夢と現実
ふじにな あおい
第1話
目が覚めると私は両手を重ねてお祈りをするように胸に当てていました。
なぜこのポーズになってしまったのだろう。私は一日中そのことで頭がいっぱいでした。
朝、登校する時も、三時間目の国語の授業も、お昼休みに友達の知子ちゃんとお話している時も、一度考え出したら止まりません。まるで、スナック菓子の決まり文句のように止められないし止まらないのです。
家に帰る道中、とある家の塀の上で寝ている猫を見つけました。猫はこっちを「こっちを見るんじゃねぇ」と言ったような表情で睨みつけきましたが、そんなのお構いなしに私は疑問を投げかけます。
「猫さん、猫さん、どうすれば一度考え出したことを止められるようになるの?」
猫は大きなあくびをしてまるで興味なさげでした。しかし、答えてくれるまで私は諦めませんでした。
「私、これっぽっちもこんなこと興味無いのよ、なのにね、思考が止まらないの」
猫はうんざりしたのでしょうか、スタスタと向こうまで行ってしまいました。私は、答えをもらえなかったことに少し寂しさを感じました。
「猫は気楽でいいわね…」
私は、家に帰ってもう一度寝てみようと考えました。そうすればもしかしたら忘れてしまって、こびりついた記憶をペリペリと剥せるかもしれません。
急いで家に帰り、服を着替えてから布団に入ると案外早く眠れることが出来ました。起きてる時は思考が止むことはなかったのに不思議です。
夜の9時頃、目を覚ますと見知らぬ場所で見知らぬ布団をかけていることに気がつきました。
驚いて飛び上がると、そこはどこかの家のようでした。トイレ、勉強部屋、キッチン、リビング、どれもこれも見たことがない物ばかりでした。
ただ一つ、気になることがありました。なぜかテレビの横に立てかけてある一枚の写真に、私の顔そっくりの子供が、親らしき人物と二人で写っていました。
はて?ここはどこだろう。そう考えているうちに向こうからドアの開かれる音がしました。一人の若い女性が部屋に入ってきて「ただいまぁー」と私の顔を見るなりそう言ってきました。
誰だろう??
なぜこの女性は私を見ても表情一つ変えないのだろう。私はここの家の子?分からない。まるで産まれたばかりの赤ちゃんのように、何も分からない。思い出せない。
背中がゾクッとするのを感じ、怖くて怖くてたまりませんでした。この女性は私の顔を見て少し心配そうな顔をしている。でも、そんなことより私は一体誰だ。なんだ?何も分からない。
もうこれ以上考えると発狂しそうだ。
そうだ、もう一度寝れば元に戻るかもしれない。もしくは今までの出来事は全て夢だったのかもしれない。私は急いでさっきのベッドがあった部屋に戻って寝直しました。すると、さっきまでの混乱がなかったかのように一瞬で眠ってしまいました。
「………」
「……ん」
目が覚めると私は両手を重ねてお祈りをするように胸に当てていました。
夢と現実 ふじにな あおい @hujinina
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