@azelas

第1話

爆発する。そう思った。

情けなくも尻餅をつき、顔をかばうように思わず手をかざす。吹き付ける風は濃密な魔力を帯びて暴風となり、彼と彼のいる建屋を轟音とともに揺るがした。自慢の白いたてがみは風圧で乱れ、たてがみと同色の筋肉の鎧に覆われた身体でも、気を張っていなければ吹き飛ばされそうだった。

野生の獣のような精悍な顔つきを歪め、目を細めた先にあるのは、自分で描いた魔紋の中心。滝壺のように溢れ出る魔力はやがてまばゆい光を放ち、彼の目を灼いて空間ごと包み込まんとする。

儀式は成功した。成功してしまったのだ。彼はさほど魔法の心得があるわけではなかったが、冒険者という生業上、手習い程度にしょぼい魔法くらいなら扱えた。敵対する者に軽い火傷を負わせたり、擦り傷を癒したりする程度のものだ。中でもいちばん才能があるのは巴術だった。魔導書に描かれた魔紋に魔力を奔らせて術式を起動する。準備さえしておけば、ワンアクションで派手にかませるのが彼の好みだった。もっとも、魔法を使うより剣で斬ったほうが早いだろ、という身も蓋もない自論によって、あまり真面目に学ぶことはしなかったのだが。

だから、今の状況はほんの気まぐれによる産物なのだ。たまたま依頼された辺境の遺跡調査の護衛で、奥で見つけた古びた魔導書。貴重な当時の資料かもしれないとして、依頼人は目を輝かせながら中身を検めたが、ページを慎重にめくるうち徐々に表情が曇り、やがてパタンと閉じて処分してくれと渡してきた。いいのか?と聞くと、自分にはとても扱えない危険なものだから、とのことだった。あるいは強力な武具になるかもしれないが、君のような冒険者になら扱えることもあるのかも、と苦笑していた。

そんなものを見つけてしまっては、未知を追い求める冒険者として疼くものがあるだろう。彼は価値ある戦利品のように、魔導書を大切に受け取った。

その、満月の夜のことだった。


「くっ……そ! まずい、まずいっ……!」


彼---名をガラドといった。ガラドは激しさを増す向かい風を気合いで押し返して立ち上がり、光に目を潰されないよう顔の前にかざした手はそのまま、足元だけを頼りにじりじりと魔紋に近づく。なんとか魔紋の外周を視界に入れると、足で蹴りこすって消そうとするが、一度励起した魔紋は実体の線を消したところで意味がない。燐光を放って浮かび上がる紋様は、緩やかに回転しながら織り込まれた命令を忠実に遂行していた。

この魔紋に刻まれているのは、術者との魔力の接続、情報の転移、存在の証明、そして古い契約の一節。魔力を提供し続けて行動を保証する代わりに、術者へ付き従うことを約束する。

すなわち、使い魔召喚の魔紋だった。

本来、巴術士は自らの保有する魔力を基とし、物理法則に干渉するための触媒兼使い魔として、幻獣カーバンクルを使役する。幻獣といっても厳密には生きているわけではなく、術者の魔力が形を変えたものにすぎないため、契約など必要ない。しかし、魔導書に記述されていた使い魔召喚の魔紋は、根本が異なっていたのだ。

術者の魔力を提供することは変わらないが、提供先は術者とはまったく別の存在であり、異界からその存在を喚び寄せ、文字通り「召喚」する魔紋だった。喚び寄せるのが強大な存在であればあるほど、供給する魔力も爆発的に増え、使役するのは困難となる。魔力の不足は契約を違えることと同義であり、最悪の場合召喚した使い魔に危害を加えられる可能性すらある。

ガラドは自分の扱える魔力量を正しく把握していた。依頼をこなすうちに、何度か異界の存在を使役しようとするはぐれの召喚士に出くわしたことがあるが、召喚の際には使い魔が元々保有する魔力に応じた余波が微風や発光による物理現象として現れる。だが、これほど激しい余波を見たことがない。宿場町から遠く外れた廃屋は今にも荒々しく解体される寸前で、魔紋から溢れる光は闇という闇を祓う暴力的な輝きを放ち続けている。そんなものから出てくるナニカを、自分が扱えるとは到底思えなかった。


