第29話 激突に次ぐ激突!




 俺達は、腹を括って神都しんと高千穂大橋たかちほおおはしへと歩き出した。

 前方では、警察官が検問を行っている。

 俺と日向、あんなとりんごちゃん、それにぷうちゃんの五人は、検問を目前にして足を止めた。蓮美はワゴン車を運転し、俺達に寄り添うように徐行している。


「……おい、あれ」


 と、検問の警察官がこちらを指差した。どうやら、あんなに気が付いたみたいだ。やがて、二人の警官が此方へとやってきて、手にした手配書と、あんなの顔を交互に見やる。


「あなた、榎木えのきあんなちゃんよね? 一緒に来てもらうわよ」


 婦人警官が言い、その前に、俺と日向とぷうちゃんが立ちはだかる。


「なによ。あんた達も捕まりたいの?」


 婦人警官が困惑を浮かべる。その傍に蓮美が車を寄せ、窓を開く。


「今回の事件はなにか変だ。こんな女の子を指名手配して、他所の国の軍隊の手伝いまでさせて、上は一体、何を考えてるんだろう。みたいに感じない? もしもそう思うなら当たりよ。あんた達は騙されてる。ここを通して。じゃないと世界が終わっちゃうのよね。警察もバカじゃないんでしょ?」


 蓮美が運転席から言う。


「なにを言ってるか分からないわね? 世界がどうだとか言われても、ハイそうですかと通すわけにはいかない。こっちも仕事なの」

「あっそ。じゃあ、こっちも力づくで通らせてもらうわね。でも、あんた達……人として、日本人として、本当にそっち側でいいのね?」

「はあ? 別にいいけど?」

「勘違いしないで。これは、わざわざのよ。本当に、そちら側で後悔しないのよね?」


 と、蓮美は婦人警官に鋭い眼差しを向ける。


「後悔もなにも、そのワゴン車で強行突破するつもり? 私の後ろを見なさい。なんでかは知らないけど、今回の事件にはアメリカが首を突っ込んできてる。本当に撃たれるわよ。これは、その女の子を守るための措置でもあるの。大人しく引き渡しなさい。断るなら、こっちこそ力づくで──」


 その時だった。

 ドドドドド。バリバリ。パラリラパラリラと、無数のやかましい音が、俺の背後から近づいて来た。

 暴走族だった。

 日向が、公衆電話で呼び寄せたのだ。実は、日向は日向で地図を見て、橋がこの旅の最大の難関であることを予測していたらしい。彼女は暴走族に事情を話し、協力を要請したのだ。

 暴走族は、俺たちの前にバイクを滑り込ませ、盾になる。そして悪態を吐きまくって警官を威嚇しはじめた。

 

「姉御。お待たせしました」


 総長の丸刈りが言う。


「ううん。時間通りだったわね。でも、巻き込んでごめん」


 日向は丸刈りに答えて、丸刈りのバイクの後ろに跨った。


「なに言ってるんですか姉御。救うんでしょう? 世界を」


 と、丸刈りが笑う。


「なんだ。暴走族は日向の話を信じたのか?」


 俺も促されて、副総長と思しき金髪君の後ろに跨った。


「そうよ。純粋でしょ? 彼らはね。別に社会のゴミって訳じゃないのよ。不器用なだけなの」


 と、日向は得意気にウインクをする。

 あんなも、りんごちゃんも、ぷうちゃんも、全員が暴走族のバイクに跨った。暴走族は一斉にエンジンをふかし、警官を威嚇する。クソやかましい中、日向がそっと、俺の肩に触れる。


