たとえ未来が決まっていようと②

 どのような経緯で牢屋に入ることになったのかを簡単に説明していこう。まずラグナは国へ入るために、待機列に並んでていた。この国は観光としても有名でヒトが結構な頻度で来るため、一応荷物検査が行われている。危険物を持ち込む人がいるはずがなくても。で、自分の番が来るのを待っていたら周りに突然兵士たちが来ていて、何が起こっているのかと困惑していたら拘束されそのまま運ばれたという感じだ。


「本当に何でこんなことになってるのかなぁ。ねぇ教えてよーそこのヒトー。口がついてるんだったら話せるでしょー」


 牢屋の前にいる兵士たちは何を言っているのかわからないと言いたげな表情でラグナのことを見ていた。


(はぁ、つまんないねぇ。話すくらいしてくれてもいいでしょー。ぼくのことを化け物とでも思ってるのかな?)


 しばらく、ボケーっとしていると牢屋のカギが開けられた。


「つ、付いてこい!」


(おや、釈放って雰囲気ではなさそうだけど、何かな? 手錠も外されてないし、尋問でもされるのかなぼく? それはそれで面白そうだけど……)


 おとなしく兵士についていくと、ある部屋へと案内された。その扉は牢屋のものより頑丈なものに見えた。兵士に続き部屋へと入った。そこにはラグナを連れてきた兵士たちよりも高性能に見える装備をしたヒト、エルフや竜人、獣人など他にも多くの種族がその部屋にいた。だが、ラグナの目はそれらを映してなどおらず、正面に座る黒髪紅目で退屈そうな表情をした、鬼の女性のみに向けられていた。


(まさかこんなにも早く本命に出会えるとはね。実に運がいいねぇ。それとも、あっちから会いに来てくれたのかな? まぁどっちでもいいんだけど)


「座れ」

「はいはい、わかったよー」


 ラグナはとても機嫌がよさそうに椅子に座った。鬼の女性は変わらず退屈そうな表情で、話し始めた。


「お主はなぜ自らがこんな状況になっておるかわかっておるか?」

「もちろん。ぼくがここ最近の事件の容疑者だからでしょ?」

「……あれらの事件はすべて、お主がやったということか?」

「その通り! 全部ぼくがやった」


 当然のように事件の犯人であることを認めたラグナに、みな驚き、恐怖を示した。


「お主……普通そういうのは隠すものじゃなかろうか?」

「普通はそうだろうけど、君相手に隠し事する意味なんてないでしょ?」


 鬼の女性は少し驚いたかのように目を見開くと、その口元を少し緩めた。


「お主、わしのことをかなり理解しているようじゃな。誰から知った?」

「さぁ? 世界とかじゃないかな?」

「なるほどのぉ……お主、なかなかに面白いな」

「それはこっちのセリフだよ。君、名前なんて言うの?」

「メモリア。メモリア・コンダクターじゃ。お主は?」

「ラグナだよ。よろしくねーメモリア」


 尋問をしていたはずなのに突然仲良く談笑し始めた二人に、周りの兵士たちはひたすら困惑していた。


「さて、談笑はこの辺にしておいて本題に戻るが、お主はなぜこのような事件を引き起こした?」

「なぜねぇ、ぼくがやりたかったから……じゃ、だめだよね。うーんまぁ話してもいいんだけど――」


 そういってラグナは初めて周囲の人間に視線を向けた。その表情はひどくつまらなさそうだった。


「そうだね……はっきり言ってあげるほうが親切だよね。君たちは邪魔。メモリアだけになら話してもいいよ」

「は? 何を、言っているんだ?」

「はいはい。そこでキレることすらなく困惑してる時点でもう駄目なんだよ。1000年すら生きていないクソガキは引っ込んでてもらえるかな?」


 兵士たちは皆、ラグナの圧に気圧され絶句していた。メモリアもまた呆れたようにため息をつき、口を開く。


「お主らは出ていけ。こやつの話を聞く必要がある以上、おとなしく従うんじゃ」

「で、ですが……」

「わしが死なん事なぞ、お主らは理解しておろうが。死にたくないのならさっさと出ていけ」

「は、はい。了解しました……」

「あぁもちろん、監視カメラも切ってもらえるかな? 安心しなよぼくは何があってもメモリアに危害を加えることは無いし、そもそもできないから」

「言う通りしておけ。お主らのためにもそれが一番よかろう」


 渋々といった感じではあるが兵士たちが皆出ていき、監視カメラの類もすべてオフにされた。


「よし、ありがとうね。手伝ってくれて。実に楽に事が進んだよ……あ、手錠外してもらうの忘れてたや。取ってくれない?」

「はぁ、しょうもないジョークはいらんぞ。さっさとその幻覚をとけ」

「はいはい。わかってるよ」


 彼がそう言った瞬間、手錠をしていたラグナの姿が掻き消え、一切拘束されていないいつも通りのラグナがそこに現れた。


「手錠をしたと勘違いしてしまう、実体を持つ幻覚。それを幻覚と呼んでいいのか甚だ疑問ではあるが。まぁよい、それは後じゃ。では、改めて聞くがお主はなぜこのような事件を引き起こした?」

「世界を動かすため、君ならこれだけで理解できるでしょ?」

「あぁ、もちろんじゃ……1000年もかかったと言うべきかたった1000年でと言うべきかは判断に迷うが、現れたのじゃな……一応聞いておくがこの国に来た理由は?」

「当然、君に会うためだよ。この世界で戦争の時代を経験し尚且つ神様の影響を受けていない、そして現在も生きている唯一の存在――『世界の記録者』さんにね」


 ラグナはどこまでも楽しそうに笑っていた。メモリアもまた、先ほどまでの退屈そうな表情が消え、とても楽しそうにその口元を歪めた。





あとがき

 メモリアについて情報がどんどん出てきていますね。それにラグナの幻覚のようなもの、あれは何でしょうかね?



 

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