「……んぁ?」


不意に、光が収束する。

必死の努力が身を結んだかと安直な結論に飛びつきたかったが、冒険者としての勘が告げている。こういう時はたいてい、うまくいかないものだ。


「ぐ……ぅおわっ!」


轟音が地を揺すり、目の前に落雷したかのような衝撃波がガラドを襲った。恵まれた体格を持つ獣人は超常の力の前になす術なく吹き飛び、かろうじて受け身をとるものの背中をしたたかに打ちつけた。

いてて、と呑気に呟きつつ、ガラドは事の顛末を見届けようと魔紋へ視線を投じる。まばゆい光に晒されていたせいか目が効かない上、なんとか持ち堪えた廃屋は粉塵まみれだが、徐々に魔紋の中心がひらけてくる。


「…………なんだ……?」


そこには、ナニカが、いた。

夜闇を取り戻した廃屋の中でなお黒々とした漆黒を纏い、明らかに人型とは異なる形状の器官が揺れるようにうごめいている。はっきりとは見えないが、ガラドより一回りは大きい。ロスガルという体格に恵まれる種族である彼を凌駕する生き物は、大きく動くことはせずその場にとどまっていた。

やがて粉塵が晴れ、もとの優れた視覚を取り戻したガラドは、そのナニカをはっきりと目にする。絶対に目を離すまいとしながら、側に倒れていた愛用の大剣を掴んでゆっくりと構える。

それは、存外自分の姿によく似ていた。空気に遊ぶ柔らかな黄金のたてがみは獅子のよう、突き出た鼻とたくわえた牙は猛獣を思わせる獰猛さと精悍さを合わせ持ち、筋骨隆々の漆黒の四肢は薄手の装備も相まって堂々たる圧力を放つ。装備といっても、左肩から鈍色の布の切れ端を引っ掛けているだけで、それを腰のあたりで細いベルトで固定しているだけだった。大きく露出した右胸から延びる腕は無造作に腰に当てられ、太い指先からは鋭い爪が見てとれる。丸太ほどもある太ももは中ほどから露出し、巨大な足でその体格を支えていた。

体格の違いこそあれ、ソレはガラドに近い生き物のように思えた。しかし、それを決定的に裏切る特徴が、ガラドの警戒を緩めさせなかった。翼だ。背中の中ほどから生える翼は畳まれていてなお大きく、ソレの肩を覆ってあまりある。蝙蝠を思わせるその翼膜は、粉塵の中でうごめいていたものの正体だった。

そして、見事なたてがみからのぞくのは二本の角。短く伸びる暗赤色の角は禍々しく歪曲し、たてがみに沿うように後ろへ流れていた。角と翼もつその姿は、巴術をかじったものなら誰でも知っている、異界の妖異の特徴だった。


「……で? オマエか、オレを喚んだのは」


豊かに響く低音が、横柄に問う。ガラドはわずかに目を見張った。言葉を喋れるのか。


「……そうだ。俺だ」


言葉少なに返すと、使い魔はほう、ともふん、とも取れる曖昧な声を出した。

そのまま、睨み合いが数十秒続いた。ガラドは出方をうかがおうと下手な会話もせず、もし襲ってくるようなら全力で立ち向かうつもりでいた。こいつを暴れさせて、近隣の街に被害を出させるわけにはいかない。音に聞く英雄のようにはいかないが、一介の冒険者として、そのくらいの正義感は持ち合わせているつもりでいた。そもそも、喚び出したのは自分なのだ。

さらに数十秒が経過し、先に口火をきったのは使い魔の方だった。


「……なんだ、早く言え。オレは気が長いほうだが、退屈は好かん」


「……どういう意味だ」


「あぁ? オマエが喚んだんだろう。契約は続いているからな。なんとも貧相な魔力量だが、喚び出したのがオレで運を使い果たしたな。オレなら多少は自前でなんとかできる。その上オマエが無駄に消耗しないよう、こうして動かずにいてやっている。ほら、さっさと言え。オマエが魔力の枯渇でうっかり死ぬような大それた望みじゃないなら、気がむく限りは手伝ってやる。見たところ、アレだ、なんといったか、冒険者というやつか? 秘境を目指すなら足になってやる。戦うなら任せろ。オレは相当に強……いや、オマエの魔力じゃたかが知れるか……ふむ」


よく喋るやつだ、と思った。見た目はいかにも妖異だが、少なくとも今すぐ牙を剥かれることはなさそうだと、ガラドはようやく大剣を降ろす。外見に近しいものを感じることもあって、どことなく親近感すら覚えていた。怖いもの知らずの冒険者というが、絆されやすいのもまたガラドの性分だった。


