第8章【49層】合流
第36話 スタンピード
『深層転移事件』から1週間後。
『品川ダンジョン』ではまた新たな事件が起こっていた。
「『品川ダンジョン』で
時刻は夜の9時前。
探索を終えて家で休んでいた私のところへ、『品川ダンジョン』受付から救援要請の連絡がきた。
『はい。つきましては、日本No.2パーティーであるセイさん達にもスタンピードを鎮める協力をお願いしたく…』
『スタンピード』とは、本来階層間を移動しないはずの魔物達が地上へ向かって登ってくる現象のことである。
ダンジョンは各階層ごとに明確なレベル区分が存在するが、スタンピード中はそのルールが崩壊、下層の魔物が上層に現れたりして、極めて危険な状態となる。
最近だと、フランスの『パリダンジョン』がスタンピードによって完全封鎖にまで追い込まれている。
「確か、パリのスタンピードは『効率的な探索』を突き詰め過ぎたのが原因でしたよね?」
魔石回収優先で雑魚魔物狩りを奨励し、討伐難易度の高い飛行系の魔物(ワイバーン等)を放置した結果、それらの魔物が下層から大量に溢れ出し、スタンピード発生。
ダンジョン入り口を爆破し、崩落させて、何とか事態を収拾したが、新エネルギーとして注目されている魔石の供給地を失ったことで、フランス経済は大打撃を受けた。
「今回の原因は分かっているんですか?」
『現在調査中です。ただ、「百鬼夜行」が56層の探索中で、56層では異常行動は見られないとの報告が上がってきています』
「ということは、上がってくる魔物は最悪でも55層の魔物までか…」
私達は現在レベル55。
49層までの魔物なら相手ができる。
既に探索を終えた後なので、体力も魔力も減っているが、それでも何かできることはあるだろう。
「分かりました。ライとガルと一緒に、今から向かいます」
『ありがとうございます!助かります!』
2人を連れて『品川ダンジョン』に着くと、受付は負傷した探索者達でいっぱいだった。
「うわあ…」
「これは…大変だね…」
外では何台もの救急車がひっきりなしに出入りしている。
「セイさん!ライさん!お待ちしていました!」
受付に呼ばれ、状況を聞きにいく。
「今は協力要請をした探索者の皆様に魔物の対処に当たってもらっています。また、『百鬼夜行』の皆さんから『51層で異常行動確認』という連絡を受けています」
「原因は51層ってことか?武蔵さん達がいたのは不幸中の幸いだな」
「私達はどうすればいいですか?とりあえず、火山フィールドに?」
「いえ、41層の海フィールドへ向かってください」
火山フィールドへは、51層を鎮圧した後で、『百鬼夜行』が向かう予定らしい。
「怪我人を発見した時用にポーションとかが必要か?」
「いや、海フィールドからは極端に探索者が少なくなるし、そんなに要らない気がする。それより、魔力回復ポーションはありますか?昼間の探索から、まだ魔力が回復していなくて」
私達は中級魔力回復ポーションを1本、下級魔力回復ポーションを2本貰った。
私が中級を飲み、ライとガルが下級ポーションを飲んだ。
海フィールドの探索であれば、雷魔法使いのライが中級ポーションを飲んだ方がいいのでは?と思ったが、
「俺とガルは魔力が切れても戦えるから」
と言って断られた。
地下1層に降りると、階段前で探索者達が固まっていた。
「うわ!?」
「何だこのデケえ狼!?」
「地上からも魔物が!?」
「うわー!でっかい狼だー!」
どうやら、ここが最終防衛ラインのようだ。
「通してください!私達は下層探索者です!」
何とか人混みを抜けたら、まずは9層を目指す。
9層にある41層行き転移陣で、海フィールドまでショートカットするためだ。
ガルに乗って走っていくと、上層だというのに中層の魔物が何体も現れた。
「近くの魔物だけでも倒していくか?」
「いや、進路上にいる魔物だけにしよう。下層の方が人手不足は深刻らしいから」
最短最速で9層まで行き、転移陣に乗って41層の砂浜に転移すると、
「おいおい…あそこに飛んでる奴、火の鳥じゃないか?」
この前倒したばかりの48層ボス魔物が41層にいた。
30mくらい先で、海上を優雅に飛び回っている。
「これは…めちゃくちゃだな」
「火山フィールドに行かなかったのは英断だったね」
41層がこれでは、火山フィールドには深層の魔物がいる可能性が高い。
こんな状況下で格上の魔物と遭遇するのが危険なのは言うまでもない。
「セイ、少しでも危なくなったら、すぐにガルに乗って逃げてくれ」
「ライもね」
「いや、俺はしんがりを務めたりしなきゃ…」
「ダメ。ライは1人にするとすぐ危険な目に遭うんだから」
「…前科があるせいで何も言い返せない」
「死ぬ時は全員一緒ね」
「重い重い」
周囲を見回してみたが、近くに他の探索者はいないようだった。
「今回ばかりは海フィールドが難所で良かったね」
「ここに派遣されたの俺達だけみたいだしな」
