出発は思いっきり派手に⑨

「おはよーお兄さん。もう始まってる?」

「おはよう。ちょうど今、始まったところだよ」

「そっか。だったら聞くけど、具体的に何をするの?」

「そうだねー。まず、今回の計画で一番の目的は、永久機関の破壊だよ」





「これを破壊するのは大前提だからねー。おっ来た来た。人数は……10人もいねぇじゃん。危機感ないなぁ」


 兵士たちは皆突然の出来事に驚きながらも侵入者を排除すべく攻撃を仕掛けてくる。その表情には恐怖と困惑が見て取れた。何せその侵入者は行方不明になった第一王子そっくりなのだから。

 溜息を吐きながら彼は、一瞬で衛兵たちのもとへと接近すると、首を斬り、心臓を突き刺し、確実に一撃で殺していった。


「あ、ミスったまだ生きてる。即死させなきゃ痛いよねーぐさー。はいおっけー」

「うーん。上のほうは結構人いるけど、地下は皆無だね。楽だからいいんだけどー。よし、速攻で取りにいこ」


 彼は衛兵に遭遇するとすぐさま斬り捨て、地下の永久機関へと走っていった。





「永久機関の破壊って、できるのそれ?」

「まぁ普通には無理だね。ヒトの力はどうやっても破壊不能だろうね。なんせ神が創ったものだからね」

「ということは……お兄さんの歪みの力なら?」

「うん。とはいえ、簡単ではない。色々順序が必要なんだよねー。まず――」





「よし着いた。仕込みは……お、完了しているね。ぼくの力で供給部分にほんの少しズレを作って、エネルギーを過剰に貯蓄させる。で次は『歪め』」


 彼は永久機関に触れると、無理やり装置から引きはがした。


「よし、暴走は防げたね。せっかく準備したのにこんなところで台無しにするわけにはいかないからね。さてと、王室に向かいつつ、何人か殺していくとしようか。あ、そうだ。部屋にこもってるやつはきっちり見つけていかないとね。王族はまだ殺すわけにはいかないしね」





「そんな感じでエネルギーを貯めて、外側からズレを作ると同時に内側からエネルギーを放出させることで爆発させるってわけだね」

「なるほどーちなみにその威力は?」

「普通にやったら、この国は丸ごと消し飛ぶんじゃないかな? ま、そうならないように色々やったわけだね」

「もしかしてあの城の歪み?」

「そ。あれの効果で、ヒトもエネルギーも城の付近から出ないようになってるよ。城以外には被害は一切ないだろうね。多分」

「いや多分って何⁉」

「ぼくもこれやるの初めてだからね。確証はない。でもまぁ保険は用意してあるから問題はないはずだよ」

「保険って?」





「よし。ちょっと仕込みを追加してみたけどいい感じじゃないかな? これなら爆発の影響もいい感じになるだろうし。っと誰かいますかー? いますねー? じゃあ入るねー?」

「ヒッ、こないでこないでー!!」

「はいはいそんなに脅えないでね。君を殺すのはもう少し後だからさ」


 彼は、部屋にこもっている人間を見つけると捕まえて、ドアへと放り投げた。するとその人間たちはワープし、王室へと運ばれていった。


「今ので最後かな? いやー疲れた疲れた。あの中で何人くらいはぼくのことに気づいたかな? みんな脅えてたけど、どうなんだろうなー」

「そういえば何人殺したっけ? 遭遇した奴らは全員殺したから……まぁ50は越えてるだろうし問題ないか。じゃあ行こっか」





「簡単に言ってしまえば、たまっているエネルギーを爆発以外にも使うってことだね。いわゆる演出だね。ただ爆発するだけなんて、面白くないでしょ。っとそろそろかな? 目をそらさないようにね」

「うん。わかったよ」





「さてと……よし。さすがに緊張するね。リハーサルなんてできるわけもないぶっつけ本番なんだから当然なんだけど。ま、どうにかなるか」

「行こうか『歪め』」


 その瞬間、彼は王室へとワープした。そこには現状に脅え困惑する城に住む人間たちがいた。彼らは突然現れた彼を見て誰もが信じられないようなものを見る顔をしていた。そして、王様と思しき人間が口を開いた。


「お、お前は、クレアシオンなの、か?」

「えぇ、そうですよ。お久しぶりです。お父様、それにみんなも。元気にしていたかい? ぼくは見ての通り最高に元気だよ」


 その場の雰囲気には場違いの屈託のない笑みを見せる彼に、誰もが恐怖を感じた。


「さて、まずは説明すべきだよねーぼくがなぜこんなことをしているか――やっぱいいやめんどくさいし。君たちは今日死ぬ。それが分かっていれば十分でしょ?」

「……さすがに死ぬ理由くらいは教えてあげておいたほうがいいか。ここがぼくの出身地だから。ぼくが出発するために、進んでいくために、ここは壊さなきゃいけないんだ。ここが残っていると、クレアシオン・リスタルトは、本当の意味でぼくになれないんだよね」

「だから死んでくれ。ぼくのために、世界のために。これで説明は十分だよね?」


 誰も何も言えなかった。その言葉に一切冗談がなく、本気で殺そうとしていることを理解できたからだ。何人かが嘔吐しているのも見て取れた。


「黙ってるってことは問題ないってことだね。それじゃあさっそく始めようか。これ、何か分かるよね?」


 そう言って前に向けた右手に出現したのは碧く輝く球状の物体。そう永久機関だ。


「見ての通り、永久機関だよ。今からこれを爆発させる。あぁ、安心してくれていいよ。爆発するのは城だけで国は巻き込まないからさ。死ぬのは君たちだけだからさ! ハハハ」