「……あー、物騒なもん向けて悪かったな。俺はガラド。お前の言う通り冒険者だ。お前を召喚したのは確かだけど、実は今すぐやってほしいことってのはねぇんだ。たまたま見つけた魔導書に描かれてた魔紋で、試しにやってみただけで」


使い魔は精悍な顔で疑問を思い切り表現する。いっそ凶悪に見える表情だったが、ガラドも胡乱げにするとよく同業者に言われたものだ。


「たまたま見つけた? このオレと契約できるグリモアをか? ……オマエ、どこまでもツイているな。何も望みがないというのはいささかつまらんが、それならそれで都合がいい。オマエ、オレと交わる気はないか」


「交わる? 契約のことか? あ、おい、まさか対価が必要とか言うんじゃ……」


「たわけ。このオレをそこらの低級と並べるな。対価の魔力は今も受け取っている。だが、今のままではオレが飛んだだけでオマエなど干からびるのがオチだ。そうなる前に、その魔力を増やしてやろうと言っている。体液、中でも精は強力な魔力触媒だ。互いに精を取り込めば、オマエはオレの魔力で眠っている回路をこじ開けられる。オレはオマエとより馴染み、魔力のパスを太くできる。いいことずくめだろうが。オレを使役するのなら、オマエの選択肢はひとつだ」


「……あ? 精を取り込むって……いや、まて、え?」


滔々と語る使い魔の言葉を聞くごとに、ガラドの表情は困惑、驚愕と目まぐるしく変わっていった。対価に血をよこせとか、贄を捧げろとかなら分かりやすい、いや分かりたくはないが、まぁ悪しき使い魔のやりそうなことという印象はある。だがこいつは何かすごいことを要求してきていないか。


「その……俺のとお前のを取り込むってつまり、今ここでヌけってこと言ってんだよな……?」


我ながら突飛なことを言ったとガラドは妙な落ち着きのなさを覚えたが、使い魔は当然とばかりにふんと鼻をならした。


「なんだ、生娘でもあるまい。……それとも自信がないのか?」


使い魔は口の端を上げて挑発する。逞しい両の腕を腰に当て、意味深に装備を少しだけつまみ上げると、布が引っ張られて股間のものが存在を主張し、太腿がきわどい位置まで露出した。生来のものなのか鍛え上げたのかはわからないが、見事な太腿は太く逞しく、芸術的な魅力を放っている。無論、ガラドとて日々の鍛錬や冒険の日々で培った肉体は誰にも負けるつもりはない。しかし、使い魔のそれは思わず目を惹きつける魔性を帯びていた。

一瞬目を奪われたガラドは何をやっているんだと頭を振る。


「や、べつにソッチの自信とかじゃねえだろ。俺とお前で、こんなとこでそんな……」


「なんだ、オレとは嫌か?」


「そうじゃ……」


そうじゃねえだろ、とガラドは返そうとしたが、使い魔が思いの外残念そうな顔をしているのを見て面食らう。なんでちょっと悪い事をした気にさせられなきゃならないのか。

バツが悪そうにたてがみを掻き回す獣人を、眉根を下げた少しさびしそうな表情で使い魔は見る。


「まぁ、どちらにせよオレは帰るつもりはない。オマエがオレをまともに使役するなら、避けられんのだ。手荒な真似をする気はないが、少しばかり小細工をさせてもらうぞ」


言うと、使い魔はゆっくりと目を閉じ、次いで見開く。深い蒼をたたえる瞳が燐光を放ち、水面を叩くように魔力の波動が放たれる。


「……ッ! ク……なに、しやがった……」


意識のぐらつきと身体中の筋肉の弛緩を覚え、ガラドはたたらを踏んだ。咄嗟に大剣を支えにして姿勢をなんとか維持するが、とても身を守れるような状況ではない。酒にひどく酔った時に似ている気がするが、特有の不快感だけがない。無防備になっている感覚はあるのに、それに危機感を抱くことができないのだ。

そんな彼にゆっくりと足を踏み出し、使い魔は一歩ずつ歩み寄る。


「なに、少しばかり心のタガを外させてもらっただけだ。魅了の魔眼くらいは知っているな? だが出力は最低まで落とした。オマエに悪い影響は何も残らん。安心して、オレに身を任せろ」


