たとえ未来が決まっていようと④
ラグナはポケットに手を入れると電話のようなものを取り出しメモリアに渡した。メモリアはそれを受け取るとすぐに耳に当てた。
『流石だね、いつ気づいたんだい?』
電話から聞こえてきた声は、紛れもなくラグナの声だった。メモリアは目の前にいるラグナに視線を向けると、ラグナはとても機嫌がよさそうに笑っていた。それは電話に出ているラグナもそうだった。
「お主は『歪み』の力を持っておるのだろう? ならば、普通に考えて、お主は捕まることなく侵入することなど容易いはずじゃ。捕まったのがわしに遭遇するためだとしても、確実に会える保証がない以上、無駄に時間を浪費する可能性の高い手段をお主がとるとは思えん。だとすれば、協力者の類がいるのは推測できる。じゃが、お主に協力するような人間はこの世界に数えられるほどしかおらぬ。そしてお主は幻覚のような能力を使った。それも実体があると感じるほどのな。ならば、分身に類する力を使えてもおかしくはないと判断したまでじゃ」
『本当に素晴らしいね。流石はコンダクターといったところかな?』
「この程度のこと情報さえあれば誰でも想像できるじゃろ。それよりお主はどこにおるんじゃ?」
『大樹のそばだよ。ここは実にいい景色だね。こういう美しい景色を壊すというのは流石に躊躇ってしまうね』
ラグナはダイバステア王国の中心部にある大樹を背にしながら電話していた。その眼には森林と一体化するように存在する建物の数々を見つめていた。
『それで、わしが今話しているお主は、本当に本体なのか?』
「間違いなく本体だよ、ただ正確に言うなら君の目の前にいるぼくもまた本体と言っていいだろうね」
『ふむ?……なるほどのぉ。お主、そういうことか』
「おや、何に気づいたのかな?」
メモリアは再び顎に手を当てると思考を深く巡らせた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「普通分身は、自律的な思考をするものじゃない。あくまで本体と思考を共有しているものじゃ。完全に独立して行動なぞできん。それに加え、他者が触れている感覚すらあり、他の物体に干渉できるものを分身とは呼ばん。文字通りの意味でお主がもう一人いるというほうが適切じゃ。そしてお主は、両方が本体と言った。つまり、お主のその能力は……生命の創造といったところか?」
二人のラグナは同時に答えた。
「『正解だよ』」
メモリアの前にいるラグナが笑いながら話し始めた。
「ぼくの力は君の言った通り生命の創造だ。とは言え今のぼくに作れるのは、人間だけだね。逆に、人間であればリソースさえあれば何だって作れる。さっき使っていた幻覚もこれで作ってるんだよ。こんな風にね」
そう言うとラグナの姿が歪み一瞬でメモリアになっていた。すぐに、ラグナの姿に戻ると、話をつづけた。
「とはいえ、万能ではない。思考を持たせれるのはぼく自身を作ったときのみだし、ちゃんとした肉体を持たせようと思うとリソースがかなり必要になる。今のぼくもリソースを節約するために、実体を作ってないし。ほら」
ラグナは手をみずからの体にぶつけようとするが、ぶつかることなくすり抜けた。
「基本的に人間の形をしたものを作れる能力だと思ってもらえばいいよ。普段は幻覚を作るのに利用してるからね」
「ふむ、なるほど。それも、神の力の一部か?」
「うん。『世界の意思』と出会ったときに、もらったんだよねー。ぼくが神様候補だからかな?」
「『世界の意思』から、か。お主は……いや、今言うことではないかの」
メモリアは、何かを言おうとしたが止め、別の言葉を口にした。
「発想次第では、どこまでも応用が利きそうな能力じゃな」
「だよねー。ぼくも初めて幻覚を作れると気づいた時には驚いたよ。それまでは、重たいリソースを使って何とかもう一人自分を作れるだけしかできなかったから。リソースをわざと減らすことで不完全な肉体を作る、面白い発想だとは思わないかい?」
「そうじゃな。逆にリソースを余分に追加した場合はどうなるんじゃ?」