「というわけで早速こいつを爆発させようと思うんだけど……あ、忘れてた聞かなきゃいけないことがあったんだ」


 彼は、真正面に座っている王様に視線を向けると、先ほどまでの笑顔を消し、表情のない顔で近づいて行った。


「ねぇお父様。後、みんなも。5年前、ぼくがここを出ていったとき、あなたはどう思ったんですか? 何を感じたんですか? 答えてくれます?」

「何をって……心配だったというか、いつ帰ってくるのかとか……」

「怒ったりはしなかったんですか?」

「え?」

「あぁ、もういいです。その反応でよくわかりましたよ……まぁ当然だよね。こいつらに怒りなんて機能は存在していないんだから。怒っているってのが分かったら、もっと前に叱ってくれていたら、ぼくはこうならなかったかもしれないって、思ってたけど、そんなことありえないよね。本当に、馬鹿な考えだったな」


 いつも浮かべているものとは違う皮肉気な笑みを浮かべ、彼は振り返り王室の中心へと歩いて行った。到着すると永久機関を真上へと投げ飛ばし、右手を高く上げた。


「さようなら、みんな。さようなら、クレアシオン・リスタルト。尽く歪め、全て消え去れ。ぼくの手で『ディストーション』」


 その瞬間、全ての景色が消え去り、爆音が鳴り響いた。





「わぁ!! すごい! すごいよお兄さん。こんなの初めて見た!!」


 ユウナは興奮しながら声を上げた。それも当然だろう。突然王城が白い光で包まれたかと思うと、とてつもない爆音が国中に響き渡ったのだから。その爆発はそれだけでは終わらず、その光が凝縮したかと思うと、空へとレーザーのように飛んで行った。そしてその光は世界中へと飛び散り、星全てを包み込むような巨大な花火が打ち上げられた。


「ハハハ! 最っっっ高だ! 予想以上だよこんなに綺麗になるなんて。あぁ、本当に、良い。始まりにふさわしい爆発だったよ!」


 国中が、それどころか世界中が混乱に包まれようとしている中で彼はただ笑った。どこまでも楽し気に。ひとしきり笑った後、彼はいまだに興奮しているユウナに向け話し始めた。


「さて、これでぼくの計画は終了だ。この後ぼくは次の国に行く。君はこれから、とてつもなく苦労することになる。永久機関が壊れ、王族が消え去った今、この国は今まで経験したことのないことばかり味わうことになるだろうね。君はこんなことをしたぼくを、恨むかい?」

「恨む? あははは。そんなことあるわけないでしょ! お兄さんのおかげで私はこの5日間ずーーーっと楽しかった。これから先の人生も楽しみでしかないんだから。わたしはお兄さんに感謝以外何もないよ!」

「そうかい。じゃあぼくはいくよ。君もこれから頑張ってね」

「うん! 頑張ってね。お兄さん……あ! ちょっと待って!」

「ん? なんだい?」


 ユウナは言い忘れていたこと、聞き忘れていたことがあったことに気づき彼を呼び止めた。


「わたしの名前は、ユウナ・シュレイです! お兄さんの、お兄さんの名前は!」

「……あぁ、名前、名前か! ぼくとしたことが本当に大事なことを忘れていたね。さて、どうしようか。あの名前を使うわけにはいかないし、どうしようかな」

「あれ? 聞かないほうがよかった?」

「いや逆だよ。そうだね、これからのぼくを象徴するような、決意を込めるような、ぼくを示す名前……よし、決めた」


 彼は、ユウナの目を見、笑顔を向け、宣言するようにその名前を口にした。


「『ラグナ』ぼくの名前はラグナだ。どこかの神話の終末戦争とかだったかな? そこからとらせてもらったよ。今の世界を終わらせ、新たな世界を創る。ぼくにあった名前だとは思わないかい? たった今考えた名前だけど、よかったら覚えておいてね。それじゃあ改めて、またねユウナ」

「うん! またいつか! ラグナお兄さん!」


 ユウナはラグナの背中が見えなくなるまで手を振り続けた。これからの未来が、間違いなく面白いものになることに信じて。





 あの日の事件から1か月が経過した。あれ以来国は当然のように混乱に包まれていた。いや、国どころか世界中に激震が走っていた。1000年間の平和が突然崩れたのだから当然ではあるだろう。

 国は、政治も産業も何もかもが大混乱。電気が止まることがあったり食料が安定しなくなったり、今までなかったことばかりだ。

 かつて城があった場所には先の見えないほど深い巨大な穴ができており、最近の話題はそれをどうするかで持ち切りだ。大多数の意見は城を再び建造すること。今まで変わってこなかったものが変わることを恐れているのだろう。

 ユウナはそんな日々の中でもどこまでも楽しそうに笑っていた。今まで経験したことがないことばかりで何もかもが面白い。だからこそ、元に戻ろうとする多数派には真っ向から反対していた。お兄さんは変化することを望んでいた。事実、お兄さんは今も、ほかの国で色々やっていると噂になっている。それに新しいもののほうがきっと面白いと思っているから。


(あぁ。本当に楽しいな。ずっとずっと知らないことばっかり。もっと楽しみたい。もっと知りたい。それなのに、なんでみんな過去に戻ろうとするんだろう。神様の影響かな? 面白くない神様だなー。絶対そうはさせないから。わたし、頑張るよお兄さん。だからお兄さんも頑張ってね)


 ユウナは決意を示すように右手を上にあげ、空を見上げる。雲一つない青空が目の前に広がっていた。





あとがき

 更新したくなっちゃったので更新です。これで、一章は終わりになります。ユウナは一旦お別れになりますが、必ず再登場しますので安心してください。

 それでは、第二章『たとえ未来が決まっていようと』でお会いしましょう。


 

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