使い魔がふらつくガラドの肩に手を伸ばす。大きい手のひらで獣人を支えたまま、その背後までゆっくり、ゆっくりと回り込んだ。握っていた大剣の柄から手を離させ、無惨な姿になっている古びた棚に適当に立て掛けておく。

何度も危機を救ってくれた相棒を勝手に手放されたが、ガラドは何の抵抗も感じなかった。そんなことよりも、肩に触れている手の重みと温かさに気をとられ、自分が自分でないような感覚で思考が詰まっていた。

使い魔はゆっくりとガラドの装備を外しにかかった。留め具を外し、軽鎧と足甲を脱がせて身軽にしてやる。上下ともにインナー一枚になると、ガラドの逞しい肉体が浮かび上がってきた。袖口からのぞく腕は大剣を振り回すのに足る太さで、それを支える胸は大きく盛り上がり、白い体毛に覆われた身体は引き締まっていて無駄がない。黒い下履きは肌に密着する薄手のもので、尻や太腿の曲線を強調し、男としての膨らみをあらわにしていた。尻の中心よりやや上から生える縞模様の尻尾は長く、たまに使い魔の剥き出しの足をくすぐる。


「……よく鍛えているな。オレも存外、ノッてしまいそうだ」


頭一つ分高い位置から低音が降りてくる。ガラドはそれを耳に心地良いと感じつつ、そんなことを考えている自分への困惑も同時に覚えていた。

上衣もゆっくりと脱がされ、温かい手のひらで胸や腹をまさぐられる。爪は鋭く、指は太く、傷つけることが得意そうな黒い手だったが、触れ方はどこまでも優しかった。


「……んっ、ふぅ……クソッ、なんで俺はこんな……」


身体に触れる指が胸の突起を掠めるたび、ガラドは身じろぎを抑えきれなかった。股間に電流が奔る感覚。男の証が、徐々にその存在を増していくのを感じた。薄い生地を押し上げ、形状がはっきりと見てとれるようになる。ガラドは尻に当たる熱い感触から、こうなっているのは自分だけではないと確信していた。その事実が更に、彼を興奮の渦にいざなっていく。


「……触るぞ」


短く告げ、使い魔がガラドの中心へと手を伸ばす。臨戦態勢となっていたそれはぴくりと動き、やがて大きな手に包み込まれて下着の上からゆるゆると扱かれる。


「ぅあっ……! く……ぅ……ハァッ、やめ、ろ……俺はこんなこと……」


漆黒の体毛に覆われた腕を掴むが、力が入らない。おかまいなしに直接与えられる快感にガラドは思わず腰を引いた。だが、それは尻に当たる硬い感触をより強く感じる結果となり、自分の意思に反する抗えない昂揚が増しただけだった。


「……っ、あまり煽ってくれるな。加減が効かなくなっても知らんぞ」


言いつつ、硬くなったものを扱く手とは逆の手でガラドを抱き、そのまま引き寄せる。使い魔の身体とガラドの身体が密着し、互いの体温を直に感じるようになる。ガラドの尻から背中にかけて熱いものが押し付けられ、互いに欲望を高め合っていた。


「んんッ……はぁッ……やめ、ろ……」


性欲の高まりによる昂揚と魅了の効力により、朦朧とした意識の中で意地を張るようにガラドは繰り返した。もはややめてほしいなどとは思っていない。もっと触って、直接触ってほしい。扱いてほしい。身体を重ねて、互いに高め合い、昂りを放出したい。それでもなんとか抵抗しているのは、意地と羞恥、そして男としてのちっぽけな矜持によるものだけだった。

不意に使い魔の手と身体が離れ、その温もりがなくなることに名残惜しさすら覚えたガラドはそのこと自体に羞恥する。かしゃり、と軽い金属音が背後で聞こえ、布が空気を叩くばさりという音が続く。使い魔が身につけている装備を脱いだのだ。


「……っ!」


直後、背後から温かく逞しい肉体に全身を包まれる。背中で感じる盛り上がった胸に、押し付けられる硬く熱いもの。自分より一回り太い太腿は両側から軽く挟むように拡げられ、漆黒の腕はガラドの胸と股間に伸ばされる。


