第25話 病院


 私は急いで長崎に向かう。


 ねえ、うそでしょ?

 こんなことあっていいはずがない。

 だって、だって、人間ってそんな簡単には死なないでしょ?


「詩織!!!」


 私は病室に着いた。詩織は今緊急治療室だから入れない。


 沙織さんが私に言う。

 今まで何があったのか。


「詩織はね、ここ二週間くらいストーカー被害に悩まされてきたの」


 そこからつらつらと説明された。

 相手は佐々木郲布戸。野球で三年生でエースで甲子園出場し、二回戦で大阪の強豪校に敗れるも8回を4点に抑え、評価されている。

 そしてドラフト5位で千葉の球団に入った人らしい。

 その人が詩織にに一目ぼれしたと。

 最初は付き合ったが、段々無理になって別れを切り出した。

 それから暫くは何もなかったが、ある時に家に来られ、そこで事件が起きた。

 その時は、私との縁も切れ、連絡も取れず、苦しんでいたらしい。悩みを、相談する相手もいなかったためすぐには別れを切り出せなかった。

 そして今手術を受けているが、生存確率は二割を切っているらしい。


 ああ、私のせいだ。私が何も言わずに携帯を変えたから、詩織は私に連絡を取れずにこんなことになったんだ。


 もう、悔やんでも悔やみきれない。

 本当に詩織のことが好きなのに、なんでこうなったのだろう。


「ごめんね」


 私は呟く。でも、


「私は祈ってる。詩織の無事を」


 私には祈ることしかできないけど、それが詩織のためになることを祈って。


 それからしばらくたち、説明がなされる。

 とりあえず手術は成功したらしい、

 だが、だからと言ってまだ安心などできない。

 回復したとは限らないのだ。


 そこから私は大学を休み続けながら詩織の病室で詩織の手を握り続けた。

 行く日も行く日も、詩織にもう寂しい思いをさせないように。

 沙織さんから聞くと、詩織はずっと寂しがっていたらしい。

 私に会えなくて、でも会いたくて、だからこそ一瞬はそのやばい男と付き合うという選択を取ってしまったのだそうだ。

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詩織引っ越す 有原優 @yurihara12

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