たこ焼き戦記
うさだるま
第一話
0.
俺が目を覚ますと熱々のたこ焼きが降ってきた。
1.
「であるからして〜10年前の大戦は大きな傷跡を残し〜って、おい!何を寝とるんだ!伊田山君!おーい!伊田山幸樹君!」
俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
目を開けると、みんなが俺を見てる。固い机に固い椅子。開いただけのノートと対象的なビッシリと書かれた黒板。そして、大内先生のタコみたいなツルピカの頭が見える。そうだ、今は大内先生の世界史の授業中だった。えっーと時間は、、、3時前か。確かに、飯を食って、体育をやって、で次の授業になって、、、あれ、途中から記憶がない。ああ、寝てしまったのか。まあ、午後の授業は眠たいし仕方がないか。カーテン越しに入ってくる日の光が眩しい。
「ふぁわぁ、、、なんですか?先生?」
「なんですか?じゃないよ伊田山君!今、私、授業をやっとるがね!」
「いいじゃないですか、ちょっとくらい。先生の近現代史の話、クソつまんないんですもん。それより、三国志とかの話しして下さいよー」
「授業だと言っとるだろうが!それに、この話は今に繋がるんだ!ちゃんと聞いときなさい!」
「ちぇ、はーい。」
大内先生は「オホンッ」と咳払いをしてから話し始める。
「10年前にわが国だけではなく、世界中で戦争がおこり、その戦いはみんなも知っての通り、5年もの間続いた。そして、その傷跡は大きく、世界各国で経済や国力が衰退し、人口が著しく減少するものだと考えられていた。その要因の最たるものは食糧が爆撃や汚染による被害の為、育てる事が困難であったためである。しかし、食糧の供給は変わらなかった。むしろ戦前より、増えたのだ。その理由は明らかにされておらず、大戦により一部、人口が減ったため、供給が相対的に増えているように見えるのではないかと専門家は言う。ここ、テストに出るから覚えておくように、ってオイ!また寝てるじゃないか!起きなさい!伊田山君!」
「うーん、あと5分ー」
「5分もまったら授業終わっちゃうよ!」
「じゃあ3分ー」
「そういう事を言っているんじゃないよ!私は寝るなって言っているんだよ!」
「へいSiri、3分後に起こしてー」
「Siriに頼むな!」
「アレクサー、3分後に起こしてー」
「アレクサにも頼むな!」
「じゃあ、アナログな目覚まし時計にしますよ!それでいいんでしょ!我儘だな!」
「え?私が悪いの?なんで逆ギレできるの?先生合ってるよね?ちょっと!本当に寝ようとしない!」
「なんですか、こっちは眠たいんですよ。何がお望みなんですか?」
「そうだね、強いて言えば起きて真面目に授業を受けてくれることかな。」
「ハハッ、叶うといいですね。」
「ぶっとばすよ?教師といえどぶっ飛ばすよ?」
リンリンリンリンリンリンリンリンリン!!!
「えっ?なに?なんの音?」
「あーさっき設定したアラームがー」
「ええ?!早く止めて!授業にならないから!」
大内先生がそう言った直後、キンコンカーンコーンとチャイムがなった。クラス内にもう授業が終わった雰囲気が流れ、皆、教科書をしまったり、飲み物を飲み始めたりしていて、授業再開などもう出来ないだろう。
大内先生の方を見ると、先生の顔は怒りで真っ赤になってゆでダコのようだった。
「、、、伊田山君。帰りの会の後、職員室にきなさい。」
2.