「……ふっ……はっ……」


耳元から荒く短い吐息が聞こえる。昂った使い魔が、抑えきれない興奮を漏らしているのだ。ガラドはえもいわれぬ感情を覚える。こいつも、こんなに興奮してくれている。

使い魔の手がついにガラドの下履きをずり下げようと、その縁に指をかける。抵抗する気はさらさらなかったガラドはいっそ、足を動かして邪魔な下着を脱ぎ去るのを手伝った。

弾けるように現れたガラドのそれは先端に透明な液体を浮かべており、細く糸を引いているのを見てガラドはさすがに羞恥した。


「……いい、反応だな」


「クソ……うる……せぇよッ」


漏れ出るような低音とともに、尻にあたるものがびくりと反応した。そこはかとなく、腰のあたりがわずかに濡れているような感触があった。ガラドは一層、自分が昂るのを自覚した。


「はっ……はっ……くっ、ふぅっ……」


使い魔の手がガラド自身を包み込む。そのままがしがしと扱かれるたびに吐息が漏れ、太い指が段差に当たる度、痺れるような快感が奔る。透明な先走りは量を増し、使い魔の黒い手を汚すまでになっていた。それが潤滑油となり、快感をいや増していく。


「……ふっ……ふっ……んっ、はぁっ……気持ちいい、か……?」


「んッ……ぁ、はぁっ、ふざ、けんなっ……。わざわざ……あッ……く! 聞いてくんじゃ、ねぇッ……アァッ、んッ!」


ガラドは自分が上り詰めていくのを感じていた。また、背後の使い魔が自分の尻に硬くなったそれを擦り付けてきており、だんだんとその滑りが良くなっていくのも知っていた。湿った水音が響くたび、ガラドは羞恥と快感の波に襲われる。


「うあぁ……ハッ……んぁッ!ハッ……くっそ……俺、そろそろ……やべぇッ……」


「んんッ……ふ……はぁッ……。……まずいな。オレも、つい調子に乗りすぎた。本来の目的を忘れるな」


そう言って使い魔は腰の動きを止め、荒い息を整えながら一度ガラドから手を離した。せっかく上り詰められそうだったのに、急に快感を失ったガラドは切なそうに吐息を漏らす。使い魔は濡れていない方の手をガラドの肩に回して抱き寄せ、身体に力が入らない獣人の支えとなる。


「いささか散らかっているが、仕方あるまい」


使い魔は片翼を拡げ、そのまま空気を押し出すように一閃した。強烈な風圧で散乱した瓦礫や雑貨が吹き飛び、平らな床が現れる。使い魔は自らが纏っていた装備を敷き、そこにガラドをそっと仰向けに寝かせる。


「お、おい、何を……」


「精を取り込むと言っただろう。あのまま出されては床を舐めさせられんからな。溢すのも勿体無い」


言いながら、使い魔はガラドの上に覆い被さった。腰の脇に両膝をつき、頭の横に両肘をつく。黒々とした漆黒の毛に覆われた肉体は腹のあたりがかすかに濡れており、先ほどの行為の残滓が月明かりを反射してぬらりと光っている。使い魔の動きに合わせて揺れる男の象徴は、涎を垂らしながら時折り脈動していた。

使い魔はガラドの後頭部にそっと片手を差し込み、軽く持ち上げながら口を塞いだ。

使い魔自身の口で。


「んぅっ……ふっ、ふぅっ、んっ」


突如行われた口付けに、ガラドは流されるままそれを受け入れた。舌を絡ませ、唾液を交換し、互いの口内を犯し合う。淫らに響く水音はガラドの思考を欲に染め上げ、気づけば使い魔の背に手を回していた。自分に劣らぬ逞しい背、熱い体温。全てを欲するように力任せにそのまま抱き寄せ、貪るように口付けをあじわう。硬く屹立したままの性器は腹筋につくほどに肥大し、先端から溢れる透明な液体はとめどなく腹を濡らしていた。

使い魔は口付けを続けたまま、腰の位置を調整する。ガラドのものと自分のものの軸を合わせ、少し腰を落として二本の性器を握り込んだ。そのまま、二人分の先走りを潤滑油に水音を響かせながら勢いよく扱く。


「んッ! うぁ……ぁあッん……ふ……んんん!」


強烈な快感にガラドは身を捩って耐えた。互いの熱を直接感じる。興奮を分け合い、高め合うその行為は未知の快感だった。先ほど放出寸前まで高まった熱が、再びせりあがってくる。


