出発は思いっきり派手に⑤

「なんでぼくが神様の力を持っているか、聞きたいよね?」

「うん。もちろん!」

「おっけー。神様は世界から進む意思を奪ってしまった。当然だけどそれを望まない存在はいたんだよね。今もぼくがいるわけだしね。とは言え、神が相手だからね大抵のヒトは抗う間もなく消されるか、その意思を奪われるかしていなくなっていった。だけどね、それを最も望まないある存在がいたんだよ。その存在が、神から力の一部を奪ったんだ」

「その存在っていうのは、何?」


 ユウナは何を言ってるのかわからないと言いたげな顔で首を傾げた。


「えぇっと、お兄さん。よく聞き取れなかったからもう一回言ってくれる?」

だよ」

「それは……世界っていう名前の人ではなくって?」

「言葉の通りの世界だよ。より正確に言うならば『世界の意思』だ」

「世界に意思があるの⁉」

「うん、あるんだよね。ぼくも直接会うまでは信じられなかったよ」

「へぇ、直接会ったことがあるんだ……直接会ったの⁉」


 ただでさえ?で埋め尽くされていた顔に驚愕が混ざって面白い顔になっていた。彼はそれを見て噴き出しかけたが何とか抑えて続きを話した。


「直接会った件はあとにしてだね、とりあえず世界には意思があるってことを理解していればオーケーだよ。で、『世界の意思』はね、正しい形で世界を進めていくことを望んでいるんだよ」

「正しい形っていうのは、具体的にどういう感じ?」

「生まれ、成長し、進展と後退を繰り返し、最終的に滅びる。普通に人が生きるのと同じ、当たり前ってやつだよ。それこそが正しい世界の在り方。神様が作ってしまった永遠の楽園なんて、一番望んでないんだよ。だから力を奪った。いや、返却させたって言い方のほうが正しいかな」

「返却させた? ということは、神様の力は世界が与えたってこと?」

「うん。神様ってのは『世界の意思』によって世界の管理を任じられた存在だ。今の神様もかつてはきっちり管理してたんだろうけど……まぁご覧の通りだね。神様は世界の望まぬ方向へと進んでしまった。本来は神様の能力全てを取り返そうとしたらしいんだけど、まぁ無理だったみたいだね」

「どうして?」

「それはぼくも正確な部分はわかってないんだよね。おそらく神様に能力が定着しすぎていたってことが原因だと思うんだけど、まぁそこはどうでもいい」

「取り返した能力の一部はどうなったかというと、その時代に生きる誰かがそれを持って生まれるようになったんだ。その人が死んだら、次生まれた誰かにって感じで。そういうわけで今はぼくが持ってるってわけだね」


 彼は、そこでいったん話を終えると横に手を伸ばした。そして、何かをつかむような動作をすると、その手には水筒が握られていた。それを飲み、横に投げると水筒は出てきた時のように消えた。


「さて、話を続けようか。で、いまぼくは神の力を持ってるんだけど、当然これだけが神様の力なわけじゃない。他にも力を持っている人はいる。それこそ、君のその眼も多分、神の力の一つだよ」

「え⁉ そうなの?」

「推測でしかないんだけどね、多分あってる。なんせその眼は神様の力であるぼくの認識阻害を見破ってるんだから。神の力を突破できるのは同じ神の力でしょ」

「なるほど。それは確かに納得できるね。私にも神の力が宿って……ちょっと待って。そもそもなんだけどなんで『世界の意思』は能力をばらまいてるの? この世界を望んでないっていうならお兄さんの能力使えば戻せるでしょ。なのにどうして?」

「本当に君はいいところに気づくねー。話しやすくて助かるよ。その理由は単純さ。『世界の意思』は自ら力をふるえないんだよ。あくまでできるのは力を与えることだけ。だからこそ『世界の意思』は求めてるんだよ。新たな神となる存在をね。だから能力を人々にわけ与えた。その中の誰かに、神様となりうる存在が生まれることを信じてね」

「当時には神様になりうる人材なんていなかったんだろうね。いや、いたとしてもまたこんなことを起こされたらたまったものじゃないだろうし、だから『世界の意思』は待つことを選んだってわけだね。より優れた存在を」


