☆―正義の戦い―



 駆けてみると、猫ちゃんもとい、猫太郎(仮称)どもがまぁそこら中で悪さをしているんだ。

 家探しのうえに泥棒、飛び交う妖精さんと逃げ遅れたエルフさんを追い回す、家屋の破壊と、悪事の限りをつくしている。

 とりあえず、集会所に急がないといけないので、ゲンコツをかまして気絶させてから簀巻きにするを繰り返して何とか制圧。その後に救助したエルフさん&妖精さんに集会所まで案内してもらうことにしたら、またもや危機を発見。集会所周りに猫太郎どもがたむろしていたのだ。しかも、わんさかいるんだな、これが。


「アネーサ…あんなにいるけど大丈夫?」

 頭に飛び乗り、心配してくれる妖精さん。あらぁ、可愛いぃぃ!…っと、いかんいかん。つい気持ち悪い笑みが滲み出そうになったので、必死にこらえる。

「大丈夫だ。君たちはここにいなさい。すぐに片付けてくる」

 表情を決めて、妖精さんとエルフさん一同を安心させた後、闇に紛れて猫太郎をシバきに向かった。


 大声をあげられて仲間やらが来られても困るし、屋内の人達に害があっても困るので、ヌッと気づかれないように近づいて、ゲンコツ乱舞。いきなり頭に衝撃がくるとは思わないよね。ということで、速攻のゲンコツをかまして難なく制圧完了。


 張り付いて入口から中の様子をチラッと覗いてみると、リューカちゃんと猫太郎が揉めており、猫太郎による屁理屈によってリューカちゃんが大ピンチだった。

 あっ!!リューカちゃんが危ない!!…それと猫太郎、君、有罪。

 ということで、サッと入り込み、気づいていない様子の猫太郎に向かって正義の判決を言い渡す。


「なら、生意気な悪が先にくたばれ」

「え?…っぶげぇぇええええ!!!!!!!!!!」

 軽々しく命を奪おうとする性根を叩き直すということで、少し強めにぶん殴ると、気持ち力が入っていたようで、猫太郎は壁に激突してめり込んでしまった。…やばい、やりすぎた。…まぁ死んでなければいいか。あ、そうそう。止めなかった君たちも同罪ね。

「…悪党ども、私が相手だ」

 判決を言い渡したし、刑の執行をしましょう。

仲間の惨状にボケっとしている他猫太郎にゲンコツをぶち込み、これも床にめり込むほどに強く殴って集会所の危機も無事に制圧完了。やったね!正義の大勝利!


 そして、突然の私乱入に驚いている皆さんのなかで、リューカちゃんがピタッと私の腰に抱き付いてきた。おや?キャワワですねぇ。

「アネーサ様!先ほどスイギンが連れて行かれたの!早く行かないとスイギンと村の秘密が危ないんです!お願いします、助けてください!!」

 どうやら一足遅かったらしく、スイギンおじいさんは攫われていたようだった。ごめんね、遅れちゃって。

「ああ、任せろ。君たちは厳重に戸締りしてここに隠れていなさい」

 スイギンおじいさんは助けると約束し、慌てるリューカちゃんの頭を撫でて安心させたあと、エルフさんたちに集会所の戸締りと出ないように言ってから、救助に向かった。

 あっ、そういえばどこに行けばいいんだろう…?



 駆けつける道中、残党を見つけるやシバいてまわり、ようやく乱戦の現場へ到着。何となく不穏な空気を感じながら様子を見ていると、はたまた危機が到来。大きな猫太郎につめられて今度はゼルンさんがピンチだった。

 おのれ猫太郎め!と思い、突撃するために強そうな大きい猫太郎を注視する。とここで訂正。あの猫太郎、女だね。それに容姿が思いっきり人よりだよ。まるでコスプレみたい。

 猫太郎もとい猫女は、爪を尖らせてゼルンさんに近寄っていく。ていうか、あの猫女、結構体でかいね。しかも胸も大きいですな。…まぁ?そこは私も負けてはおらんがね。

 …っていうか早く行かなきゃまずいよ。ふざけるのもここまでにして、私参上の口上を言いましょう。


「そこまでだ」

 結構大きく響いてしまい、皆が動きを止めて私に注目した。ふぅう!カッコいいぜ!私!

「悪党ども、ここからは私が相手だ」

 決まった…!と思っているのにまるで無反応。え?何か言ってよ。恥ずかしいじゃん。

「何もしないのか?なら、こちらから行くぞ…!」

 無視されるのは悲しいけど、皆を救助するのが先だよね。ということで、非常食用に採取しておいたククールの実で、スイギンおじいさんたちを押さえつけている猫太郎の額に豆鉄砲をぶち当てた。

 正義に恥をかかせた罰だよ。という私怨を込めて連射をしていると、我らが美人隊長ゼルンさんのお声が響く。


「大丈夫か!?スイギン老!隊の者たち!早く立ち上がって体制を整えろ!怪我人は避難し、他は人質の救助するんだ!この好機を逃すな!!」

 優秀な指揮官は最悪な事態でも状況を打破するのだと何かで聞いたことがある。それはどうやら本当のようで、ゼルンさんはときめきそうな男前な声で指揮して、次々と捕まったエルフさんたちを退却させている。

 んで、それを邪魔しようとする猫太郎に豆鉄砲をお見舞いしてやること数分。殿を務めたゼルンさんを最後に、何とか助けることができた。


 形☆勢☆逆☆転!多くの猫太郎が横たわり、頭数もこちらに軍配があがった。スイギンおじいさんもゼルンさんも他エルフさんも、敵の猫太郎が死んでいないことに安心しているあたり、エルフさんって人種は本当に優しいよね!

 と、そう感想を言っていられるのも束の間、ボス猫(仮称)が快活な笑顔でドシドシと歩いてきた。あれは…強いぞ…っ!きっと…っ!


「やるねぇ、アンタ。話には聞いていたが中々に大したもんだ。思わず呆けてしまったよ」

 ボス猫ちゃんは一人で広場中央へ向かってくる。大したもんだって?あざっす!

「アンタ、見たことない種族だねぇ。それにその服も見たことないなぁ…異国の出身だろう?まぁ少し話をしようや」

 来いと呼ばれてホイホイと行く私。いいでしょ?これ。おじいちゃんの学ランなの。と自慢してやりたいが、楽しくお喋りができるような、そんな優しいものではないだろうね。

 そう思いながら近づいて対面し、身長の高いボス猫を見上げる。177cmある私よりも高い。いいなぁ…、私はもう伸びないからなぁ…。


「ほう…いい女だ。鋭い目つき、その体、その腕、その足…。どれをとっても一級品の戦士だねぇ。おまけに顔も体つきも髪も綺麗だ」

 見下ろされ、すっげぇジロジロ見ながら言われた。でも…嬉しい!えー?何々?もう一回言って!そういうの私言われ慣れていないのよ!だからもっと褒めて!

「あの森人の勇者も十分に見込みはあるが、アンタは最高級の獲物だねぇ」

 …何か違う意味っぽいね。“最高級の獲物”だってさ。なーんか嫌な予感がする。

「…何が言いたい?」

「何が言いたいかって?それはな…、アンタをぶっ殺したいってことさ!!!」

 ボス猫ちゃんが不穏なセリフと共に急に襲い掛かってきやがった。


 おのれ!卑怯な真似を!!と普通は思うだろう。

 けど、正義を目指して奮闘中ひよっこヒーロー見習いの私ですが、根本的には武人なのです。武人は“いついかなる時でも、攻撃をされることがある”を前提に生きているので、不意打ちという言葉は私たち武人の世界には存在しないのです。

 何が言いたいのかというと、つまり、不意打ちは、それを上回る速度で対処できるよねということです。と、テレビの彼は言っていた。なので、ボス猫ちゃんに修行の成果、“瞬速・御茶丸パンチ”をくらわしてやった。


 交差する攻撃、引っ搔き攻撃は空振り、見事ボス猫ちゃんの腹に当たった。

 んで、ピューンと遠くへぶっ飛んでいくボス猫ちゃんに驚く猫太郎たち。

 おお!クリーンヒット!ボス猫ちゃん、くの字になってグングンと飛んでいき、壊れた門をくぐって今!ホームランです!!!やった!姉茶選手、特大の先制点です!!!と、実況者がいたらそう言ってくれそうなくらいに気持ちよくぶっ飛んでいった。

 けど、何か手ごたえを感じなかったので、多分まだ終わってないだろうね。


「ア、アネーサ殿…、もう終わったのでしょうか…?」

 門を超えて飛び去ったボス猫ちゃんを見たゼルンさんが説明を求めてきた。どうだろう?うーん、私の見立てじゃまだ終わってないと思います。よって、

「まだだ」

 とカッコよく伝えて、残心込めて門の外を見据える。すると暗がりの闇、その奥のほうから、トコトコと平気そうに歩くボス猫ちゃんが現れる。

 ああ、やっぱりね。腹を擦ってるあたり、ある程度は効いたんだろうけど、メチャクチャ余裕そうだね。

 しかし…、瞬速・御茶丸パンチをくらわせて無事な奴初めて見たわ。

 ちょっとショックかも…。

 だけど、それはそれとして、ワクワクもしてきた。


 ようやく、強敵に出会えたか…っ!と。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る