ゲーム配信がしたい話

dede

第1話ゲーム配信がしたい話

「未来永劫記憶に残る村人らしいゲーム配信じゃと?……ふむ、まずは村人に相応しい遊戯を選ぶところから始めるべきであろう?」

僕は近所の神社の神様に相談したら、そんなアドバイスをいただいた。

「……花札とかでしょうか?」

「すごろくや福笑いなどもどうじゃ?盛り上がるのではないか?」

「そうでしょうか?あ、そもそも僕には遊び相手がいませんでした」

神様のピンっと立ってた右耳がピクリと揺れる。

一人で遊べる遊戯か、と神様は思案する。

「そもそも少年、この村人はまだおるのかの?わし、久しぶりに人を見たんじゃが?」

「僕たちは先週引っ越してきました。3人家族です。村には以上です」

神様は僕の言葉に愕然とする。

「……減ったのー?随分減ったのー。ってか、つい最近まで人がおらんかったではないか!」

神様のふっさふさのシッポがブンブン振り回された。境内の落ち葉が払われる。

「はい。いませんでした」

「なんでそんな事になっとるのじゃー!」

「ちょっと前までこの村に住んでいた僕のおばあちゃんが言うには立地がよくないそうです」

「なんと」

「『ちょっw今時コンビニもないとか、マジあり得ないんですけどー?』って」

「ホントそれ少年の祖母かっ!?いや、その口調、マキエかっ!?マキエだなっ!違いない!あいつっ!!」

「そんな訳で今は都心のマンションに引っ越しました。代わりに僕の家族が祖母の家に来たんです」

「マキエっ!あんの、裏切り者がぁーーーーっ!!」

頭上に暗雲が集まってきた。興奮が落ち着いてきた神様が、肩で息をしながらゼハゼハと呼吸を荒げていた。

「大丈夫ですか、神様?」

「すまん、乱れた」

「神様はうちのおばあちゃんと知り合いだったのですか?」

「そうじゃのぅ。ヤツが幼女だった頃からの知り合いじゃの?」

「そうですか。幼馴染だったのですね」

「……なんか違うのぉ?そもそもなんで未来永劫記憶に残ることをしようと思ったんじゃ?」

「僕、結構この村気に入ってるんです。だからココを色んな人に知ってもらえればって思ったんです」

神様のシッポがブンブン振れた。

「ふむ。良い心がけじゃの?マキエの孫とは思えん。ところでゲーム配信って何じゃ?」

「えーと、ゲームをしている様子をネットで配信するんです。そしたら、面白ければたくさんの人に見て貰えるんです」

「なるほどなるほど。どういう事じゃ?」

「ともかく楽しそうに遊んでる様子を人に見て貰うんです。楽しんでる様子を見て楽しむんですよ」

「最近はそんな楽しみ方が流行っておるのか」

「ですです」

「しかしゲームじゃぞ?少年一人ではできんのではないか?」

「でも他の人は一人で配信してるんです」

それじゃ、と神様が手を叩いた。

「先達の者がおるなら、そこから学ぶが吉じゃ」

「分かりました。家に帰って観てみます」

「なんじゃ?ここでは確認できぬのか?」

「僕、スマホを持ってないんです」

「よく分からぬが、家なら確認できるのじゃろ?では行くとするかの」

「神様もいらっしゃるのですか?」

「不服か?」

「いいえ。神社から離れて平気なんだと驚いただけです」

「村の中じゃろ?問題ない。では行くとするか、その、ネット配信とやらを確認に!」

境内の落ち葉や砂ぼこりが激しく舞った。


「ただいまー」

「邪魔するぞ?」

「あら、お客さん?」

帰るとお母さんが玄関で迎えてくれた。

「うん、神さま」

「そう、上ちゃんって言うのね。その恰好はハロウィンの衣装合わせかしら?可愛いわね」

「ハロウィンって何じゃ?」

「外国の行事です。普段とは違う恰好をしてお菓子を貰って悪戯しちゃうんです」

「それは良いなっ!村でも流行らせるぞ!」