「ふぅっ……んッ! ふ、ハッ……ガラド……ッ」


精悍な顔で、余裕の無くなった表情で、蒼い瞳で、名を呼ばれる。なんとも扇情的な顔だった。おそらく魅了の効果だろうが、もうそんなことはどうでもよかった。こいつと身体を重ねていたい。口付けをして、高め合って、共に果てたい。

ガラドは力の入らない足をなんとか床に突き立て、自ら腰を振って快感を求めた。使い魔が唾を飲み込む気配がして、性器を握る手に力がこもった。先走りは止まらず、汗が噴き出る。情欲に支配されつつある頭で、ぼんやりと気づいた。そういや、こいつの名前を聞いてない。


「ぅあッ……ぁあん……ふっ、く……ずりい、ぞ……お前だけ……はぁ……んっ! な、まえ、なんていうんだよ!」


「……んっ……ハァッ……バーゼット。バーゼットだ、ガラド……ッ」


ガラドは使い魔を抱く手にできるだけ力を込めた。


「んッふぅ……アァッ! 好きだっ、バーゼット! 好き、んぅっ……好きだッ……ああ、ん!」


使い魔、バーゼットは瞠目する。同時に、満たされたような多幸感に襲われた。それはそのまま昂りとなり、バーゼットに容赦無く襲いかかる。かつてない興奮が、全身を駆け抜けた。尻がぶるりと震え、性器を握る手を力任せにがしがしと動かす。


「んんんッ! あァッ! くっ……そ、イク……イ……ク! んんんんんんッ!」


押し殺したような獣の雄叫びをあげ、バーゼットは精を放出した。ガラドの白い腹を更に白い粘液が濡らす。バーゼットの脈動にあわせて勢いよく放出される精は、未だ腰を振り続けるガラドの性器にも降りかかる。ぬるぬるとした熱い感触が、ガラドを更に興奮させた。


「ぅあ……はぁんッ! すげ、あつ……いッ……バーゼットぉ……んん……あッ!」


「ハァッ……ハァッ……あぁ、クソ……オレが先とは……だがオマエ、魅了が効きすぎていないか? そこまで強くかけた覚えは……」


「し……るかッ! んッ! いい、から……はぁっ、握っとけよ……俺も……出してェッ……!」


腰を振るガラドは止まりそうにない。その姿はなんとも官能的で、バーゼットは不覚にも見惚れていた。汗だくになり、ビロードのような白い体毛に覆われた筋肉は艶めかしい光を放つ。欲に支配された碧色の瞳は魅了の効果か、焦点が合っているのか定かではない。腰を振り続ける太腿はしなやかな曲線で、力が込められているせいか普段よりも一層太く逞しい。その間で揺れる男の象徴は、自分が出した精液に塗れてぬらぬらと光っていた。

バーゼットには、我慢ができるはずもなかった。萎える様子をまったく見せない己の分身で、何がしたいのかは明白だった。


「くそっ……まだだ。ガラド、このまま挿れるぞ。オレも、オマエの中で出したい。オマエと繋がりたい。オレも、オマエを……」


「はぁ……ん、俺も……ッお前としたい……! けど、俺……あぁッ、なんも、わかんねぇぞ……っ」


「案ずるな。細工はしてやる」


ガラドは尻の中心にじんわりとした熱が発生するのを感じた。同時に太腿の力が抜け、腰を振れなくなる。


「お、おい、お前また……何を」


「筋肉をほぐしてやっただけだ。浄化もな。力を抜いたまま、オレに任せておけ、ガラド」


困惑するガラドを尻目に、バーゼットは身体の位置を変える。ガラドの尻の脇に膝をつき、そのまま自分の太腿を開くようにしてガラドの足を持ち上げ、マウントを取った。

先ほど放出した自分の精を塗りたくり、ガラドの秘部にあてがってゆっくりと腰を前に突き出す。ガラドの嬌声に煽られながら、それは根本までガラドの中に収まった。


「んぅ……あぁッ、はぁッ、バーゼット……お前が、今、俺ん中に……ッ」


「はぁッ、はぁッ、ガラド……! オマエと……繋がっている……っ」


バーゼットはたまらず腰を動かしはじめた。熱く柔らかな感触が性器を包み込み、入口は収縮してバーゼットを締め付け扱き上げる。内部で分身が少しずつ液体を流すのを感じながら、バーゼットはガラドの分身も激しく扱いた。


