第33話 異説、かぐや姫の謎
そして、秘密が明かされる。
マグダラのマリアは、日本に渡来してからは歴史の影に潜み、ずっと人類の動向を見守っていた。彼女は時折、表舞台に姿を現すこともあった。その場合、本当の名前は伏せられており、愛称や敬称、役職名だけが記された。例えば〝卑弥呼〟であり〝祇園の女御〟であり〝
さて、日本はある段階で、異星人との交流を持つ事となる。
かぐや姫である。
かぐや姫の物語は周知の通りだが、殆どの人がこの物語の本質を理解していない。
物語によると、美しいかぐや姫は様々な男性から求婚される。これに対して、かぐや姫は無理難題をふっかける。
一人目の貴人には『天竺にあるというお釈迦様が使われた御石の鉢』を要求。
二人目の貴人には『蓬莱山にあるという玉の枝』を要求。
三人目の貴人には『火鼠の皮衣』を要求。
四人目の貴人には『龍の首にあるという五色に光る玉』を要求。
五人目の貴人には『燕の巣の中にあるというこやす貝』を要求する。
貴人の内、誰一人として、かぐや姫の要求には答えられなかった。
この話は、多くの読者にとって、かぐや姫の無理な要求だと理解されている。だが、真実はそうではない。この逸話の本質は謎かけである。
五人の貴人は、かぐや姫の謎かけに答えられなかったが故に、また、それが謎かけである事にすら気づかなかったがために、かぐや姫の関心を引くことが出来なかったのである。
例えば、〝蓬莱山にあるという玉の枝〟は、〝玉〟、球体がついた枝だから「生命の樹」を意味する。更に、生命の樹のセフィロトの数はダアトを除けば十個であるから、〝モーセの十戒〟を顕す。もっといえば十戒石板そのものだ。また、蓬莱山の玉の枝は日本神話でいうところの「
そして、日ユ同祖論は、三種の神器の正体を、契約の聖櫃であると主張する。
古事記によると、神武天皇が
既に日本を運営していたイスラエル十氏族は、新たに渡来してきた原始キリスト教徒(秦氏)から、イスラエル王の
「ちょっとまった。マリア様、サラッと、とんでもないことを話してるぞ。イエスの子孫って?」
流石の俺も、驚きを隠せずに口を開く。
「もう一度いいますが、私は
「さ、察するといってもだな」
「お察しくださいね?」
と、マリア様の微笑から圧が滲む。そこで俺は仕方なく、他の疑問を口にする。
「とりあえず、ぶっ飛んだ話ってことはわかった。ただ、それを簡単に信じろといわれても困る。確か、かぐや姫が要求した物は全部で五つだったな。じゃあ、『龍の首にある五色に光る玉の枝』は何を意味してるんだ?」
俺の問いに、マリア様は再び微笑を浮かべ、口を開く。
「龍の首にある五色に光る玉の枝の「五色」とは、ノアの大洪水以前に地上に存在した五人種を現します。即ち、白人、黒人、黄色人種、そして赤人と、青人です」
「五色人? 褐色とかはどうなるんだ? それに、世界には赤色人とか緑色人といわれる連中がいるけど、そういうことか?」
「いいえ。そういう一般的な認識とは違います。現在、地球で褐色人とか緑色人とか赤色人と呼ばれる人々はコーカソイドの子孫。我々の認識では白人に分類されます。そうではなくて、ノアの大洪水以前には、本当に真っ赤な肌をした人や、ラー室長のように濃い緑色の肌をした青人がいたのです」
「青、か? 緑ではなくて?」
と、俺は視線を滑らせる。そこにはラー室長の姿があった。マリア様がいうように、ラー室長が人類であり、青人に該当するのだとしたら少し違和感がある。彼の肌は、青というよりも真緑に近いのだ。
「日本人は昔、緑色を指して〝青〟と呼んだのですよ。今もその名残で、信号機の緑色を指して〝青〟といいますよね?」
「それは、日本語や日本文化を理解していなければ解けない謎がある。ってことか?」
「はい。五色人については竹内文書にも記されていますね。竹内文書は、表には出回っていない古代文書に、とある人が勝手な憶測を付け加えた偽書です。が、古代人種の記述部分に関しては古代文書の内容をそのまま使っているので、事実です。また、五人種の記録については秘教結社であるフリーメイソンにも継承されています。だからこそ、オリンピックの五つの輪が、五人種に対応する色で設定されているのです。因みに、熊本の
見事だ──。
俺は思わず納得しそうになる。が、なんか負けた気がして、ついつい食い下がってしまう。
「じゃあ、次。『
「火鼠の皮衣の謎を解く鍵は日本神話にあります。まず、火鼠の皮衣は、炎に焼かれても燃えないとされています。その事を念頭に神話を眺めた時、火と鼠が登場して、しかも火の中で燃えずに生き残る。というエピソードが浮かび上がります。大国主様の物語です」
そして、再びマリア様が語り出し、三次元立体映像が大昔の日本の様子を映し出す。
ある時、
そこに登場するのが鼠である。
「内はほらほら、外はすぶすぶ」
と、鼠が謎をかける。『入り口は狭いが中は広い』という意味である。大国主尊は謎を解き、地面を踏んで回る。すると地面の下には穴があった。その穴に潜り、野火をやり過ごすのである。