ちゃん付けを気にしてない事にはビックリしたけど、シッポをぶんぶん振ってるので本当に気にしてないんだと思うどころか機嫌良さそうだった。

「都会では流行ってるみたいですよ。田舎だとまったく実感わかないですけど」

「それはいかん。我が村も都会にするのじゃ!」

「神さま、そうなった村はもう村じゃありません。都市です」

「構わん!これは神命じゃ!わしはこのハロウィンというものに未来を感じたのじゃ!」

神さま、どこかのテーマパークみたいな事を言ってますが、むしろ今はクリスマスぐらいメジャーで期待値は下降気味です。

「まあまあ、上ちゃん落ち着いて?これどうぞ」

お母さんが神様の手の上にマシュマロを乗せた。

「?なんじゃこれは?」

「マシュマロよ。美味しいわよ?」

神さまは警戒しながら口に投げ入れた。

「……蕩けるのじゃ~」

神さまの表情も蕩けていた。

「ごめんなさい、神さま。そろそろネット配信を研究しませんか?」

「はっ!?そうじゃった」

「お母さん、今から二人で研究活動をするから邪魔しないでね?」

「あらあら?わかったわ、あとでジュースだけ差し入れにいくわね」

「おお!ジュースは分かるぞ。待っておるからな?」

「はいはい」

お母さんが台所に戻ったので、僕たちはリビングのパソコンをのぞき込んでいる。

「薄いテレビじゃの?」

僕はキーボードとマウスで動画配信サイトを表示する。

「なにっ!?このテレビ、動くじゃと!?」

「神さま、これはテレビじゃなくてパソコンです。今から映しますね」

僕は目についたゲーム配信動画をクリックする。

「ふむふむ。……このテレビに映ってるのがゲームなのかの?面白いのかの?」

「面白いですよ、僕もおばあちゃんちで何度かしたことあります」

「……マキエが持っておるのか。少年は持っておらんのか?」

「欲しいけど、高いんです」

「ふむ。ケチじゃのマキエは」

「仕方ないです、お高いですから」

「しかしそうか。面白いのか。それを色々喋りながら遊んでいる様子も確かに楽し気じゃの。こっちも楽しくなってくるのは分かる気がするの」

「なるほど。やっぱりそこですね。観てる人を楽しくさせる、それがキーですね」

「それは大事なんじゃが、結局何をするか決まったのかの?」

「それもまだ何ですよね。一人でできるゲームって何があるでしょうか?」

「……仕方ないのぅ。今回はわしが相手をしてやろう」

「え、いいんですか、神さま」

「乗りかかった舟じゃ。それに一人でやるより誰かとやった方が楽しいじゃろ?」

「あ、ありがとうございます。神さま……」

ただ、照れくさそうにそう仰って頂けるのは嬉しいのですが、舟だと一人乗りっぽいです。


お母さんがスマホで撮影してくれた僕と神さまの村中を駆け巡る鬼ごっこは、神さまの神懸った動きのおかげもあり、だいぶ視聴される事となった。


「……マキエの娘ではあるまいな?」

「違います。マキエおばあちゃんはお父さんのお母さんです。お母さんの事が気になるのですか?」

「いや……深くは詮索すまい。わしの本気の動きを全て撮影してたのでタダ者ではないハズなんじゃが」

「神さま、僕相手の遊びで本気出してたんですね……。通りでまったく勝てないと思いました」

「何じゃ!?遊びじゃぞ?遊びに本気になって何が悪いっ!」

「あ、おばあちゃんが言ってました『え、そんなん、スッゲームリ、なんですけど☆毎回毎回相手する身にもなってー、みたいな?』」

「マキエッッッ今度会ったら戦争じゃあ!」

「あ、良いですね。今度スプラトゥーンでおばあちゃんと対戦しましょう!今ってネットで遠くの人とも対戦できるんですよ!」

視聴が伸びたおかげでひとまずゲーム機が買えることになった。

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