第2話 可愛い(委員長side)

 目の前に、推しがいる。

 その事実に耐えられなくなって、私は玄関に座り込んだ。


「本当にいちごちゃんだ……!」


 深呼吸をし、顔を上げる。すると、私を見つめるいちごちゃんと目が合った。


「苺の国のお姫様、みんなに癒しを届けるいちごちゃんだよ!」


 笑顔で、いちごちゃんがいつもの挨拶をしてくれた。

 あまりの破壊力に下を向いてしまいそうになるが、なんとか堪える。


 だって、1秒でも長くいちごちゃんを見つめていたいから。


「ストロベリーナイトさん、いちごとお部屋でお話ししよ?」


 そう言って、いちごちゃんがわずかに首を傾けた。

 あざといその仕草に、心臓が何度も飛び跳ねる。


「は、はい……!」


 なんとか立ち上がった私の手をいちごちゃんがぎゅっと握った。


 もうだめ、ときめきすぎて、頭がおかしくなっちゃいそう。





「いちご、ストロベリーナイトさんに会えてとっても嬉しい!

「わ、私も、今世紀最大に嬉しい……!」


 しまった。いちごちゃんを前にすると、ついストロベリーナイトとしての人格が出てしまう。


 あまりにもオタクっぽい反応にいちごちゃんが引いていないか心配になった。

 しかしいちごちゃんは、相変わらずにこにこと笑ってくれている。


 いちごちゃんって、本当に天使!


 いちごちゃんに会いたい、と天野さんに頼むかどうかはかなり悩んだ。


 けれど、どうせいつか頼むことになるなら、いっそ今頼んでしまえ! と先日思ってしまったのである。


 私がいちごちゃんだけじゃなくて天野さんが大好きだってことは、もうちゃんと伝わってるだろうし。


「い、いちごちゃん、一緒に写真撮ってくれませんか……!」


 せっかくいちごちゃんに会えたんだから、いちごちゃんと写真が撮りたい。


「あ、えっと、それから、いちごちゃん単体の写真も撮らせてもらえると嬉しいんだけど」


 私が撮った、私以外誰も持っていないいちごちゃんの写真。


 そんなの絶対、家宝になる……!


「いいけど、可愛く撮ってね?」

「もちろん……!!」





 約1時間ほどで、私の写真フォルダはかなり充実した。

 本当はもっと撮りたいが、いちごちゃんにそろそろ終わり! と言われてしまったのだ。


「どう? 満足した?」


 いちごちゃんが私の顔を覗き込んできた。その表情がいちごちゃんのものなのか天野さんのものなのか分からなくて、なんだかどきっとする。


 頷いて、じっといちごちゃんを見つめた。

 すると、激しく首を横に振られてしまう。


「キスはだめだから!」

「え?」

「今、キスしようとしたでしょ? さすがに、この姿の時はだめ!」


 それは完全に天野さんの言葉で、そして、拗ねたような顔は嫉妬を表していた。


 別に、キスしようとして見てたわけじゃないんだけど。


 というか、その言葉はあまりにも……


「……可愛い」

「このタイミングで!?」

「天野さんに言ったのよ」


 私の言葉に、天野さんが顔を赤くする。

 苺みたいに赤くなった頬が愛おしい。


「ねえ、天野さん、早く着替えてきてくれない?」

「え?」

「すごく、天野さんとキスしたくなっちゃった」


 天野さんの顔がさらに真っ赤になる。

 そして、勢いよく部屋を飛び出していった。


 戻ってきたら、すぐに天野さんを強く抱き締めて、いっぱいキスをしよう。

 想像するだけで、私は幸せな気持ちになった。

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こっち見てよ、委員長!〜いいえ、貴女の顔が良すぎるので直視できません!〜 八星 こはく @kohaku__08

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