その後、大国主尊は素戔嗚尊の試練を突破して、素戔嗚尊の娘の
「早い話、このエピソードは大国主様が素戔嗚尊から直々に三種の神器を賜った、正当な所有者であることを物語っています。つまり、かぐや姫は、『三種の神器の持ち主に興味がある』と、言っているのです」
話を聞き終えて、俺に疑問が湧き上がる。
「まあ、こじつけな感じもするが、筋は通っているな。それにしても、なんで古事記が鍵なんだ? 古事記は日本神道の神話だ。かぐや姫があんなのひいお婆さんだとしたら、やっぱり、原始キリスト教徒なんだろ? そこはどう説明するんだ」
「それは簡単です。日本神道は多神教のふりをしてはいますが、その本質は原始キリスト教ですから。古事記の編纂に関わった
「ん。みたいなもの?」
「嘘は申しておりません。とにかく、日ユ同祖論を知る人ならば一度は耳にしたことがあると思いますが、日本の三種の神器である〝
「む。歴史の生き証人に言われてしまったら頷くしかないが。なんかズルいな」
「そうですか。ついでに、『燕の子安貝』の意味についても触れておきましょうか? まず、燕という字を最少単位まで分解すると、〝
「──わかった、わかった。降参だ。俺が悪かった。信じるから、もう難しい話はやめてくれ!」
と、俺は悲鳴を上げる。
認めざるを得なかった。
かぐや姫の謎かけは、日本建国の秘密や、宗教的奥義を知る者であれば、ちゃんと解ける謎だったのである。
さて、かぐや姫の物語では、誰一人この謎を解けなかったとされている。物語において、かぐや姫は時の帝とも接触する。この時、かぐや姫は帝に対して謎かけを行っておらず、帝さえも袖にしてしまう。と、いう事になっている。
だが、真相は違う。帝は謎を解いたのだ。そして、かぐや姫が太陽からの使者であることにも気がついていた。
帝とかぐや姫はなにか重要な協定を結んだか、或いは、重大な情報を交換したと思われる。物語では、この後で天から迎えが来て、かぐや姫は連れ去られてしまう。だが、それはあくまでも物語の話である。事実、このかぐや姫、実際には垂仁天皇の后とされる。
ここに、驚くべき事実が浮かび上がる。
帝と太陽人との間には、子孫が居たことになる訳だ。影でずっと日本の歴史を見守っていたマリアが、この大事件を見過ごす筈はない。マリアも帝と同様に、かぐや姫のメッセージに気が付いただろう。マグダラのマリアとかぐや姫とが接触していたとしても、少しも不思議ではないのである。
また、かぐや姫は
日本の神話や言い伝えは、かぐや姫が太陽人であると示しているのだ。
「じゃあ、あんなは太陽人と地球人、両方の血を引いている。そういう事か?」
俺は疑問を口にする。
「はい。その通りです」
マグダラのマリアは穏やかに言った。
「そうか。ところで、マリア様はどうしてスパイなんかやってるんだ? 蓮美もやけに馴れ馴れしくて、りんごちゃんと呼んでいたが」
俺が言うと、マリア様はクスリと、無邪気な笑顔を浮かべる。
「歴史の成りゆきを見守るのに、邪馬台国ほど便利な組織はありませんから。あの組織は霊も怪異も宇宙人も否定しません。彼らが集める情報は全て事実ですから。言っておきますが、あの諜報機関の人々は誰一人、私の正体を知りません。知っているのは、ここに居る貴方達と一部の太陽人だけです。ですから……蓮美さんや他の皆さんには、くれぐれも私のことは秘密にしてくださいね?」
マリア様は、しぃ。と、沈黙を促す仕草をする。
「じゃあ、マリア様はつまり……」
俺はあんなに目をやった。あんなは小さく頷いて、マリア様の発言を肯定する。
「そう。そうなんだけど。マリア様こそが、私が探し求めた預言者様なんだけど」
あんなの顔に歓喜が浮かぶ。彼女は立ち上がり、マリア様に平伏した。
「ああ。どうかマリア様。知恵をお貸しください。どうか、ギザのピラミッドに隠された謎を解いてほしいのです。なんだけど」
あんなの肩に、マリア様はそっと手を置いた。
「あんなさん。貴女が頭を垂れるのは筋違いです。地球人の問題は地球人でなんとかすべき事。頭を垂れるべきは、この私の方です。よく、大切なことを知らせてくれましたね」
と、マリア様はあんなに顔を上げさせて、そっとあんなを抱きしめた。
「私どもの為にこんなに傷ついて……本当によくやってくれました。どうか、ここから先は私達にお任せくださいね」
あんなの肩が小さく震え出す。あんなは初めてその美しい顔を歪ませて、声を張りあげてわんわん泣いた。
★
一通りの話を終え、俺達は食事に手を付けた。やはり、食事の内容は精進料理といってよい物だった。
「太陽人って連中は、皆ベジタリアンなのか?」
「基本的にはそうなんだけど。でも太陽はとてもとても広いから、そうじゃない人もいるかもしれないんだけど」
なんて、他愛のない会話をしながら食事を終えた。そうして刻々と過ぎて行く時間に、俺は言い知れぬ不安を覚えた。
あんなを失う。
そんな予感だった。
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