戻すことはぼくの望みであると同時に『世界の意思』の望みだからね。神になること自体に文句は一切ないんだよ」

「だからこそ、複雑だよ。これでぼくの望みが叶わないっていうんだったら運命に抗おうって気になれるのに、抗う理由すらぼくにはないんだよ」

「……では、なぜ。お主はヒトの力でこの世界を変えようとしておる? 神になればすべて解決するというのに」

「面白いと思ったからだよ」


 メモリアはラグナが言ったことを理解し、そのうえで聞き返した。


「お主今、何と言った?」

「面白いと思ったんだよ。神様になって世界を変えるよりも、ヒトの力で変えるほうがね。この行為に意味なんてないかもしれない。価値なんてないかもしれない。だけどぼくはやる。ぼくがそうしたいと思ったから」

「たとえ未来が決まっていようと、ぼくは人生を最大限に楽しむそのために生きる。そのためにぼくはこの命を使いたい。それにね――」

「未来が決まってるっていうのはこうも考えられるだろう? 何をしてもその未来に行き着く、どれだけ好き勝手に生きようと人生は保証されてるんだよ。それって、ある意味最高じゃない?」


 ラグナはただ笑った。レールの上を歩く人生だとわかっていても、その笑顔はどこまでも純粋であり、どこまでも楽しそうなものだった。


「そうか。お主は、強いな。じゃからこそ、神に選ばれたのじゃろうな」

「……そういう風に褒められるのは、なんかちょっと恥ずかしいね。それで、答えはこれでオッケーかい?」

「うむ。最高の答えじゃったよ。改めてこれからよろしく頼むぞ、ラグナ」

「こちらこそ、よろしくね、メモリア」


 メモリアは差し出されたその手を握った。触れているという実感はあるがその手は間違いなく幻覚なのだとわかった。だが、その手のひらに込められた熱は、間違いなく本物であると確信できた。


「それで、まずはこの国に変化をもたらすんじゃろうが、どのような計画を立てておるんじゃ?」

「細かい方針なんかはウロチョロしながら、ぼくが今考えてるところだと思うよ。とりあえずぼくらはここで待機だね。ここにいる限りぼくに対する警戒は限りなくゼロにできるからね」

「ま、そうじゃろうな。ふむ、この国を変えるならば生半可な刺激じゃ足りんじゃろうな。長く生きすぎた老害が多すぎるからのぉ」


 メモリアが言った通り、この国は人間以外の異種族が多く、当然のように100年以上生きる存在ばかりだ。長く生きていれば生きているほど価値観は当然固まっていくのだから、相当な刺激が必要になるだろう。


「もちろん。とびっきりの衝撃を与えられるイベントを用意してあるさ。そのためにあの二つの国家に侵入したんだから」

「あの二つ……お主がここに来る前に行っておった、エレクッシ民国とストーピッツ王国の二つのことか? 確か両方政治部分に大きな変化が生じたとは聞いておるが」

「そうだね。両方とも、ちょーっと国王だったり、首相だったりを洗脳して、国民を苦しめてるところだよ。そろそろ怒りを取り戻す頃合いじゃないかな? あと、そろそろ苦しんでる原因がダイバステア連邦だって言う情報がばらまかれるんじゃないかな。どうなるんだろうね?」

「お主まさか……」

「うん。両方の国に、同時にダイバステア連邦へ戦争を仕掛けさせる。1000年振りの戦争だ。きっと面白いことになるよ」





あとがき

 ラグナというキャラがどういうもなのか大体は分かったのではないでしょうか? 未来が決まっていることをつまらなく思いつつも、それでも、それだからこそ好き勝手に人生を楽しむ。それこそがラグナという人間の生き方です。

 神様の力使ってるんだからヒトの手じゃ無いのでは? と思う方もいらっしゃると思いますが、ヒトが神の力を使うのと神様が神の力を使うのとでは天と地ほどの差があります。ヒトが使うと他の能力より少し優れている程度にしかなりませんが、神様が使うと文字通り最強になります。ですので、神の力と言ってもラグナがまだヒトである以上、ヒトの手でというのには間違いはないということです。そのように認識していただけるとありがたいです。

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