出発は思いっきり派手に④
「ん? 今、城が歪んだような……何か、起きたのかな?」
「おや、気づいたのかい? 本当にいい眼をしているようだね」
「お兄さんが何かしたの? ここにいたのにどうやって?」
「さぁ? どうやったんだろうねぇ」
(別に能力について教えても問題ないんだけど……この子ならすぐに気づきそうな気もするよねー)
「むぅー気になる……普通に考えればここにいたまま私に気づかれず何かしたってことになるけど、私のこの目が気づけないとは思えないし、それはないかな。じゃああの城内で何かしたってことになるから、協力者がいる? いや、いないかな? いたとしたら何かしら連絡をしてるだろうし、それに気づけないなんてことはないし……分身とか? それなら私に気づかれずに色々できるよね。いや、時限式の仕掛けをしてた可能性もあるし……わかんないです」
(すぐ気づきそうとは言ったけどさぁ……推測早すぎないかい? というか当たってるし、この子本当にやばいな。うん、能力を隠す意味はなさそうだね。すぐにばれそうだしねー)
ユウナの勘の鋭さに驚きつつも表情には出さずに、口を開く。
「何をしたかについて教えてあげてもいいけど、聞きたいかい?」
「聞きたいです! 教えて下さいさぁ早く!」
「おっけーわかったから落ち着いてね。何をしたか。まぁこれを見てもらうのが手っ取り早いかな」
彼はそういうと、周囲に目を向け空に鳥が飛んでいるのを確認するとそれに手を向け呟く。
「よく見ててね。『歪め』」
彼がそう言った瞬間、鳥はその場から動かなくなった。いや、動いてはいる。羽をはばたかせ、前に進もうとしているように見えるが、なぜかその地点から一切進んでいないのだ。
「え? 何が起こって……あ! 空間が、ねじ曲がってるのかな?」
「うん、そうだね。あの鳥は今、前に進んでいるんだけどその瞬間に元の位置に戻り続けているって感じかな。これと似たようなものを、あの城にも仕掛けたんだよね。君がさっき見た空間の歪みはそれだね」
彼は再び鳥に手を向け呟くと、鳥は解放されどこかへと飛んで行った。
「今のが、お兄さんの能力? 空間を歪めたの?」
「そ。ぼくの能力は、空間や認識、あらゆるものを『歪める』力。君以外の人間がぼくを認識できないのもこれが理由だね。空間や認識を歪めることでぼくという存在が目に入らないようになってるんだよ」
彼は近くの木に手を向け手を握ると、その瞬間その木は消え去った。少ししてから手を開くと、何事もなかったかのように木は元に戻っていた。
「とまぁ、大体こんな感じだね。解釈次第ではもっといろんなことができる。とても便利な能力だよ」
彼はそこでいったん口を閉じると、さっきまでの楽しそうな表情とは正反対のつまらなそうな表情に変わり話を再開した。
「この能力、やろうと思えば認識を歪ませることで歴史の違和感を誰も気にすることがないようにしたり、ヒトから悪意を消したりすることができちゃうんだよね」
「え? それってさっきお兄さんが言っていた、神様がしたっていう……もしかして、その力って」
「君の予想通りだよ。この能力はね、元々神様が持っていたものなんだよ」
真夜中になっても、彼は城の屋根に寝転がりながら、何かを呟いていた。その内容は何かの詠唱のようだった。その視線の先にあるのは満天の星空の中でも一際目立つ星。
「全て歪め。全て消えろ。『ディストーション』」
その瞬間、その星は突然消え去った。本来なら星が消滅してから実際にこちらがそれを認識するまでは時間差があるはずだが、そんなものは関係ないとでも言うかのように、星は完全に消滅していた。
(丸半日くらい詠唱すれば、星ひとつでさえ消せるのか。ぼくじゃなく神様が使ったら一瞬で消せるだろうし……はぁ、本当に滅茶苦茶な力だね。まぁ神の力なんだから当然と言えば当然なんだけど)
彼は大きくため息を吐くと、自らの手のひらを見つめ考える。
(やろうと思えばこの世界なんてわりと簡単に滅ぼせるんだよね。あれがぼくにそうさせたいのは分かってるし、その気持ちはよく理解できる。でも、やっぱそれじゃあ面白くないよね)
「どんなことも楽しまないと。そうじゃなきゃ、意味なんて無いから」
(そのためにこんな回りくどいことしてるんだから、休憩は終わりにして台本作りに戻らなきゃだね。最高に楽しむためにも。うん、がんばろ)
あとがき
今回で主人公の能力は大体わかったのではないでしょうか。一つは、あらゆるものを歪める力。もう一つは分身のようなもの。歪める力に関しては本文に書かれている通りで割と何でもできます。分身に関しては詳しいことはもう少し先になりますが、厳密にいえば分身ではありません。あくまで分身は力の副次的な効果です。と今は言っておきましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます