灯りの見えぬ、小さな部屋で

@akito00000

第1話 起床から

その日は比較的起きやすい朝だった。

起床に対する倦怠感もなく、

昨日摂取したアルコールから鑑みても自分にとってはもったいないほど気持ちいい朝だった。


ベッドから降りご飯を食べる。


昨日の「食べ残り味噌汁」を火にかけ鍋ごと手をつけた。

豆腐に和布、人参入りの味噌汁は静かな曇り空に染み渡り昨日の疲れを圧縮して隅にまで追いやってくれた。


「おーい起きた?」「スタンプが送信されました」

「朝から送んな」と苛立つ僕はメッセージを開かず携帯の通知をサイレントモードにして、のそのそと立ちあがり洗濯竿に引っかかったジーンズパンツと古いバンドTシャツを着て外に出た。


僕は御堂筋線東三国駅から、徒歩15分の1DKのアパートに住んでいた。

駅から家は遠いが駅から新大阪には近かった、旅行などで他県へ行くには便利すぎる立地だ。


駅まで向かう道中には淀川が流れ、時折雲の切れ間から差し込む暖かな日の光に照らされた波は程なくして大海に溶け込むのをまだ知らぬ幼子のように真っ直ぐと微笑んでいた。


焦げ茶にくすむタイル張りの駅には忙しなく動くサラリーマンと、ただただタイル張りの汚れ一点を見つめ仕事に集中している駅員の姿が、対象的な皮肉を描いていた。

なかもず行きの電車に乗り込み、無視していたさっきのメッセージを開いた。

さっと業務的に急ぎ用事を送りつけ携帯を閉じ、リセットするかの様に僕自身も目を閉じた。

暗い世界に落ち着きは無く、昨晩のアルコールが妙に嫌味を感じさせてくれた。


そのようなことを考えているうちにすぐ梅田駅のアナウンスが流れ、目を開けば同じようにそこは暗くどんよりとする世界が広がっていた。(電車が地下に入っただけだが)

窓に反射する自分の跳ねた髪を手で雑に梳かした。

梅田に着くと多くの様々な人が出ていきまた乗り込んでくる。

浮かれる大学生たち、まだ焦る会社員、子供をあやす母親がいた。(実際にはもっと沢山いたが覚えているのはこのくらいだった)

死んでいた駅員も息を吹き返し、重そうな革カバンを持って車両を渡っている。

わざとらしいその重みにある種の誇りを感じるほどだ。


「駅もなんば~」「駅も難波?」ツッコみを入れたくなるのは関西人の性なのか、はたまた助詞が暴れた日本語だからなのか、なんてくだらない心の声を振りほどき僕は走った、人を掻き分け走った。

汗でTシャツが張り付くことなど気にする事もなく。ただ最短で学校への道を。

10時からの授業は既に始まっている。時計の短針は不可逆なのにもかかわらず、物凄いスピードで動いていた。呑気だなと思われるだろうが別に呑気などではない。

起きた時から逆算して遅れることは分かっていた。

ただひたすらに焦るのが面倒くさかった。

焦るのは最寄りについてからだけで良いと、楽観的に構えていたからだ。

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