第9話
あの戦いから1週間後、僕はダンジョン都市内の病院で入院し、今日が退院日。
搬入直後は全身包帯ぐるぐる巻きにされ酷いものだった。アドレナリンが落ち着いてからは死ぬほど痛くて少しも動かせない状態だったのだ。
ここには怪我を一瞬で治せるポーションや塗り薬があるからそれを使えばいい話なんだけど、生憎お金がない。
この怪我は中級ポーションで完治するらしいが…一本20万円する。
旅費と少しのお金しか持ってない僕は絶賛借金を背負ったのだった。
「…輝かしい未来の英雄が借金スタートはいかん。すぐに返さないと…」
そのためにはこの都市の中心部に聳え立つ巨大な塔に行かなければならないが…まずは
「ギルドに入団しないと…」
基本的に冒険者はギルドに所属をする。
所属する事でメリットが色々とあるからだ。
僕が魅力的だと思うのは三つある。
一つ目がパーティを組める事だ。
ダンジョンは1人では潜れない。
入る事自体はできるけど冒険はできないのだ。
擬態したモンスター、隠れたモンスター、襲ってくる数が多い時、1人では対処ができない。
死ににいくようなものだ。
だからギルドに入る。それで同期たちとパーティを組むのだ。
もちろん野良の冒険者でもパーティは組める。
けれどそれには背中を預けていいと思えるほどの信頼、もしくは実績が必要不可欠。
そして二つ目が大手だと一般的には公開されていないダンジョンの情報や知識を得ることができる。
大手というのは何十年と最前線で活動しているギルドのこと。積み重ねた知識や情報を溜め込み、それを知れるのは身内だけと言うわけだ。
冒険を少しでも有利にするために皆大手を選ぶのは当たり前だった。
それが1番の近道だからだ。
最後の理由が、一般企業からクエスト受諾ができることだ。
現代社会ではダンジョン産の素材やアイテムは様々なことに使われ、競争意識の高い企業はそれを使って儲けている。
一般家庭にも魔道具というのは普及している。
しかしダンジョンは世界に五つしかない。
そのため効率良くするために企業や国というのは必要な素材やアイテムを冒険者に依頼しているのだ。つまり…個人で同じ素材を持ち帰って換金してもクエストの方が見返りが大きいのだ。
以上の理由から僕はクランに入りたい。
だから今まで準備をしてきた。
目的のためにクランもいっぱい調べた。
だから…あとは魅せるだけ。
そして
明日、ギルド入団試験が行われる
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【迷宮の翼】
それはこの都市一のギルド
世界で数百とある中で四番目である。
所属人数は200人ほど。
優秀な人材で溢れ、本物の原石がいればそれはランクがなくても入団させるという最強のギルド。
僕はそこに入るために今この地にいた。
ここはダンジョン都市の一角にある闘技場
毎年ここで入団者は入団試験をやる。
「す…すごい…」
闘技場に立つなんて経験あるわけがないが、今そこに足を踏み入れ立っているのだ。同じように入団者が多くいて、観客席にはたくさんの冒険者が僕らを品定めしていた。
…ごくりっ
わかっていはいたことだけど、やっぱりランク持ちっていうのは発しているオーラが…圧が違う。
見られているだけで背中がゾワゾワするほど。
「やってやる……」
隣から小さい声だけどはっきりと、やる気を漲らせたものが聞こえた。
よく見ればみんな覚悟を決めた目をしている。
そうだ。
僕も…今日この日のために頑張ってきたんだ。
だから
泥臭くいこう
あー、あー
声が会場に響き渡り、空中に浮いている人間が現れた。
「やぁやぁ。毎年恒例になってきたね。今日はダンジョン都市の全40ギルドが君たちに試練を与え、それを見守るよ」
そう言い放ち微笑む姿は外じゃ見たことがないほどイケメンだった。
会場内の女性がキャッキャする中、男性陣は殺意を迸らせる。
「あんの…キザ男ぉぉ……しねぇ!」
誰かが吠えればそれはたちまち少しずつ広がっていく。
だがそれは次の言葉によって殺意は感嘆、憧憬、尊敬に変わっていった。
「挨拶がまだだったね。僕は【迷宮の翼】の『英雄』が一人、アーク・オラシオンという。マスターと他のメンバーは生憎不在なんだけど…今日はみんなに会えて嬉しいよ。抜け目なく監査していくから、どうか君たちの輝きを見せてほしい。健闘を祈るよ」
沈黙の後、割れんばかりの声援が送られ英雄は退場して行った。
そしてそれは僕も同じで…ものすごく興奮していた。
(あれが…英雄!!すごいっ…!体がびりっとした…!あの存在感…超かっこいい…!)
