出発は思いっきり派手に⑥
「あれ? もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと」
あれから、のんびりしながらいくつか話を聞かせてもらった。世界の記録をしている存在がいるという話だったり、戦争のときに活躍した不死身の英雄の話だったり、ヒトの魂を吸収する力を持った怪物の話だったり、ほかにも色々な話を。
「そっか。じゃあバイバイまた明日。ぼくはここにいるから」
「うん。また明日!!」
ユウナは駆け足で家に帰っていった。友達のみんなと話すのは当然楽しいけど、お兄さんと過ごした今日はここ最近で一番楽しかった。
(明日も楽しみだな。明日はどんなことを知れるのかな?)
「みんなはどう思ったの? お兄さんのこと。わたしはもっと話したい。もっと知りたい。お兄さんのこと、お兄さんの知っていることをもっともっと理解したいと思ったの」
ユウナの周りを飛びまわている友達は、一斉に話し始めた。
「怖い、優しそう、不思議、変人、狂人、強そう、面白い、すごい、辛そう、楽しそう、かっこいい、かわいい……何というか、見事に意見がバラバラになってるね。一日だけじゃはっきりとなんてわからないよね」
そんなバラバラな意見の中でもみんなに共通していることがあった。それは『私たちを知ろうとしてくれているのが嬉しい』こと。
「そっか、みんなって私以外は見えないどころか認識すらしていないんだよね。お兄さんは、みんなを見ようとしている……みんなってどうやったら認識できるようになるの?」
そう聞いてみるが、誰も正確なことはわからないらしい。そもそも、1000年前は誰もが自分たちの姿を認識していたし、なぜか突然誰もから忘れ去られたと。
「なるほど……神様が、やったのかな」
その予想は正しいだろうと何となく理解できる。ということは……
「お兄さんが力をうまく使えば、みんなも見えるようになるのかな?」
多分、いや絶対できる。そんな気がした。
(明日、お兄さんに聞いてみよっか。楽しみが増えたな)
「あっ着いた。ただいま―お母さんお父さん!!」
「おかえりなさい。今日はずいぶん長い時間外にいたわね。お腹すいてるわよね?」
「うん。今日のご飯、楽しみー」
いつもと変わらない、当たり前の日常。これがもうすぐ終わるんだと。ユウナは理解している。
(お父さんもお母さんもこの平和が終わるなんて考えてもないんだろうな。当然、だけど。もうすぐ死ぬほど辛い目にあうかもしれないなんて伝えても信じてなんてくれないだろうし……)
いつもと同じ幸せな景色を眺めながら思う。
(お母さんもお父さんも大切な人。辛い目になんてあってほしくない。でも、お兄さんの行く先を邪魔したくなんてないし、叶うのならば見届けたい。わたしは……この好奇心に身をゆだねてみたい。『好奇心猫を殺す』なんて言うけど、好奇心で死ぬのならそれはそれでいいよね。わたしは、わたしの生きたいように生きてみよう)
「おやすみ、お父さん、お母さん」
(きっと二人とも、怒……らないだろうな。怒れないんだろうな。それはすごく、悲しいな。わたしはわたし以外に止められない。二人は止めてくれるはずなんてないし、わたしが止まる気がない以上、私は前へと進み続けるんだろうな。それこそ、死ぬまで)
布団の中で一人思う。これからのことを。
(これから先何が起こるか。わたしには想像なんてできないことなんだろうな。でも、楽しみだな。きっとこの先の人生はつらいこと以上に、面白いことがいっぱいだ。絶対に人生を楽しんでやる)
明日へのワクワクと、未来への決意を胸に抱きユウナは眠りに落ちた。
「……聞こえているかい? 準備は大体終わったようだね。お疲れ様」
『うん終わった終わった。あとは細かい仕上げだけだね……ずいぶん楽しそうだね。うらやましいよ』
「そっちはそっちで楽しんでるでしょ。それに、主役はそっちなんだから、気合い入れていきなよ?」
『わかってるって。あ、そうそう。認識できないものを認識する方法について、いくつか思いついたことがあるよ』
「本当かい? ぼくの方でもいくつか考えてることはあるから、いい結論を出せるように、頑張っていこうか」
『そうだね。楽しんでいこうか』
あとがき
ユウナのキャラがはっきりしてきたのではないでしょうか。それと、主人公の分身? しっかり人格があるようですね。どういうことでしょうかね。
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