出発は思いっきり派手に⑦

「おはよー!! お兄さん。さぁ、今日も楽しもー!」

「おはよ。なんかテンション高くないかい? 何かあった?」

「別に何も。ただ、そう気合いが入ったというか、頑張ろうって思ってるというか、まぁそんな感じ?」

「なるほど? ま、いっか。さてと、聞きたいことは決まったかい?」

「うん! みんなについてなんだけど……」

「おや、ちょうどいいね。彼らについてぼくも話したいことがあったんだよね」

「え⁉ そうなの?」

「あぁ、彼らを認識できる方法がないか調べていてね。目途が立ってきたんだよ」

「そう! そのことを聞きたかったのわたし!」

「そうなのかい? 実にタイミングがいいね」


 同じことを考えていたことが分かり、なんとなく笑顔を交わした。


「みんな、誰かと話したいと思ってる。誰かと関わりたいと思ってる。そう聞いたんだ。お兄さんが知ろうとしてくれてるのも、みんな喜んでた」

「……そうかい。なら、頑張ったかいはありそうだね。色々やってみたんだけど、今すぐ世界中の全員が彼らを認識するってことにするのは無理みたいだ。だけど、ぼく一人であれば、多分できる。ちょっと待ってね」


 そう言うと彼は自らの顔に手を当て、呟いた。


「理論上はこれでできるはずだ。『反転しろ』……お、できたみたいだね」

「本当に?」

「うん。ぼくの目の前に右から緑色、青色、赤色の妖精ちゃんがいるね。やっほー」

「すごいすごい! あってるよ! 本当に見えてるね、お兄さん」

「うん。でも、まだ不完全なんだよねこれ」

「え? でも見えてるよね」

「見えてるだけなんだよ。声は聞こえないし触れることもできない。それに、いまぼくは妖精たちを認識してる代わりに、普通の人間が見えなくなってるんだよね」

「さっき言ってた、『反転しろ』っていうのはもしかして」

「そう、ぼくの認識を反転させた。見えないものを認識し、見えるものを認識できなくするって感じでね。『反転しろ』」

「両方を同時に認識できるようにしたいんだけどね……どうも難しいんだよね」

「なるほどー。それって、聴覚なんかも反転出来るの?」

「もちろん。とりあえず今日はこれについて色々実験したいんだけど、付き合ってくれるかい?」

「うん。もちろん!」


 数時間後……


「……うん。疲れたね、本当に」

「……うん。疲れた。しばらく寝たいよ」

「同感だよ。ご飯食べたらちょっと寝ようか。はいどーぞ」

「ありがとー。あむ」


 実験自体はかなりうまくいった。同時に認識するとまではいかないが、なんとなくその辺にいる気がするといった程度ではあるが、知覚できるようになった。とはいえ、かなり強く意識しないとわからない程度の感覚なため、まだまだ改善の必要はあるだろう。

 彼らが疲れているのは、ユウナ以外にも認識してもらえることにテンションが上がりすぎた妖精たちが馬鹿みたいに集まってきたからだ。


「あー言うのを数の暴力っていうんだね。視覚だけ反転させた状態で話しかけられても何も聞こえないはずなのにすごくうるさかったよ」

「すごいよね。あむ。わたしもあんなにテンションが高いのを見るのは初めてだよ。いや、わたしが初めて話しかけた時もあんな感じだったかな? あむ」

「でもまぁ、やる気は出るね。こんなに喜んでくれるんだから」

「そうだねー。あむ。頑張ろうって気になるよね。あむ……ごちそうさま。おいしかったよ!」

「それならよかった。それじゃあ軽く仮眠するとしようか」


 彼は、手を前に向け、目をつぶると小さくつぶやいた。その瞬間一般的なサイズの一軒家が出現した。


「『歪め』よし、家くらいならこれで出せるね。入っていいよー」

「いやいやいやちょっと待って? なんで家一つが丸ごと入ってるの?」

「なんでって。外で野ざらしで寝たくないでしょ?」

「それなら普通テントとかじゃない?」

「そりゃそうだけど……できるならやるでしょ」

「……そっか。お邪魔します。一応聞くけど、これほかの人からはどう見えるの」

「当然認識できないよ。触れることもできない。いやー本当に便利だね。あ、そこに布団入ってるからねー。じゃ、おやすみー」


 ユウナは半ば思考を放棄しながら布団へ入った。家のものよりだいぶふかふかしている気がした。


「お兄さん、これいくら?」

「さぁ? 王城から盗み出したものだからわかんないや。多分高いんじゃない?」

「……そっか。おやすみ」


(お城から盗んだんだこれ。というかお城ってベッドじゃないの? まぁいっか気持ちいいし、寝よう)





あとがき

 書きたくなったので更新です。家って持ち運べたら便利ですよね。


 

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