「はいはい!みんな静かに!これから入団試験を開始するよ!ここに集まった人たちはギルドを選べないからね!私たちが君たちを選ぶんだ。だから気張っていけよ!入りたいギルドあんだろ?」
ーーーおー!!!!
「それじゃあまず第一ステージ。ランク無しと【ランクI】だけ闘技場に残んな。それ以外は観客席だ」
(ぼ…僕だ…!何するんだろう…)
どこかのギルド員が素早くみんなを誘導してものの数分で闘技場には12人が残った。
(あれ…意外と少ない…)
ギルド入団試験は一年に一度しか行われない。
さっきから思っていたけど、集まっていたのも100人ほどしかおらずその疑問がずっと頭の中にあった。
「12人か。よぉし…それじゃあランク無しは手を上げな」
「ふ…ふぁいっ!」
「………」
手を上げたのは二人
僕と同い年くらいの華奢な女の子。
「今から一対一で戦ってもらう。ランク無しはあっちで【ランクI】は真ん中ね。みんなよく見て選ぶように」
戦う
そう聞いた瞬間、僕の意識に雑念がなくなった。
「こっちだよ。………武器を使うならそこにある木製品を使っておくれ。それじゃあいいかい?エモノは女の子がナイフで君は……体術?」
こくっとだけ頷き、敵を視界にいれる。
すごく華奢で僕と同じぐらいの身長。
構えた姿勢から素早い動きをするのかなと思いつつ投げられることも考える。
相手よりも速く当てればいい
いつか言っていた言葉。
それを間違っているとは思っていないし実際に僕もそう思っているけど、これは試験。
何があるかわからないからまずは様子を見ることにする。
「いいかい?それじゃあ…始めっ!!」
開始の合図とともに僕は横へと動いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「能無しかぁ…今年はどうだろうなぁ」
「去年はあのベッピン嬢ちゃんがいたろ?どうなるかわかんねぇぞ」
「だな!今じゃ【戦姫】だもんな!楽しみだぜ」
そんな会話をしている観客席の一角でアーク・オラシオンは一人占いをしていた。
「アークなにしてんの?玉遊び?」
「ははっこれは占いだよ。最近ハマっていてね」
趣味程度のものでしかないが最近この占いの結果がよく当たるのだ。天候やドロップ品、誰がいくら稼いだなど細かいものも当たるのだ。
だから勝負前にこうして占いをしている。
「ふーん、結果は?出た?」
「でたよ。えーっと……………映像?」
「どうしたの?」
水晶に写っていたのは映像だった。
そしてそれは、信じられない光景。
アークも文献でしか見たことがないモンスターが水晶には写っていた。
「どういう……」
そしてさらに信じられないものが写った。
「…………ッ!!」
アークは今見た内容を吟味した。
今はまだ何もわからない。
けれど…この武器だけは知っている。
「なになに?」
「あぁ…なんでもないよ。それより試合は?」
闘技場内に目をやるとランク無しの戦いはもう決着がついているようだった。
「すげぇな!今の!」
「動きは身体補正がねぇから遅いが体術は本物だな…!」
「私あの子ほしいかも!」
各ギルドが賑わっていた。
「決まり…だね…」
「去年もそうだけど能無しでどういう修行したらああなるの?『天才』って怖いねぇ」
ダンジョン英雄譚〜ランクがある現代で全てを置き去りに駆け抜ける〜 モナリザの後頭部 @naohari25
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