第37話 お嬢様言葉縛り
『品川ダンジョン』の封鎖が解かれてから数週間後。
「よし!レベルアップ!」
『インフェルゴン』という岩でできた恐竜みたいな魔物を倒したところで、全員のレベルが59に上がった。
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名 前:ライ
レベル:59(+1)
体 力:96(+2)
攻撃力:96(+2)
防御力:96(+2)
素早さ:95(+3)
魔 力:29/50
運 :10
S P :0(-9)
スキル:剛力、破壊、雷弾、呼吸、投擲、帯電、放電、乱打、修復、蓄電、豪雷
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名 前:セイラ
レベル:59(+1)
体 力:80
攻撃力:40
防御力:110
素早さ:80
魔 力:60/108(+6)
運 :15
S P :0(-6)
スキル:テイム、バリア、ヒール、転送、不動心、指揮、進化、騎乗、浄化、誘惑、フォグ
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名 前:ガル
レベル:59(+1)
体 力:112(+2)
攻撃力:90
防御力:70
素早さ:115(+5)
魔 力:15/50
運 :20
S P :0(-7)
スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化、水操り、水流砲、2段ジャンプ、水刃
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いよいよ大台の60レベと、50層ボス部屋への挑戦が見えてきた。
「ここまで長い道のりだった…」
「でも、今日はこれまでだね」
「そうだな」
下を見ると、ガルが暑さでヘバって伸びていた。
帰りのことを考えると、そろそろ切り上げ時だ。
時刻は17時過ぎ。
18時くらいからピークタイムに突入して人が増えるので、俺達はそれより先に帰ることにしている。
夏休み中の上層の混雑っぷりは半端じゃないからな。
火山フィールドをガルに乗って走っていく。
目指すは2層行き転移陣のある46層だ。
「お?」
47層から階段を上がって46層に出たところ、大岩の向こう側から戦闘音が聞こえたきた。
「他の探索者か?この階層で他人に会うの初めてだな」
「そうだね。見に行ってみようか」
大岩を回り込んで近付いてみると、徐々に向こうの様子が見えてきた。
戦っているのは『
「くっ!こいつ、急所どこですの!?」
「分かんない!…じゃない!分かりませんですわ!」
「…」
何故か『ですわ口調』で話しながら戦っている。
見た感じ、全員が女の子の『お嬢様パーティー』っていうわけでもない。
というか、あのパーティーって…。
「『SFF』じゃない?」
「だなあ」
『SFF』は新進気鋭のダンジョン探索者パーティー。
かつ、今注目のダンジョン配信者パーティーでもある。
ここ数週間で一気に人気が出た配信者だが、主体となっているのはあの『深層転移事件』から生還したサンである。
「バウンド!一閃!…ダメですわ!物理攻撃無効っぽいですわ!」
俺も何回か『SFF』の配信を見たことがあるけど、いつもは普通に喋っている。
何で今日に限ってお嬢様言葉なんだ…。
「火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!」
物理無効と見て、金髪赤眼鏡の女の子が炎魔法を放った。
彼女の名前はミア。
『連射』スキル持ちの炎魔法使いだ。
ただ、炎系の魔物に炎魔法は効果が薄く、火弾5連射も全くダメージになっていなかった。
「ストーンブラスト!」
鎧に身を包んだ黒髪男も魔法を撃った。
彼の名は万堂。
『SFF』唯一の万能型ステータスの持ち主だ。
彼の岩魔法は効果があり、ファイヤーテンタクルの触手を1本吹き飛ばした。
しかし、すぐに再生した。
「この感じ、まさかこいつも核無し魔物ですの!?」
その推測は当たっている。
ファイヤーテンタクルには核が無い。
リバイバルスライムとか火の鳥と同系統の魔物だ。
「苦戦してるな」
「有効打が無さそうだね」
「助けるか?」
「聞いてみようか」
手こずってはいるが、ピンチではない。
無断で助けに入って文句を言われても嫌なので、事前確認はきっちり入れる。
「おーい!手助けは必要かー!」
「あ!他の探索者だ!ですわ!」
「お願いしますわ!助けてくださいまし!」
「…」
了承を得たので、俺達も戦闘に参加する。
「雷弾!雷弾!雷弾!」
「ガル、水流砲!!」
「GARU!!」
俺の雷魔法で触手を何本か吹き飛ばし、敵の身体を小さくしてから、切り札の『水流砲』で全身を消し飛ばして倒した。
「「つっよ!」」
「…」
まあ、レベル差あるからな。
「助けていただき感謝いたしますわ」
「ありがとう!ですわ!」
「…」
ファイヤーテンタクルを倒した後、俺達は一時的に47層行き階段へ戻って、そこで話しをした。
階段内は多少暑さが緩和される、ような気がする。
「俺はライだ」
「私はセイ。こっちの狼はガル」
「あー!この狼、スタンピードの時の!ですわ!」
おっと、どこかですれ違っていたか?
