主人公は頭が切れる。野心がある。何者かになりたいという渇きがある。
でも、最初から万能ではない。
育ちの悪さも、社会から足元を見られる悔しさも、自分の才覚を持て余す閉塞感も、全部抱えたまま戦場へ出る。
「有能な主人公が無双する」という単純さはなく、「有能になりたい主人公が、戦場に才能を削られながら形を変えていく」
チートでもハーレムでもなく、派手な快楽だけで押す作品ではないけれど、戦記を読みたい私のような豚の者にとっては、こういう重みこそご馳走。
ぎりぎり異世界なろうのテンプレートを守っているふりをして、芯に戦場、階級、野心、相棒、教育、初陣、責任という餌が散りばめられている。
そしてその餌は噛めば噛むほど、血と土と若さの味がする。
そしてユーリカ。軍事オタクの豚たちの性癖を刺激する存在。
前線で戦果を挙げる男の背後に、帰るべき場所とも、さらに進めと焚きつける火種ともつかない女がいる。
こういう関係性は非常によくない。けしからん。
戦場でしか自分を証明できない若者の飢え。
軍事オタクの豚として申し上げたい。
これはご飯です。
そして、ところどころに特上の餌が埋まっています。
以前なろうの方で「ルチルクォーツの戴冠」を読んだことがありますが、やはりエノキスルメ先生の作品はいいなぁ…としみじみ思いました。戦記ものということで勧善懲悪ではありません。勝った方にも犠牲はあります。その犠牲を悲しみつつもそれぞれのキャラの結末がよかったです。読者からヘイトを溜めまくっていた敵将・ツェツィーリアですが、なぜか私は彼女を推していました。ものすごく魅力的な敵だと思います。ツェツィーリアの憎たらしくなるような戦略の数々。ラストの手に汗にぎる展開。素晴らしい読書時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。ざまぁや勧善懲悪のお話以外も読みたい方にお勧めです!