海フィールドから先は水魔法が必須。
海上を進むのも危険であるため、40層までで探索を諦める者は多い。
人手はないが、要救助者も少なそうだ。
「救助のことはあまり考えず、上がってきた魔物の討伐を最優先にしよう」
「OK。で、どうする?あの火の鳥。またペットボトルでも…」
「GARU!!」
話の途中で、ガルが勝手に走り出した。
「うお、ガル!?どこ行くねーん!」
ガルは勢いよく海面を走って行き、火の鳥に向かって跳躍した。
「あ、そうか!ここは火山じゃないから!」
「GARU!!」
ガルは火の鳥へ『水刃』を放った。
『水刃』は斬撃モーションに合わせて水の刃を飛ばす中距離攻撃スキル。
火の鳥は慌てて逃げ出そうとしたが、ガルの攻撃の方が速かった。
「PIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!?」
『水刃』一発で火の鳥は消滅した。
「「おおー!」」
火山フィールドでは苦戦した魔物だったが、この海フィールドではガルだけで圧倒できてしまった。
「これは…もしかして…」
「どうかしたか?」
ライに返事をする前に、遠くの方にもう1体火山フィールドの魔物を見つけた。
あれは『溶岩魔人』だ。
溶岩が巨人の形を成した魔物で、海上に溶岩を垂らして道を作りながら進んでくる。
「ガル、水流砲!」
「GARU!!」
溶岩魔人は40〜50mくらい先の海上にいた。
かなり遠かったが、『水流砲』は直撃して、溶岩魔人を吹き飛ばした。
「やっぱり!海上では炎系の魔物は逃げ場が無いんだ!」
しかも、溶岩魔人は『水流砲』に押されて倒れ込み、道を踏み外して海へ落ちた。
ドッボーン!
「GUOOOOOOOOOOOOON!?」
そして、海水で冷やされて、勝手に消滅した。
「え、終わった…?」
「炎系の魔物は海フィールドとの相性最悪みたいだね」
「…なあ、これもうガルだけでいいんじゃね?」
「…そうかも」
ガルは空へ向かって勝利の遠吠えを上げていた。
溶岩魔人を倒したことで、私とガルはレベルが上がった。
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:セイラ
レベル:56(+1)
体 力:78(+3)
攻撃力:40
防御力:100
素早さ:78(+3)
魔 力:65/100
運 :15
S P :0(-6)
スキル:テイム、バリア、ヒール、転送、不動心、指揮、進化、騎乗、浄化、誘惑、フォグ
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:ガル
レベル:56(+1)
体 力:100
攻撃力:91(+1)
防御力:75(+6)
素早さ:100
魔 力:17/50
運 :20
S P :0(-7)
スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化、水操り、水流砲、2段ジャンプ、水刃
ーーーーーーーーーーーーー
(この状況、レベル上げがものすごく捗りそう)
そう思ったが、不謹慎なので口には出さないでおいた。
「この感じだと、炎系の魔物は全部ガルに任せて良さそうだね」
「俺は?」
「ライは海フィールドの魔物を中心に倒していって」
「了解!」
その後も41層に陣取って魔物を討伐し続けた。
最終的には私とガルが58レベ、ライは57レベになった。
なお、魔物は沢山倒したが、救助者は1人も発見できなかった。
「海だし、着くまでに結構時間かかったしな…」
「仕方ないよ。初めから誰もいなかったと思おう」
深夜0時を回った頃に、受付から撤収連絡がきて、地上へ戻ると、探索者の代わりに機動隊らしき人達が詰めていた。
後のことはそちらに任せて、私達は家へ帰った。
翌日から『品川ダンジョン』は封鎖された。
探索者や機動隊の尽力でスタンピードの鎮圧には成功したが、ダンジョン内の環境はめちゃくちゃになっていた。
特に、山フィールドなどは山崩れが起きていて、かなり危険な状態らしい。
土砂に呑まれた人も多かったそうだが、迅速な救助のおかげで9割以上の探索者が助かったという。
「ダンジョン封鎖って永遠ってわけじゃないよな?」
「ダンジョンには原状回復機能があるから、しばらくすれば以前の状態に戻るはず。そうすれば、また探索できるようになる、はず」
「それまでは収入無くなるのか。どうする?バイトでもするか?」
「ガルの散歩コースもどうしよう?」
色々と問題はあったが、何やかんやどうにかした(収入に関しては夏休みと割り切った。ガルの散歩は早朝深夜など人目の少ない時間に近所の河川敷などで行った)。
そして、スタンピードの発生から1週間後、ようやく『品川ダンジョン』の封鎖が解かれた。
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