 彼は再び手を横に向けると次はサンドイッチを取り出した。


「食べる? 結構時間たってるしおなか減ってるんじゃない?」

「あ、うん。もらってもいいかな」

「おっけー、ほいどーぞ。好きなだけ食べるといいよ」


 ユウナはおいしそうにサンドイッチを食べ始めた。彼も食べ始め、心地いい沈黙が周囲を包んだ。少ししてから彼は話し始めた。


「いやぁ、本当に便利だね。時間も止めれるから好きなだけ食料を持ち運べる。こういう何気ない瞬間にこの能力を手に入れられてよかったと強く実感するねー」

「あむ……うん。その気持ちはよくわかる。あむ……すごくおいしいねこれ。あむ……」

「食いすぎじゃないかい? 確かに好きなだけ食べてもいいとは言ったけど」

「だっておいしいんだもん。別にいいじゃん。あむ」

「そういうところは実に子供って感じだね。かわいらしくていいと思うよ」

「そう? ありがとーお兄さん。あむ」

「うーん全く聞いてないねこれは……あ、『世界の意思』と直接会ったことについて話そうと思うんだけど、聞きたいかい」

「聞かせてお願い今すぐに!!」

「はいステイステイ。本当に君好奇心の化け物なんだね、最高だよ」


 残ったサンドイッチを消すと、楽しそうに話し始めた。

 

「そうだねーあれは、1年前だったかな? ぼくは世界中を旅してたんだよね、5年くらい。それでぼくは様々なヒトに出会い、国を見た。性格や姿形、文化や歴史、当然それぞれに違いがあった」

「だけどね、誰も、進もうとしない。変化しようとしない。そこだけはどの国にも共通してたんだよね。そのことに気づいたぼくは思ったんだよ。このくだらない世界をぶっ壊してやりたいって。もっと面白い世界に変えてやりたいって」

「で、全ての国を巡り終えた時だったかな。何か声が聞こえたんだよね。直接脳内に。それに導かれて、あるものを見つけたんだ」

「なにを、見つけたの?」

「巨大な石板だよ。今までぼくはその道を通ったことがあった。だけど気づけなかった。声を聴いて初めてそれを見つけたんだ。それでそこには本に書かれていたものとは全く違う、正しい歴史ってやつが刻まれていたんだ」

「そしてぼくはその石板に触れた。その瞬間、ぼくは今まで見たことのない空間にいた。なんというか言葉に表そうとしても適切な表現が存在しないような不思議な空間だったよ」


 彼はその時の光景を思い出す。そこには全てがあるようにも、なにも存在しないようにも感じられた。ただ、目に映る何もかもが等しく歪んでおり、どこまでも現実感がなかった。

 

「そして僕は出会った。『世界の意思』と。どう説明するのが適切なんだろうね……基本的にあれはヒトと話すことなんてないし、直接話すことなんて人生で二回目とかなんだろうから仕方ないんだろうけど。うん、まぁ疲れたね。色々な意味で」

「いやまぁそこはどうでもいいんだ。ぼくはそこで世界の事実を知った。今日君に話したことの大半はこの時知ったことさ」

「さて、『世界の意思』についても大体話し終えたわけだけど、なぜぼくが『世界の意思』に会えたのかは説明していなかったよね。なぜか、分かるかい?」

「……お兄さんは、世界に対して違和感を抱いていた。そして神様の力の一部を持っていた。つまり、新しい神様にふさわしい人間だったから。だよね?」

「正解。ま、ぼく以外にも神候補ってやつはいるから、ぼくが確実に神様になるってわけではないんだけどね」

「ねぇ、お兄さんは、神様になりたいと思ってるの?」

「そうだね……どちらでも構わないかな。この世界を変えるために必要なんだったら神にだってなっても構わない。だけどぼくは、人間としてのぼくの力でこの世界を変えて見せたいんだよね」

「神様を、人間の力で越えてみたい。ぼくは『世界の意思』と話して、そう思ったんだよ」


 そういった彼の顔はどこまでも未来さきを見ているようだった。無茶無謀としか言えない思い。だが、本当にできるんじゃないかと思わせるような雰囲気を纏っていた。


「ふぅ、ちょっと疲れたね。ぼくに関することはほとんど話した気がするね。まだ聞きたいことはあるかい?」

「うーーん……すぐには思いつかないや。まぁいっか。お兄さん、5日くらいはここにいるんでしょ? まだまだいっぱいお話しできる時間はあるんだし」

「それもそうだね。それじゃあのんびり過ごすとしようか」

「うん。のんびりしよー」


 それから夜になるまで二人は特に何かをするでもなくだらだらと時間を過ごした。





あとがき

 主人公はいわゆるアイテムボックスみたいに大量の荷物を持ち運んでいます。時空間を歪めてそういう空間を作ってるって感じです。

 明日からゴールデンウィークで、暇なため更新頻度を上げていこうと思います。可能なら毎日更新していく予定ですのでよろしくお願いします。



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る