「また、怒られるような事をしたのか?ハハッ幸樹はこりねぇな」
「寝たくらいで大袈裟なんだよ、先生は。俺、何回も反省文書き直しさせられてさぁ?めっちゃしんどかったわ。」
あの後、職員室に行くと、大内先生だけじゃ無く、担任の先生まで出てきて、二人に挟まれて怒られた。さらに反省文を何度も書きなおさせられヘトヘトになっている。
ようやく、解放されたところで、部活帰りの幼馴染、智久と偶然会い、共に帰路に着いたところだった。
「お前は何度もやり過ぎなんだよ。体育意外で
ちゃんと受けた授業って何年前だよ?」
「何年も経ってねぇよ。そんな長くねぇわ。えっーと、、、二週間前くらい?」
「十分なげぇよ。全く、卒業大丈夫なのか?」
「大丈夫、日数は計算してる!」
「本当に、そういうところだけは抜け目ないんだから」
「あー、しかし、なんか腹減ってきたな。なんか買ってかえるか?」
「いいね。ちょうどたこ焼き屋の近くだし、行くか。」
二人はたこ焼き屋で一パック300円のたこ焼きを2パック買い、再び帰路を進む。
たこ焼きは安い割には、クオリティが高い。
熱々で火傷しそうだ。
「、、、なあ、智久。」
「ん?何?」
「今日さ、世界史やってたんだけどさ。」
「ああ、お前が寝とった授業な?」
「そう、その世界史でさ、戦争で飯が減るはずだったのに、減らなかったーみたいな話してたんよね。ちょっと気にならん?」
「ああそれ、俺もやったわ。何でだろね。誰かがめっちゃ溜め込んでたとか?いや、でも腐っちゃうか。うーん。」
「あっ!俺、分かっちゃったわ。」
「マジで!?」
「国が人を攫って、人の肉を加工して飯作ってるんじゃね!?」
「おお、怖え!ってそれ、最近見た、漫画の設定だろ?」
「バレた?」
「バレたも何も、俺が漫画貸したんじゃねぇか。そりゃ分かるわ。」
「でも、本当にそうだったら面白くね?」
「まあ、そうかも知れんけどさ、俺、嫌だぜ?人肉食うの。」
「、、、あーそうか。じゃあ俺もヤだわ。」
「なんだよそれ。お前が言い出した話だろ?」
「フヘヘ、あ、俺んちついたわ」
「あ、本当だ。じゃーな!」
「おう、じゃーな!」
幸樹は智久に別れを告げ、家に帰る。
家に入ると、怒られた疲れが出たのか、急にガクンと眠たくなった。瞼が重く、起きていられない。仕方ない。寝よう。そう思い、幸樹はそのまま、ベッドにダイブしたのだった。
3.
雀の声が聞こえる。朝になってしまったのだろうか。そういえば長く眠ってしまっていた気がする。「ふわぁあ」と欠伸をして、目を開ける。
「あっつ!えっ、あっつ!なになになに?」
熱い。顔になにか熱いものが当たっている。
火傷しそうだ。
眉間に降ってきた熱い何かに驚かされて、身を捩り、なんとか立ち上がると、
そこには、たこ焼きが転がっていた。
「、、、たこ焼きだ。、、、なんで?」
触ってみても、普通のたこ焼きである。
あまりの謎な状況に目をパチクリさせていると、また視界外からたこ焼きが降ってきた。
「あ、また、たこ焼き、、、」
どんどんたこ焼きは降ってくる。ベッドの上にはたこ焼きの山が形成された。
「、、、どうしよう、なんの病気なんだろう。」
「起きなさーい!学校あるでしょ!」
急に母さんがガラガラっと扉を開き、部屋に押し入って来た。
「ああ、おはよう。」
「起きてるんだったら、リビングに来なさいよって、えええええッー!!!何このたこ焼き!」
「なんか、降ってくる、んよね」
「降ってくる、って何?」
「いや、分かんないけど。」
「ん?幸樹、ちょっと待って」
母さんは何かに気づいたようで、俺を静止させる。
「何?」
「ちょっと、瞬きしてみて。」
「瞬き?いいよ。」
パチリ。
瞬きをすると、たこ焼きが一つ、落ちてきた。
「やっぱり!あんたが目を閉じた時に、降ってくるのよ!」
「、、、マジで?意味わかんないんだけど。」
「でも実際降ってきてるじゃない。」
「じゃあどうすればいいんだ?病院いけばいいのか?」
「ちょっとコッチ向かないでよ。たこ焼きが降ってくる。」
「そうだ。母さん。今日学校休んで、病院行ってくるわ。」
「あらそぉ?いいけど、どこの病院に行くの?内科?眼科?」
「うーん、大きい総合病院に行ってくるよ。そうすれば、どこが悪いかわかるでしょ。」
「そうねぇ。一人でいける?」
「体自体は健康だし行けるよ。」
「そ、じゃあちょっと待ってね。取ってくるから。」
母さんが部屋を飛び出した。そして直ぐに戻って来た。
手には大きなバケツを持っている。
これを取りに行ってたみたいだ
「はい、これ。バケツ。たこ焼きを道に落としていくわけにはいかないでしょ?これで受け止めて病院まで行きなさい。」
4.