「筋力が多少上がったりはするとかはあるけど、大きな変化はないね。多分ぼく自身がまだこの力を使いこなせていないからだろうね。本来は人間以外も作れるはずなんだから」
二人が楽しく会話していると、電話に出ているラグナが少し不機嫌そうな声で口を開いた。
『楽しそうだねー。ぼくも混ざりたいんだけど……まぁやることがあるから我慢するけど。あとは任せたよーぼく』
電話が切れたのを確認するとメモリアはラグナに電話を返却した。
「ふと思ったんじゃが、その電話にはお主は触れられるんじゃな。どういう仕組みなんじゃ?」
「あぁこれかい。ぼくがぼくを作るとはなぜかよくわからないけど所持品も一緒に作られるんだよね。多分、こういう持ち物とか服装とかそういうのをひっくるめて、『これこそがぼくである』というイメージがあるから、それらも一緒に作られてるんじゃないかなーってぼくは思ってるんだよね。だから当然、ぼくといっしょに作られた電話には触れられるというわけだね」
「なるほど。やはり、解釈次第で色々変化しそうな力じゃな。実に面白いのぉ」
「だよね。他に質問とかはあるかい?」
「ふむ、お主の言っていた交渉について聞かせてもらえるか? おおよその見当はつくが」
「うん。わかったよ」
ラグナは笑顔を消し真剣そうな表情で話し始めた。
「ねぇメモリア、ぼくと一緒に世界を動かす旅をしないかい?」
「……なぜ、わしを勧誘するんじゃ?」
「君が一番、分かっていることだろうけど、君が神様を嫌っているからだね」
「『世界の記録者』であることや戦争の経験者であるからじゃないのか?」
「そこも大事だけど、それ以上にこっちの方が重要だね。なんせぼく自身が、この世界が気に食わないって理由で旅を始めたんだから。仲間ができるなら当然、同じことを考えてるヒトがいいでしょ」
「……なるほど、な」
メモリアは、目をつぶると今まで生きてきた人生を思い返した。10秒ほどが経ち眼を開くと、ラグナの目をしっかり見つめ話し始めた。
「わしは思う。あの戦争の時代は間違っていると。じゃが、今の世界もまた間違っておるとわしは思う。当たり前のように命が消えるのも、平和なだけで変化がないのも、どちらも正しくない。もしこれからの世界がどちらかしか選択肢がないというならばわしは……わしは自らの感情を優先する。わしは神が気に食わん。わしの戦友を奪い去った神が。故に、わしは神の創ったこの世界を壊したい。じゃから――」
「わしはお主についていこう。お主に、協力しよう」
「……そうかい。ありがとう。メモリア、これからよろしくね」
「うむ、よろしく頼む……と、言いたいところなんじゃが、お主にもう一つだけ、確認したいことがある」
「おや? なんだい?」
メモリアは、変わらずラグナの目を見つめたまま、より真剣な表情で口を開いた。
「お主の未来は既に決まっておる。お主はこの先どんな道を歩もうとも、最終的には神になるじゃろう。お主は神様候補などではない、次の神そのものじゃ。お主はそのことを理解しておるのじゃろう? それなのになぜ、お主はヒトの力で世界を変えようと望むのじゃ? 何もせずとも世界は変えられるというのに」
あとがき
書き終わっちゃったので更新です。というわけで、主人公のもう一つの能力は『生命創造』です。詳細は本編に書かれている通りですが、ヒト(の形をしたもの)であればなんでも作れる力だと思っていてください。
ちなみにですが、一章で城とともに消えたクレアシオン・リスタルトは大本である『ぼく』が、自らを『ぼく』の未練ともいうべきクレアシオン・リスタルトと、『ぼく』の本質であるラグナに分けた結果生まれた存在です。言い換えれば『ぼく』は自らの体をリソースにしてラグナとクレアシオン・リスタルトを創造したって感じです。そういう意味では本体はもういないとも、全て本体であるともいえます。まぁラグナにとってはこんなものは些細な問題でしょうね。
そして、メモリアの言った「未来は既に決まっている」そして「神様候補ではない、次の神そのものじゃ」という言葉はどういう意味なのでしょうか? 次回をお楽しみに。
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