「んああッ! す、げぇッ……バーゼット……! やっ……ぁあんッ! ハァッ、んあッ」


「うッ……ああ! っく、……んんッ! 気持ち、いいッ……ガラドッ!」


打ち付けるように腰を振るバーゼットには、当初の余裕など消え失せていた。一心不乱に快感を追い、精悍な顔を歪めて性欲に見を任せる。艶やかな漆黒の肉体から汗が滴り落ち、激しい運動で筋肉が躍動する。ガラドは腕を伸ばし、黒い獣を求めるように引き寄せた。口付けをし、背中に手を回し、宙に浮いている足でバーゼットを挟み込む。全身で密着する形となり、互いの汗と精とが混ざり合って卑猥な音をたてた。


「アァッ……んはぁッ! バーゼット……好きだッ!」


「…………っ、んぅッ! く、はぁッ!」


とぷり、と精を漏らした感覚があり、バーゼットは一瞬動きを止める。搾り取るような内部の動きにそのまま再度果てそうになるが、もう一度わずかに吐精するに留めてなんとか堪え、動きを再開してやられたままでたまるかと反撃の意思を固める。


「ガラド……ッ! オレもオマエが好きだ……! ガラド……ふっ……く!」


ガラドは全身に力を込めてバーゼットを抱きしめる。内部でどくどくと脈打つ生き物が少しずつ熱いものを吐き出し続けるのを感じ、それはそのまま自らの昂りとなった。ガラドの屹立から、だらだらと半透明の涎が溢れ始める。互いに、もう限界が近かった。


「あぁッ! バーゼットぉッ……! 俺も……! んぁあッ……ぐっ……イキ、そ……そろそろ……イク……ッ! 出る!」


「オレも……っ出る! オマエと共に……果てたいっ……ぅ……おおおッ!ガラド……ッ」


唸り声を上げ、バーゼットの腰の動きが早まる。ガラドを扱く手にも力を込め、奥深くまで繋がった二体の獣は雄叫びをあげた。


「やっ……んんああッ! ふ……はぁ、んッ……出そう、出る! バーゼット……すげ……熱いッ! イッ……ク!……あああああッ!」


「く、ぅあッ! イク……っ! ハァッ、ハァッ、ガラドッ! もう……限界だッ! 出すぞ……ッ! イク……出るッ……んんあああッ!」


白と黒の獣は同時に果てた。ガラドは自分の奥深くに注がれる熱い精を感じながら、自らも濃厚な精を放出する。跳ねるように動くガラドの性器は黒い手の中で勢いよく脈打ち、自分の白い腹を汚す。何度か噴き上げた精は勢いを失うと、鈴口からとぷりと流れ出て性器を濡らした。バーゼットは絶頂の瞬間に奥深くに自らを打ち付け、堪えていた分の精を思い切り吐き出した。ガラドも同時に達したせいか入口が搾り取るように収縮し、腰が砕けそうなほどの快感を覚えて尻を震わせた。そのまま内部に塗りつけるようにゆるゆると腰を振り、残りの精全てをガラドの中に吐き出した。

バーゼットは息を荒げたまま、ガラドの腹から精を掬い取り、そのまま魔力リソースに変換して吸収する。ガラドとのパスが太くなり、魔力供給が十分な量になるのを感知しながら、最後の一滴をあえて残し、ぺろりと舐めて満足そうに笑みを浮かべる。

使い魔は主に軽く口付けを落とし、額の汗を拭ってやりながら雄臭く柔和に微笑んだ。


「ガラド……好きだ。これから、オマエにどこまでもついていってやる。オレは、オマエを主として認めよう。オマエと共に戦い、守り、心を砕こう。……あとは、まぁ。またこういうこともできると、退屈しなくて済む」


照れ臭そうなバーゼットのたてがみを、ガラドはくしゃりとなでてやる。意外にかわいいやつだな、と思った。これが魅了の効果だったとしても、今が満たされているのなら、きっと効力が解けてもこの気持ちはなくならないだろう。そうであればいいなぁと、ガラドは呑気に考えていた。

実際のところ、使い魔の精を取り込んだことで、ガラドの魔力回路は励起し、保有魔力は増大していた。それにより魔法への耐性が自動的に跳ね上がり、魅了の効力も切れていたのだが。

ガラドはバーゼットに口付けを返し、そのまま目を閉じる。最高の戦利品を手に入れたもんだ。

新しい相棒を見つけた充足感と相棒の温もりに包まれ、召喚士はそのまま意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

@azelas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る