出発は思いっきり派手に⑧
2時間ほどたち、ユウナは目を覚ました。
(むにゃ……よく眠れたな。さすが王城の布団って感じ?)
「おや、起きたかい? おはよう、よく眠れたようだね?」
「うん、おはよー。どれくらい寝たのかなわたし」
「2時間くらいだと思うよ。外の時間では」
「ん? どういうこと……この部屋、もしかして時間の流れがゆっくりになってるの?」
「せいかーい。この中では6時間くらいたってるかな? まぁぼくの力じゃ加速も減速も長時間維持させることはできないから、そろそろ切れるよ」
そう言った瞬間、ぐにゃりと一瞬景色が歪みすぐに元へと戻った。
「このレベルの歪みだと普通の目でも認識できるね。気を付けないとだね。じゃ、家仕舞うから出てくれるかい?」
「うん、わかったよ」
「『歪め』よし。さて、この後はどうするかい?」
「んーそうだな……神様の力について他に知ってることがあれば聞かせてくれる?」
「かまわないよ。ぼくが知ってる神様の力は、5つくらいあるかな。まず――」
それからの日々は、永遠のようにも一瞬のようにも感じられるほど充実した時間だった。お互いに聞きたいことを聞き、話したいことを話す、ただそれだけ、それだけのことがどこまでも楽しいと思えた。そして、お兄さんと出会ってから4日が経過した。明日、お兄さんの計画が始まる。
「明日、計画を実行するよ。君のおかげで退屈せずにすんだよ。本当にありがとう」
「それはこっちのセリフだよ。色々なことを教えてくれてありがとう、お兄さん」
「そうかい。明日もここに来て城のほうを見ておくと良い。きっと、最高に面白いものが見れるから。ぼくもここにいるからね」
「うん、わかった! じゃあお兄さん、また明日!」
「うん。また明日」
(楽しみだな。いったい何が起きるんだろう。お城、爆発でもするのかな? でも、ただ爆発するだけなら最高に面白いとは、お兄さんは言わないだろうし、あー気になるなー)
「みんなはどんなことが起きると思う?」
一応聞いてみたが、やっぱりわからないらしい。ただ、みんなも何が起きるか楽しみにしているようだ。
「よし、明日のために。しっかり寝よう。それがいま私がすべきこと!」
明日のことは気になりつつも、ユウナはいつもより早めに就寝した。
「いよいよ明日だね。覚悟は……もうとっくにできてるか。頑張ってね」
『それはこっちのセリフだよ。ぼくが頑張るのは明日までで、これから先はずっとそっちが頑張り続けることになるんだから』
「わかっているさ……台本は、完成したのかい?」
『なんとかね。完璧とは言い難いけど、まぁその辺はノリと勢いでごまかすさ』
「そうかい。楽しみにしてるよ、最高の舞台を見れることを」
『任せたまえ。一世一代、文字通り最期の舞台だ。全力で楽しむし、楽しませてみせるよ』
彼は、
『あぁ、明日は間違いなくぼくの人生で最高の瞬間になる。ぼくの全てはこの瞬間にあったのだと、そう思うよ」
「そうかい……これ以降はもう一切通信は行わない。何か言いたいことはあるかい」
『別に。何も言う必要なんてないだろう?」
「それもそうだね……バイバイ、ぼく。いや、クレアシオン・リスタルト」
『あぁ、いってらっしゃい。名もなきぼく』
朝、衛兵たちは今日も城門の前にいた。侵入者なんているはずもないが伝統として衛兵の仕事は残っていた。ただ立っているだけの仕事ではあるが、割と給料はあるため、彼らはだるそうにしながらも職務に取り組んでいた。
「ん? おーいそこの君。王城に入るには正門ではなく、あちらの横門からだぞ。何をしている?」
その日はいつもと違い、何者かがそこに来ていた。銀色の髪に、青色の目を持ち、豪華な服装をした人間が。
「いやちょっと待てお前、あの髪にあの服装、どこかで見たことが……え? いやまさか、あの人」
「なんのことだ? 確かに、王族の服に似ているとは思うが」
「気づかないのか⁉ あの服は、というかあの人は、成長してるけど間違いなく、5年前に行方不明になった第一王子――」
「正解だよ。でも、少し気づくのが遅いんじゃないかな?」
その人間、クレアシオン・リスタルトは、一瞬で二人の衛兵の間へと接近していた。その両手にはいつの間にか白と黒の双剣が握られていた。そして、彼等の間を通り過ぎる瞬間、その首を切り落とした。
「さぁ、始めようか。何人殺せば足りるかな? 50人くらいだったらいいんだけどねー」
あとがき
次回で一章は最終回です。思いっきり派手にスタートを切っていきましょう。
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