番外編②いちごちゃんに会いたい
第1話 複雑な気持ち(ギャルside)
『ねえ、天野さん、お願いがあるんだけど』
電話越しでも、委員長が緊張していることが分かる。
なんだろう、と私も思わず背筋を伸ばした。
春休み2日目の夜。恋人同士である私たちは、眠る前のちょっとした時間に電話をしている。
お互いに塾やバイトがあり、春休みとはいえ毎日会えるわけじゃない。
だから、こうやって電話で話せるのがすごく嬉しい。
「お願いって、なに?」
『天野さん、いや……翼に、どうしてもお願いしたいことがあって』
今、私のこと翼って呼んだよね?
恋人なんだから名前で呼び合おう……という話をしたものの、私たちはなかなか呼び方を変えられずにいる。
まあ、ずっと委員長って呼んでたわけだし、仕方ないよね。
そのため私たちが名前で呼び合うのは、基本的にそのことを強く意識している時だ。
今みたいに、お願いがしたい時、とか。
『私、いちごちゃんに会ってみたいの』
委員長のお願いならできる限り聞いてあげたい。
けれどこのお願いには即答できなかった。
いちごは、SNS上の存在。
配信をしたり写真をアップロードしたりするけれど、あの姿で人に会ったことはない。
しかも委員長は、いちごの最古参オタクである。
いつかは言われるんじゃないかって、ちょっと思ってたけど……。
天野翼じゃなくて、いちごちゃんが好きなの? なんてもう思わない。
委員長の愛情は、ちゃんと伝わっているから。
でも単純に、恥ずかしいのだ。
『お願い、翼……』
委員長の声は弱々しくて、それでいてとびきり甘い。
顔を見なくても、委員長がどんな表情をしているかまで分かってしまう。
恋人に必死に甘えられて、断れる人がいるんだろうか。
少なくとも、私には無理だ。
だって私は、委員長が大好きだから。
「分かった。じゃあ、今度、うちにきてくれる?」
覚悟を決めて、私はそう言った。
♡
「やばい、緊張してきた」
鏡に映る私はいつもの天野翼ではなく、パステルピンクのツインテールがトレードマークのいちごだ。
しかし、これから行うのは配信ではなく、委員長とのお家デートである。
「てか、どう振る舞えばいいの?」
委員長はいちごに会いたいと言っていた。
だから、私はいちごとして委員長に接しなければいけないのだろうか。
「……恥ずかしすぎない?」
はあ、と溜息を吐いた時、インターフォンが鳴った。
委員長がきたのだ。
いつもは駅まで迎えにいくのだが、いちごの姿で外に行くことを避けたかったのである。
私は深呼吸をし、玄関へ向かった。
そして、勢いよく扉を開ける。
「うわ……っ!!! い、いちごちゃんだ、いちごちゃんが生きてる……っ!!」
目をきらきらと輝かせた委員長が、私を見て泣き始めた。
「ありがとう、生まれてきてくれて……ありがとう……地球……」
とうとう地球にまで感謝し始めた委員長は、完全にオタクモードだ。
ここまで喜んでくれたら、そりゃあ、いちごとしては嬉しい。
でも、天野翼としては、なんか複雑なんだけど……!
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