八百比丘尼

「まゆり! 仕事だよ!」

「はい、何でしょう?」

「神田神保町のあやかし古書店さんに行ってもらうよ。はい、地図」

「はい、神保町は行ったことあるので大丈夫です!」

 神田神保町といえば、古書とカレーの街。

 あやかし古書店は、昼は普通の古書店、夜は妖用の古書店に変わるらしい。

 私は元気よく古書店に足を踏み入れる。

「こんばんは~。あやかし道具配達屋黒蜥蜴の梅村まゆりです!」

「はい、こんばんは。ああ、バイト変わったんだね」

 落ち着いた雰囲気の女性が出迎えてくれる。

「はい、初めまして!」

「私は店主の綾。よろしくね。おい、レン! 自己紹介しな」

「あっ、はい。バイトのレンです。大学生です」

「梅村まゆり、高校生です」

 大学生かあ、ちょっと格好いいかも。

「それで、お届け物は何ですか?」

「こち亀全巻です」

「うわあ、これ買ったお客様いたんですね!」

「八百比丘尼さんが買っていかれました」

「やおびくにさん?」

「人魚の肉を食べて不老不死になったそうです」

「へえ、不老不死⁉ すごい!」

「じゃあ、これを福井県小浜市の洞窟まで頼むよ」

 頼むよ、と言われても、これをどうやって運ぶんだろう。

 それを察した綾さんが段ボールをいくつか持って来てくれる。

「まずは、この中に入れて……」

 段ボール3つに収められた『こち亀』を、次はどう運ぶか。

「滑車、貸すよ」

「その後は、あやかし横丁の鳥居を潜って福井県小浜市に行けばいいんですね?」

「うん、そうだね。よろしく」

「はい、行ってきま~す!」

 鳥居を潜ると福井県小浜市だった。

 八百比丘尼さんのいる洞窟までカラカラと滑車を走らせる。

「八百比丘尼さ~ん、いらっしゃいますか~」

 声が洞窟によく響いた。

「はいは~い」

 白い着物の綺麗なお姉さんが出て来た。

「あやかし道具配達屋黒蜥蜴の梅村まゆりです! お届け物に上がりました!」

「わあ! 『こち亀』ですね!」

 滑車を受け取るとカラカラカラと洞窟の奥の方へ進んでいく。

 洞窟の奥に豪華なテントが張ってあって、後ろにはキャンピングカーが停まっている。

「どうぞどうぞ」

 八百比丘尼さんに手招きされ、キャンピングカーの中に入っていく。

 八百比丘尼さんは待ちかねたように段ボール箱を開ける。

「アイスティーで良かったですか?」

「は、はい!」

 八百比丘尼さんは『こち亀』の一巻を開き、優雅に読み始めた。

『こち亀』って、こんな優雅に読むものだったっけ。

 八百比丘尼さんは時々「ふふっ」と笑いながら『こち亀』を読んでいる。

「面白い漫画ですね。これから、ゆっくり読み進めていきます。本当にありがとうございました。……では、さようなら」

「こちらこそです。……さようなら」


 私は帰りに新鮮な魚介料理を食べて帰った。



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あやかし道具の配達屋さん 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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