第38話 パーティー名
それからも毎日魔物を狩って、60レベを目指した。
火山フィールドにも流石に慣れたもので(ガルはずっとヘバっているけど)、特筆するようなイベントは何も起きていない。
「昨日の『SFF』の配信見た?もう48層まで行ったみたいだよ」
「見た見た。俺達は俺達で時間かかり過ぎだけど、『SFF』は進むの早過ぎだよな」
「凄いよね」
『SFF』はサンさん達のパーティー名だ。
確か、
「やっぱ、ステータス特化の方が強いのか?」
『人類最速』のサンさんは素早さ特化型、ミアちゃんは魔力特化型のステータス構築をしている。
特化能力でゴリ押しているからか、同レベルの魔物でも一方的に倒せている。
「でも、1番活躍してるのは万能の万堂君じゃない?」
「そういえばそうだな」
万堂君は『SFF』唯一の万能型探索者。
ステータス構成的にはライに近いが、彼には『適応力』というスキルがある。
フィールドの影響をほとんど受けなくするスキルで、火山フィールドの暑さを無視して行動ができている。
「良いよな適応力。俺もこの暑さにはいい加減ウンザリだ」
「でも、火山とか雪フィールドでなければ、そんなに効果はないかもね」
「あーそっか」
ガルの『水操り』も水辺では無敵の強さを誇るが、火山フィールドではほぼ効果が無い。
どんなスキルにも一長一短はあるものだ。
「まあ、1番はやっぱ装備の影響だろうな」
「
ミアちゃんは『知恵の木の杖』(魔力+15)、万堂君は『海の怪物の盾』(防御力+15)という伝説武器を装備している。
ステータスは5ポイントで1段ランクが上がると言われているから、+15となると装備だけで3段階上昇だ。
まさに伝説級の装備アイテムで、もし売れば確実に億超えするはだろう。
なお、サンさんは伝説武器は持っていない。
代わりに『マジックバッグ』を持っている。
「マジックバッグもいいよなあ」
「いいよね」
マジックバッグは魔法のバッグ。
見た目は小さなポーチ(巾着袋?)だが、容量は300L(浴槽くらい)ある不思議なバッグだ。
「この辺まで来ると魔石も大きいから、結構荷物になるんだよな」
「ガル用の水も大量に持ってこないといけないしね」
武器や回復ポーションなども含めると、探索者の荷物は結構多い。
「その辺の魔物からドロップしたりしないかな」
「深層クラスの魔物からドロップしたことはあるらしいけど」
「まだ先かあ…」
話しながら49層を探索していると、50層へ降りる階段を見つけた。
しかし、まだ60レベではないので、降りることはできない。
「追いつかれるのも何となく癪だから、俺達も頑張んないとな!」
「…むしろ、合同攻略とかできないかな?」
「合同攻略?」
50層はボス部屋だ。
仕組みは25層と同様。
入ったが最後、中にいる『地竜』を倒さなければ出ることはできない。
そして、50層のフィールドも当然火山だ。
「勝つか死ぬかのボス部屋攻略に、私達だけだとちょっと不安じゃない?」
「あー、特にガルが問題か」
50層も当然火山フィールドだ。
ガルの活躍はほぼ期待できない。
実質2人でボス部屋を攻略できるかと言うと、正直厳しいと思う。
他に仲間がいてくれるのなら、それに越したことはない。
ただ、合同攻略をするには向こうのパーティーの同意も必要だ。
「受けてくれるかな?」
「大丈夫だろ」
「どうして?」
「『ガルを触らせてやる』って約束すれば、飛び付いてくるんじゃないか?サンが」
「それは…そうかも」
『SFF』の連絡先は知らない。
だが、配信のタイミングから逆算して、受付で待ち伏せをすれば、捕まえることはできるだろう。
Xwitterとかでメッセージを飛ばしてみてもいいかもしれない。
その日の探索は早めに切り上げ、試しに受付で待ってみたところ、30分ほどで彼らはやってきた。
時刻は16時45分。
合同攻略の話を持ちかけてみると、
「いいですね!」
と快諾してもらえた。
「いきなりボス部屋もアレなので、49層辺りで一回合同探索を試してみませんか?来週とかで」
「来週と言わず、明日からでも私達は構わないけど」
「いや、もう少し待ってください!あと1レベ上がったら防御力40に乗るので!」
「マジ?ついこの前まで防御力10だったんだろ?早くね?」
「今、SP全部防御力に振ってるので!ガル君触りたいので!」
「お、おう…。熱量が凄いな」
「分かるわ…」
それから数日後、『SFF』は49層に到達した。
「あーあー、映像、音声等大丈夫でしょうか?」
〈きちゃー!〉
〈はじまた!〉
〈うおおおおおおおお!!〉
〈生きがい〉
〈映像も音声も大丈夫!〉
〈今日も嫁のサンちゃんが可愛い〉
〈サン君は男、異論は認めない〉
〈は?〉
〈56すぞ?〉
〈今日も戦争かあ〉
〈毎日飽きないね君達〉
〈ネタは擦れるだけ擦れって万葉集にも書いてあるし…〉
