牢から空を眺めて
鈴乱
第1話
「今日は、よい月夜ですねぇ……」
高い位置にある小さな格子窓。そこから、月がのぞいているのを眺めていた。
石造りの冷たい場所にいても、その窓からの月光だけは美しい絵画のようだった。
殺風景で、面白みのない場所だけれど、唯一、あの窓が見せる光景だけは、どんな美術品より価値があるような気がしている。
「……静かですね」
ひとり、妙な時間に起き出した。
見張りはどこかにいるはずだが、姿は見えない。
秋の終わり。冬の始まり。冷たい風に乗って虫の声が聞こえてくる。
静かで、優雅な時間。
元の生活からは考えられないほど、穏やかな時間が過ぎていく。
「囚われる生活も……悪くありませんね」
何もかもを自由にできる生活も愉快ではあるが、それに飽いてしまえば、こういった何もない生活もそれはそれで楽しいものだ。
気づかなかったことに、気づける。
日常の喧噪に、忘れていたものを取り戻せる。
私の場合は……何度目かしれないが。
「人間は……、本当に捕まえるのが好きですねぇ……」
少し悪さをしただけだった。
日常に飽きて、面白い悪戯を仕掛けただけだった。
私と同じようにつまらなそうに生きる同胞を、少しばかり驚かせてやろうとした。
それだけで、悪意なんて毛頭ない。少し日常に刺激を加えてやろうと思ったくらいだ。
その結果が、捕らわれの身、とは。
「まったく。風情を理解しない方々は、退屈ですよ」
囚われる生活も悪くはない。美しい景色も堪能できる。
……でも、それだけでは足りない。
やはり、足りないと、思ってしまうのだ。
牢から空を眺めて 鈴乱 @sorazome
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