自己犠牲

第一話

『もうお母さんなんて知らない!』


……はぁ、ちょっと言い過ぎちゃったかなぁ…。

でもお母さんってば酷いよね、僕の日記を勝手に読むなんて…。



ぐぅ~。


はぁ、お腹が空いてきちゃった…。

そろそろ帰らないといけないかな…でも気まずいなぁ…。


「どうしたんだい?坊や。お腹が空いているのかい?」


うん、そうなんだ…。でも家に帰りたくなくて…。


「うーん、そっか。……じゃあこのパンを食べるといいよ。」


え、いいの?ありがとう。


(あんまり美味しくない…お母さんのご飯が食べたい……。意地を張るのをやめておうちに帰ろうかな…。)


あ、もしかして、お兄さん…。…んーん、ありがとう!


「ふふ、元気がいいね。それじゃあバイバイ」



――1か月後、新聞であのお兄さんを見た。

自殺だそうだ。

娘が立てこもり犯に殺されたらしい。

何でも、人質解放の条件のうち、食糧のパンが一つ少なかったから、だとか。

……事件があったのはお兄さんと会った日だ。


もしかして、僕が食べたあのパンは……。



第二章第一話「最後のパン」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お腹が空いている人にパンの一切れを差し出す話 モブ子 @kotohahine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