「ねえ。国士。ずっと前にも同じことを訊いたと思うんだけど、もう一度だけ訊くね」

「なんだ?」

「国士って、まだ、世界を壊したい? それとも救いたい?」


 小学生の時と変わらぬ、純真で真っ直ぐな視線が俺を捉える。


「……決まってるだろ。こんなに面白い世界だ。救うさ」

「じゃあ……私も一緒に救ってあげる!」


 日向は太陽みたいにカラッとした笑顔で、声を張り上げた。


「さあ、行くわよ!」


 と、蓮美がアクセルを踏みしめる。我々の先頭を、ワゴン車が走り出した。二人の警官は、慌てて飛び退いて道を開ける。


「いっけえええ!」


 丸刈りが号令をかける。

 何十台ものバイクが、一斉に走り出した。

 無数のテールランプが光の尾を引いて、俺の眼前で加速する。

 ドオオン! と蓮美の自動車が、橋を封鎖しているパトカーに突っ込んだ。パトカーが横転し、橋への道が開く。


「うおおお! 今だ。突っ込めえええ!」


 俺は思いきり叫ぶ。

 橋の奥側では、武装した外国人兵士が陣形を組み、突撃銃の銃口を此方へと向ける。が、それが発砲されることはなかった。連中は焦りを浮かべ、銃の安全装置をカチカチやっている。


「頑張って! 鉄砲は私がなんとかするんだけど!」


 あんなが叫ぶ。また、超能力で敵の発砲を阻害しているのだ。


「うおおお! 総長に続け!」


 不良達が雄叫びを上げ、次々と、橋へと突入してゆく。警官隊はそれを迎え撃ち、叫び声を上げながら特殊警棒を振り回して応戦している……ふりをしている。

 誰も、本気で暴走族を殴りつける警官はいなかった。警棒が命中していない。


「ん? どうなってるんだ」


 俺は疑問を口にする。


「上の命令がどうだろうと、彼らは日本人で、ここは日本だってことよ!」


 蓮美が、自動車で追い越しざまに叫ぶ。


「……国士どもめ」


 俺は理解して、ニヤリと呟いた。

 俺が乗るバイクは、蛇行しながら警察官の間を抜け、橋の奥へと迫る。


「行っくよおおお!」


 蓮美のワゴン車が加速する。フロント部分が潰れた国産車は、再び、橋の奥に停まっている警察車両へと突っ込んだ。

 派手な音を上げながら、警察車両と蓮美の車が横転する。その奥から、武装した外国人部隊が橋へと殺到してくる。


「GO、GO、GO!」


 外国人部隊の隊長らしき男が叫びまくる。奴らは、小銃や小型ロケット砲が使い物にならないとみるや、小銃に銃剣を装着して突撃してきた。


「おらおら、ビビるな突っ込め!」


 と、暴走族の特攻隊が俺の眼前へと躍り出た。


「無茶するな! 敵は刃物を持ってるんだぞ」


 俺の叫びをお構いなしに、特攻隊はバイクをウイリーさせながら、武装集団へと突っ込んだ。

 跳ね飛ばされる外国人兵士、回転しながら横転するバイク、ふっ飛ばされる暴走族、砕け散るバイクのミラー、そこに再び突っ込むバイクの群れ……。

 場は、混乱の極みだった。

 ぷう。と、聴き覚えのある音がする。ぷうちゃんの乗るバイクが、俺を追い越していった。


「ウ、ウガアアアア!」


 ぷうちゃんは変身して、高く飛び上がる。彼女が飛び掛かる先には、狂気を帯びたパジャマ姿の女がいた。

 ドカリと、悪魔憑きとぷうちゃんがぶつかり合い、血煙が上がる。

 ぷうちゃんは蹴り飛ばされて、俺の後方へと吹っ飛んで行った。


「ぷうちゃん!」

「トマルナコクシ。ルーシーハヘイキダ。イケ!」


 ぷうちゃんは鼻血を垂らしながら叫ぶ。牙も一本欠けていた。

 ぐわん、と金髪君が大きくハンドルを切り、悪魔憑きを避ける。悪魔憑きはそれを見逃さず、俺へと飛び蹴りを放つ。が、悪魔憑きの蹴り足にぷうちゃんがガブリ! と噛みついた。ぷうちゃんは突進しながら噛みついて、その勢いのまま前方宙返りを決め、悪魔憑きを投げ飛ばした。


「ああ、ぷうちゃん!」


 日向が悲痛な声を上げながら、俺を追い越してゆく。


「止まるな。絶対に抜けるんだ!」


 俺が叫んだ次の瞬間──。


「SHIT!」


 と、外国人兵士が銃剣をバイクの前輪に投げ込んだ。

 火花が散る。

 俺の乗ったバイクは前方につんのめり、派手に転がった。


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