出発は思いっきり派手に③

「永久、機関……本当に、そんなのがあるんだ」

「うん、本当にそんなのがあるんだよね。どういうものか簡単に説明すると、必要な分のエネルギーが永久的に供給され続けるって感じかな。そのエネルギーを好き勝手に使うことはできない。まぁこの世界にそんなことする奴が存在するわけはないんだけど……悲しいねー」


 彼は、残念そうな表情をしながらわざとらしく溜息を吐く。


「まぁまとめるとだね、この世界は神様によってヒトから争う意志、理由を奪った結果平和になった。その代償として、この世界は変化することがなくなってしまったというわけだ。で、ぼくはこの世界を正しい在り方に戻すために、色々やろうとしているって感じだね。理解できたかい?」

「うん、大丈夫。教えてくれてありがとう、お兄さん」

「お礼はいらないよ。ぼくが話したいから話してるだけだしね。さて、約束通り次は君の話を聞かせてもらうよ」

「いいけど、何を話せばいいの?」

「んーそうだね……じゃあまずは君の言うについて聞かせてくれるかい? ぼくの予想では、君の目だけが見ることができる存在。例えば……妖精とか幽霊とかだと思ってるんだけど、あってるかい?」


 ユウナは、とても驚いたような表情で彼を見る。予想は当たっていたらしい。


「すごい! なんでわかったの? お兄さんもみんなのことが見えてるの?」

「いや、見えるわけではないよ。ぶっちゃけただの推測なんだけど……君がぼくのことを認識できていたから、認識できない存在を見ることができる目でも持ってるのかなーって思ったんだ」

「あーやっぱりお兄さんって、ほかの人からは見えてないんだね。てっきりみんなの仲間かなって思ってたんだけど違うんだ。私の目みたいに、姿を隠すような力を持ってるの?」

「まぁ大体そんな感じだね。質問に戻るけどその目は昔から持っていたのかい?」


 彼はユウナの目を興味深げに見つめる。ユウナの目は彼女の好奇心を表すかのように、金色に輝いていた。


「えーっと、うん、昔からというか多分生まれた時から見えていた気がする。話しかけてきたりもしてたかな? 私からみんなに意思を伝えたりすることもできるよ」

「なるほどね、彼らはぼくのことをどう認識してるんだい?」

「似ているけど違うって言ってるよ。どこが似ていてどこが違うのかな? 他には、ヒトだけどヒトっぽくないとか、男か女かわからないとか、目の前にいるはずなのに別の場所にいるように見えるとか、底知れない現在いまへの憎悪と先見えない未来あすへの期待を同時に感じるとか……お兄さんってホント不思議なヒトなんだね。もっと知りたいな」

「知りたいっていうなら別に何だって教えてもいいけど? にしても、彼らはぼくのことをよく見ているみたいだね」


(この感じは、彼らには神の影響はないのかな? 世界に直接影響を与える存在ではないからか、一般人が認識できない存在だからか、まぁなんであれ彼らはぼくにとっては、有用な存在みたいだね……直接話す方法ないかな? ぼくの認識を歪めるか、それとも世界のほうを歪めるか……時間はあるし実験してみるか)


「え? 聞いていいの? なんでも?」

「常識の範囲内で頼むよ? 君下手したらとんでもないこと聞いてきそうだから」

「わ、わかってる。わかってるからそんな目で見ないで? 傷つくから!」





 彼は、地下で永久機関を見つめていた。


「さーて、どうしよっかなー。細工はこれでほぼ終わったわけだし、待機する以外何もすることがないわけだけど……いや、もっと派手にしたいね。最初なんだから。とはいえどうするのが面白いかな。爆発させるのは前提だから、物理的演出はこれで割と十分なんだよね。だったら概念的というか精神的な部分を追加すれば……あっそうだ、あいつらに会いに行けばいいか。うん、それが面白そうだね」


 彼は口元をいつも以上に楽しげに歪めた。


「出発するんだったら、を言わなきゃいけないよねー。さてと、準備しよっか。いやー実に楽しみだね」


 彼は、地下から出ると、城の上部へと歩を進めた。そして、厳重に鍵のかけられている倉庫の前に着くと、当たり前のようにその鍵を開け中へ入った。その中には様々な武器があり、その大半はほこりをかぶっていた。そのうちの一つに彼は手を伸ばした。それは白と黒の包丁を巨大化させたような、鈍く輝く双剣だった。


「君たちは、ぼくが使わせてもらうよ。これから恐ろしい数の人間を君たちで斬ることになると思うから楽しみにしていてね」


 その言葉に反応し、双剣は喜ぶかのように輝きを少し強めた。


「他のみんなも、ぼくに使われてくれるかい? 君たちがこの世界からただ消えるなんて言うのはもったいないからね。さぁ、行こうか」


 そう言って彼は武器たちに手を向けると、それらはその手に吸い込まれるかのように集まり、消滅した。


「よし、オッケーだね。次は、あそこにいこっかな」


 彼は更に、城の上部へと上がると王室の中へと入った。人はいるが、やはり誰も気づかない。彼は部屋の中心部付近に移動すると床に触れた。


(えーっと、イメージ的には城内のあらゆる扉をここに繋げる感じかな? で、こちらからは出られないように空間を捻じ曲げてっと……これでオッケーだね。これをちょうど5日後の朝ぐらいから発動するように設定して、『』)


 その瞬間、時空間がズレたかのような違和感が発生し、その違和感は城全体に広がった。


(お、できたできた。これくらいだったら詠唱なしでもできるみたいだね。いいことだ。そうだねーあとは、何が必要かな……台本でも作ろっか)


 彼は、窓から出て城の屋根に寝転がり、空間に文字を書きながらぼそぼそとつぶやいた。


(さてさて、面白い感じにできるといいね。よし、頑張るか)


 空は、これから起こることなど知ったことではないとでも言いたげにどこまでも青く、明るく輝いていた。





あとがき

 ユウナについてと、主人公の能力の一部がなんとなくわかってきましたかね? まだまだ分からないことのほうが多いとは思いますが、楽しんでくださいねー。

 

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