病院まで行くのは大変だった。こんな事なら母さんに送って行ってもらえば良かったと思った。
病院までは自転車で20分くらいの距離だったから、自転車に乗ればすぐにつくと思っていたんだ。だけど、瞬きするたびに降ってきたたこ焼きに正面からぶつかり、顔を火傷した。
こんなんじゃ漕いでいられないと思い、電車で行くことにした。しかし、人の目が痛い。みんな変な物を見る目でコッチをみてくる。まあ、実際たこ焼きをバケツ一杯に持っている人なんて見たことがないから珍しいのは分からんでもないが、、。そんなこんなでなんとか、病院まで来れたが、本当に何度も顔から火が出そうだった。個人的には、そっちの火傷の方が辛かった。
病院に入って、眼科のお医者さんがいるとこに行ってソースの匂いを撒き散らしていると、直ぐに診察に呼ばれた。
診察室に入ると、若い男の先生が正面に座っていた。俺も先生の前に座り、病状を話し始める。
「先生。たこ焼きが出てくるんですけど、なんかの病気なんですか?、、、」
「伊田山さん。すみません。正直わたしには、こんな症例初めてで分かりません。もし時間が宜しければ、医院長先生をお呼びしますが、どうしますか?」
最初に罹った眼科の先生は、最初はふざけた事をいう冷やかしが来たと思ってそうな顔だったが、最終的に申し訳なさそうにそう言った。
「じゃあ、お願いします。」
「そうですか、それでは、あちらの部屋で待っていてください。直ぐに医院長先生がいらっしゃいますので」
そういうと、眼科医は次の患者の診察の準備を始めた。
通された部屋は先程の診察室より大きく、沢山の見たこともないような機材や薬品が並んでいる。
「すみませんね。遅れました。私がここの医院長。新見です。どうやら、奇妙な症状があるとの事でしたが?」
急に、新見と名乗る老爺が部屋に入ってきた。
新見は胡散臭いボサボサの髪の毛で、猫背だ。
白衣も少しシワがよっているため、知らない危険なお爺ちゃんが入ってきたのかとビックリするほどだった。どことなく喋り方にも、胡散臭さが滲み出ている。
すでに床にはバケツから溢れたたこ焼きが転がっていた。
「はい。なんか、たこ焼きが降ってくるんです」
「ほう、たこ焼きが。今も降って来ているこれですね?」
「どうやったら、治りますかね、、、」
「伊田山さん。安心してください。私は昔、手からコーラが染み出してくる男性を診たことがあります。その男性は今は社会復帰していますよ。」
「本当ですか!」
「はい。なので、落ち着いて下さい。まずはそうですね。どのような条件でたこ焼きが降ってきますか?」
「目を閉じると、目線の先から降って来ます。」
「一度してもらっても?」
「はい。」
パチリ。
たこ焼きがまた一つ降って来た。
「ほうほう。確かに、そのようですね。たこ焼き自体はどうでしょうか。見た目は。匂いは。味は。」
そういうと新見はたこ焼きを凝視した後、匂いを嗅ぎ、たこ焼きを舐めた。
「ふんふん。普通の美味しいたこ焼きですね。」
「、、、そうですか、」
「おっと、引かないでください?これも治療に必要な事なのですよ。」
「はぁ。」
「わたしを信用して下さい。まずはそこからです。」
「はい、分かりました、、、」
「じゃあ、診察を続けますね?たこ焼きが出る以前に違和感とかありましたか?」
「特には。」
「では、いつもと違うこととかは?」
「なかったです。」
「ふむ、そうですか。」
「はい。」
「じゃあ、取り敢えずお薬出しますね。はい、これどうぞ」
新見は近くの戸棚から、薬を三錠とりだし、手渡してきた。
新見の目は、ニヤリと企みがありそうな眼をしている。
「飲んでください。これがきいたら、これにしましょう。」
「、、、後でもらう感じじゃないんですね。」
「あ、疑っていますね?わたしを信用して下さいよ。」
「分かり、ました。」
ゴクリ。
薬を飲み込む。
すると、急に、眠気が襲ってくる。
「先生、なんか、凄い、ねむ、いで、、す、、、」
「ああ、はい。そうでしょうね。」
「、、、え、、?」
ゆっくり瞼が落ちていく。
薄れゆく意識のなかで、何かが聞こえる。
「こちら、仕入れ部署。新見だ。至急、受け取りにきてくれよ。在庫が入ったからさ。」
そんな声が聞こえた気がした。
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