たとえ未来が決まっていようと③

「そちらの名を知っておるのだな。『世界の意思』に聞いたのなら当然かの?」

「やっぱり『世界の意思』について知ってるんだね。未来視必勝指揮官天才さん?」

「『世界の記録者』の方でいい。その二つ名はダサいし、わしは別に未来を見れるわけではないからのぉ」

「あ、やっぱりそうなんだ……にしても、コンダクターって名前、そのまんますぎないかい?」

「当然じゃろ。いくら有能でも平民が指揮官に就くなんてとか言う老害どもを黙らせるためにつけられた便宜上の名前じゃからな。コマンダーかコンダクターの二択じゃったよ。わかりやすさを追求した実に適当な名じゃな」


 メモリアはかつての思い出に呆れたように笑った。


「で、お主はなぜわしに会いに来たのじゃ?」

「いくつか聞きたいことがあるのと、交渉かな?」

「ほう。なんじゃ、言ってみよ」

「まずは、そうだねー……君について、『世界の記録者』という存在について詳しく教えてくれるかい?」

「ふむ、かまわんよ。さて、何から話すべきじゃろうか……」


 メモリアは顎に手を当て思考をめぐらす。そしてすぐさま口を開く。


「まず『世界の記録者』とは、言葉の通り、世界に生きるヒト、存在する国、あらゆる現象を文字通り記録する存在じゃ。そのためにわしの脳は記憶容量が無限に存在し、全てを忘れることなく記憶し続けられる。また、不老不死でありあらゆる攻撃が効かん。その代わりとして、わしはどのような手段を用いても直接人を攻撃できん。わしはその影響で2185年生きておる」

「2000年? 不老不死なら世界ができた時から生きてるんじゃないのかい?」

「これはわしの推測じゃが、不老不死の能力を持ったのはわしが初めてで、それまでは普通に死ぬ人間が『世界の記録者』を代々受け継いでおったんじゃろうな。じゃが、終わらない戦争の影響で若くして死ぬことが多く、その結果不老不死にしたんじゃろう」

「なるほどね。ちなみに、『世界の記録者』は他にも?」

「うむ。この星の存在する三つの大陸にそれぞれ一人ずつ、海底国家、地底国家に一人ずつ、そして衛星に一人、計六名じゃ」

「思ったより多いんだね。あっそうそう、未来が見えるわけでないとは言っていたけど、似たようなことはできるんでしょ?」


 メモリアは自らの頭を指さし、少し自慢げな表情で話した。


「わしにできるのは今までの経験、蓄積された知識からなる極めて正確な未来予測じゃ。100%当たるとは言えんが、ほぼ当てられる。多少干渉してもよいならば、望む未来へと誘導するくらいはできるぞ」

「なるほどねぇ。じゃあ次だ。君が経験した戦争について、教えてくれるかい? 知識として持ってはいるけど、やはり直接経験した人の話を聞きたいと思ってね」

「戦争か……あの時代を一言で表すならば混沌、じゃろうな。わしが生まれたころにはすでに世界中が戦火に包まれておった。平和な場所なぞ一つたりとも存在しておらんかった」

「かつては大義や目的もあったのじゃろうが、あの頃はもはや、大半の国家が恨みや怒りを原動力に戦っておった。文字通り終わりの見えない悪意の連鎖がつながっておった。国を守ることを建前に他国を滅ぼしていった」

「もちろん争いを拒む者もおったが、ごく少数じゃった。あの頃は間違いなく戦うことこそが正義じゃった」

「わしは生まれつき先代の『世界の記録者』の記憶を受け継ぐ形で、知識を保持しておった。故に、幼くしてダイバステア連邦軍の指揮官となった」

「裏切り、騙し討ち、罠、あらゆる非道が正義であった。わしも取りうる全ての手段を用いて国を守るために戦ったよ。他のやつらの同じだったじゃろうな」

「国に愛着とかはあったのかい?」

「全く。生まれた場所ではあったが、良い思い出なんぞ一つたりともなかったもんじゃからなぁ。じゃが、指揮官として働いておれば合法的に他の国家や大陸などの情報を得られたからの。わしの役目を果たすのに一番便利じゃった。故に一応全力で指揮したというわけじゃ」


 語る内容と違い、メモリアは楽しい思い出を話しているようだった。


「戦争は多くのものを世界から奪い去った。じゃが同時に、ヒトを強くし、技術を発展させた。今の数倍、ある意味では健全な世界であったよ。こんなものでよいか?」

「うん、問題ないよ。それじゃあ戦争が終わった時のことも話してくれるかい?」

「うむ。ある日突然、国から停戦するように指令が来た。つい先日まで命懸けで戦っておったというのにじゃ。それは他の国も同じじゃった」

「わしらは困惑しつつも国に帰った。そしてわしが見た景色は……正直、恐ろしかったよ。今まで戦争戦争と叫んでいた国民たちが突然平和を謳うようになっておったのじゃから」

「わしを含め戦争を長く、直接経験してきたものは神の影響をすぐには受けんかった。そのためわしらはなぜこのようなことになったのかを調べ始めた。じゃが、多くの者は徐々に神の影響を受けていった。影響を受けなかった者も消されていった。その原因が神だと知れたのは消されてしまったあやつらのおかげじゃよ」

「へぇ、徹底的だねー神様。じゃあ、君はなぜ今もこうして、変わることなく生きているんだい?」

「いくつか理由はあるが、まずわしに忘れるという機能が存在しなかったこと。わしが『世界の記録者』であるため容易には存在を消せなかったこと。そして、『世界の意思』が神様から『歪み』の力を取り返したこと。そんなもんじゃろうな」


 メモリアは大きく息を吐くと、机へともたれかかった。


「疲れたのぉ。こんなに長く話すのは久しぶりじゃからな。他に聞きたいことは無いか?」

「大丈夫だよ。ありがとうね」

「構わんよ。次はわしが質問させてもらうぞ?」

「うん。いいよー」

「では聞かせてもらうぞ……お主の本体は、今どこにおるんじゃ?」


 ラグナはその質問に対し、普段以上にその口元を楽しげに歪めた。





あとがき

 筆が乗ったのでもう一話更新です。『世界の記録者』や戦争の時代について分かったのではないでしょうか。

 コンダクターについては、はい。なんも名前が思いつかなかった結果です。はい。許して☆

 次の話でラグナの分身の詳細が出ます。お楽しみに。

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