第8話
オークの振り下ろす大きな拳。
当たれば死ぬほどの脅威。
迫ってくるそれに両手を添えて、全力でいなした。
「ッ…お…もて…ぇ…!!」
ビキビキと腕や足腰が悲鳴を上げるが成果はあった。
力の方向がずれて拳は地面へと激突した。
「……まじかよ」
自分の数倍もある体格から繰り出される拳をいなすなんて、頭がおかしい。
その発想にまずならないし、ランクがないならモンスターにそもそも挑まない。
それからもさらに驚くべきことが起こる。
怒ったオークの突進も拳も蹴りも全てを躱していなしはじめた。
ありえない
あいつはなんなんだと心が震える。
俺はランクIで、あいつよりも強い。
強いはずなんだ。
なのに命をかけて、ボロボロになりながら戦っているのは成人もしていない子ども。
立場がおかしかった。
本当ならそっちにいるのは俺なんだ。
どうして…この足は出ない?
ここでただ見ているだけか?
俺の憧れた英雄は……あいつみたいなやつだろ…!
ルークは腰に刺さった剣を抜き、死闘を繰り広げる強者の元へと一歩を踏み出した。
ーーー力及ばない者が立ち上がる時、精霊はそれを見ている
ーーー力及ばない者が手にする時、精霊はそれを祝福する
ーーー力及ばない者が証明する時、神は恩恵を与える
ルークにとってこの出来事は人生を変えてしまうほどの幸運。
この少年、雷兎と出会ったことで、才気は解放された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
…やば…っ…もぅ……腕が……
何度も何度もいなして躱してを繰り返し、雷兎の意識は極限状態だった。
手は血まみれになり変色しているところすらあるほど重傷だった。
(ははっ…つい最近まで…学校行ってたのにな…)
死の恐怖なんてものはないところで生活していたのに…来て早々これだ。
しかし、雷兎は嬉しかった。
もしここで、怖気付いたら、心が折れてしまったらと少しだけ心配していた。
けれどこの環境は…僕がいるべき場所だった。
居心地がいい。
とてつもなく高揚している。
この、生きている感覚が最高に気分がいい。
(まだまだ…!)
骨が折れようと関係ない。
集中し、目を血走らせ、一挙手一投足をよむ。
でなければ待っているのは死。
だが、それももう長くは続かなかった。
予想よりも力強い攻撃にこっちは全て全力だからだ。
それでも頑張った甲斐はあった。
後ろを振り向かなくても感じる。
この場の絶対強者の雰囲気。
壁を越えた【ランクIl】となったルーク
剣を握りしめ一歩一歩迫る、気の溢れた男に僕は少し嫉妬した。
だけどここで大事なのは2人で勝つこと。
「…おそ……かった…ね」
「すまねぇな…それと…ありがとよ」
「……?」
もう
ーーー能無しを馬鹿にしない
ーーー能無しを弱いなんて思わない
「お前のおかげで壁を越えれたんだ。あとは任せろ」
【ランクIl】ならオークを近接で倒せる。
それほどにlとllでは戦闘力に差がある。
自信満々に言うルークはたぶんオークを瞬殺できる。
だけどここまで頑張ったのは僕だ。
それではいそうですかと譲るなんてことはしたくない。
「…しょうがないから最後だけ任せるけど…それまではハウスしててね」
ルークのこめかみがピクピクと動き今にも爆発しそうだったけれど気にする余裕はない。
僕は…まだ一度も攻撃を当ててない。
これだけボロボロにされたのだから一発絶対に入れたかった。
突進はもう怖くないから、そのさらに下
オークの股の間へとスライディングする。
そして
「睾丸くらえ!」
思いっきり汚いものを殴った。
「ウォォ……ォォ…」
文献で読んだからね!オスのモンスターも弱点は人と一緒!
そして最後…
「ルーク!」
「おうよ!燃えろぉぉ!」
黒い刀身が赤く輝き、炎を纏った。
そしてオークの肉をジュワジュワと焼け焦がしながら一刀両断。
倒れたオークを見て…あまりの嬉しさにガッツポーズをして叫んだ。
「…勝った…勝ったぞぉぉぉ!」
これが…僕の二度目!
もう誰にも負けない!
メリルにも、英雄にも!
僕は雷兎だから!
いずれ最強になる男だから!
これから…世界に名を知らしめ…い…ずれ…は…
体が限界だったのか雷兎はそのまま気絶した。
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