「よし!大丈夫そうなので始めていきまーす。皆さんこんばんは、『SFF』のサンです!」
「ミアでーす!」
「万堂…です」
「万堂さん、まだ挨拶慣れない?」
「配信自体に慣れねえ…」
「まあ、何とか頑張ってもろて」
万堂さんは元々ソロ探索者で、つい最近『SFF』に加入したばかりだ。
そのためか、振る舞いには初々しさが残っている。
〈初々しい万堂さん可愛い〉
〈へえ…可愛いね…〉
〈万堂さんは俺の嫁〉
〈嫁…?〉
〈もっと困らせたい〉
〈強面イケメンの困ってる顔良いよね分かる〉
「…」
サンさんの性別があやふやなせいか、3chの女性視聴者人気は万堂さんに集中している。
同様に男性人気はミアちゃん。
サンさんはどっちつかずという感じだ。
まあ、彼らはアイドル売りをしているわけでもないので、特に重要な話ではない。
「さて、昨日55レベに上がったので、今日からは49層探索…なのですが!これからしばらくは別のパーティーと合同で探索していくことになりました!」
〈おお!〉
〈マジか!〉
〈コラボってこと?〉
〈相手は誰だ?〉
〈コラボも久々か〉
〈モーニング⭐︎スターとコラボして以来やな〉
〈数週間振りか〉
〈言うほど久々か…?〉
「…これもう喋っていい感じ?」
「どうぞ!」
「えー、あー、こんばんは。ライです」
「セイです。ほら、ガルも挨拶して?」
「GARU!」
「ということで、日本2位パーティーのライさん達に来ていただきましたー!」
〈うおおおおおおお!〉
〈日本2位だああああ!〉
〈あ、君かあ!〉
〈いつかのテイマーの人達や!〉
〈狼だああああああ!〉
〈なんか書いとけ〉
〈うおおおおおおお!〉
〈そういえば、2位さん達ってパーティー名とか無いんか?〉
私達のパーティー名は、今のところは無い。
「何でパーティー名無いんですか?」
「必要性を感じなかったから…」
〈ええ…〉
〈嘘だろ…〉
〈普通真っ先に付けるだろ〉
〈パーティー名を付けるために探索者になると言っても過言〉
〈いや過言なんかい〉
〈まあ流石に過言やな〉
〈でも普通付けるだろ!〉
「パーティー名、あった方がいいかな?」
「まあ、これからは配信に映るわけだからな。あった方が、視聴者的にも呼びやすかったりするんじゃね?知らんけど」
一理ある。
合同探索的にも、パーティー名があった方が指示出しなどしやすいかもしれない。
「じゃあ、今パーティー名決めちゃおうか?」
「え、そんな簡単に決めていいんですか?」
「まあ、いいんじゃね?」
元々必要無いと思っていたパーティー名だ。
雑に付けても問題はないだろう。
ただ、火山フィールドでダラダラ考えているわけにもいかないので、手早く決める必要はある。
さて、どうしようかな。
可愛い感じがいいかな?
「あ、待った!セイが付けるのはまずい!」
「そうなの?」
「そうなんですか?」
「ああ…セイは大抵のことは完璧にこなすけど、ネーミングセンスだけは壊滅的に終わっているんだ…」
「壊滅的に終わっている…」
「ちょっと!?」
1万人以上の視聴者の前で誤解を与えるようなことを言わないでほしい。
確かにガルの名前はライが付けたけれど、あの時は少々冷静さを欠いていただけだ。
本気を出せば良いネーミングくらいすぐに思い付く。
…はずだ。
多分…恐らく…。
「うーん。俺らのパーティーの特徴を上げるとしたら、やっぱり狼を連れていることだから…『犬軍団』とか?」
〈狼じゃないんかーい〉
〈1匹だけだから軍団でもなくねえ?〉
〈まあ日本最強パーティーも4人で百鬼夜行を名乗っているから…多少はね?〉
〈〇〇団はよくあるパーティー名だし…〉
〈せめて狼軍団では?〉
〈それだとちょっと語呂悪いか…〉
よし。
ライの案もそんなに感触は良くなさそうだ。
これなら、私が良案を出せば勝てる。
(パーティー名を付けるにあたって、考えるべき条件は以下の4つ)
・狼に関係するワードを使う
・可愛い系よりは多分かっこいい系の方がいい
・できればライのことも絡めたい
・なにより簡潔で覚えやすい名前でないといけない
(狼…牙…ライ…爪…拳…)
はっ、そうだ!
「『
〈ダッッッッッッッ〉
〈ネーミングセンスさん…!?〉
〈どうして拳法になってしまったのか…〉
〈うーん、これはヤムチャ〉
〈弱そう〉
〈ラーメン屋っぽい〉
〈どっちか選べと言われたら…まあ、犬軍団やな〉
〈まあ…消去法でな…〉
こうして私達のパーティー名は『犬軍団』に決まった。
解せない。
一体何がいけなかったのか…。
狼牙雷雷拳…。
かっこいいと思うんだけど…。
次の更新予定
2024年9月21日 09:00
笑劇のヴォルフガング!!!〜大狼と現代ダンジョンを最深層まで〜 金目の物 @husky333
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