ちょっと記憶を遡ってみたが、特に思い当たることはなかった。
あの時は焦っていたし、人も多かったからなあ。
「美愛さん、とりあえず自己紹介からにしませんこと?」
「あ、そうだね!あたしは江口美愛っていいます!ですわ!」
「私はサンで、こっちの無口な人は万堂さんですわ」
「…」
万堂は目つきが鋭く、人相も悪かった。
何よりさっきから一言も喋らない。
機嫌でも悪いのだろうか?
「万堂さんはいつもは普通に喋りますが、今は『お嬢様言葉縛り』をやっていて、『ですわ』って言いたくないから一言も喋っていないのですわ」
「ええ…?」
「お嬢様言葉縛り…」
「…」
万堂は眉根を寄せた。
さっきまでは不機嫌そうに見えていたが、今は何だか悲しそうに見える。
何か、大変そうだな…。
「『お嬢様言葉縛り』…いわゆる『企画』ってやつか」
「あ、もしかして、私達のこと知ってらっしゃったり…?」
「現役探索者で『3ch』知らない奴とかいないだろ」
『深層転移事件』で一躍有名になったサン達だが、その後も色々やってバズり続けていた。
中でも1番バズった出来事といえば、つい先日の『幻のダンジョン』を踏破した件だろう。
詳細は省くが、『幻のダンジョン』で何やかんやあった結果、飛躍的にレベルが上がり、探索者になってからわずか1〜2ヶ月で46層までやってきたのが彼らである。
「あ、今も配信中で、皆さんもガッツリ映っちゃってるんですけれど、大丈夫でしたかしら…?」
「あー、別に構わないぞ。な、セイ?」
「まあ、そうだね」
サン達の背後にはずっと配信撮影用のドローンが飛んでいる。
せっかくなので、ドローンに向けてピースをしておいた。
〈ピースしたw〉
〈ノリ良いなw〉
〈イェーイ!こっちみってるー?〉
〈スマホ見てないしコメ欄は見てないだろ〉
〈しかし美男美女コンビか…羨ましい…〉
〈狼も美形やしなあ〉
〈わんちゃんかわいい!〉
「じゃあ、俺達はこの辺で」
ガルが『早く帰ろう』と急かすので、軽い挨拶だけで帰ろうとしたところ、
「待ってくださいですわ!」
と、サンに止められた。
「何か?」
「実は…言いにくいことなのですが…1つ頼みがあるのですわ…」
「頼み?」
何だろう?
思い当たる節は全くない。
先の戦闘を受けて、火魔法の通りが悪そうだから火山フィールドの探索を手伝ってほしい、みたいな話だったら厳しい。
俺達はまだしも、ガルがもうガス欠寸前である。
「そのガル君なのですが…ちょっと…」
「ちょっと?」
「ちょっと、触らせてもらってもよろしいかしら!?」
「「どうぞ」」
「やった!ありがとうございますですわ!!」
何を言われるのかと身構えていたが、全然大した話じゃなかった。
ガルは『そんなことより早く帰らせてくれ』という雰囲気を醸し出していて、かなり不機嫌そうだが、まあちょっと撫でられるくらいは別にいいだろう。
「サンさん犬派だったっけ?ですわ!」
「犬派ですわ!猫も好きですけれど!大型犬がNo. 1ですわ!」
「分かるわ…」
何か…テンションぶち上がってんな…。
配信者だからリアクションが大きめなのか?
(いや、ガル捕まえた時のセイもこんな感じだった気がする…)
まさか、犬派って全員こんな感じになるのか…?
「あ、待って!確か、サンさんって素早さ特化じゃなかった?防御力はいくつ?」
「防御力は10ですわ」
「じゃあ、ダメだな」
「じゃあ、ダメだね」
「えー!!!!!?」
サンは『深層転移事件』を経て『世界最速の探索者』となった。
だが、素早さに極振りした分、防御力は捨てることになり、耐久面は一般人と変わらない。
そして、ガルは大型獣かつ攻撃力112の化け物だ。
一般人並みの防御力で触ったら、ワンチャンスどころかスリーチャンスくらいで怪我をする。
「最低でも、防御力40くらいはないと危ないから…」
「そ、そんな…ですわ…」
サンは膝から崩れ落ちた。
「私…今後は防御力あげます…ですわ…」
「えー!?ついに防御力上げるんだ?ですわ!」
「…」
万堂は何とも言えない顔でサンを眺めていた。
『今まで防御力を上げずにやってきたのに、狼に触りたいって理由だけで防御力上げるのか…』みたいな顔だった。
「だって、でっかい狼が触りたいんですもの!!」
「「「…」」」
サンの叫びに対し、セイだけは『分かるわ…』みたいな顔で頷いていた。
犬派さあ。
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