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 いつの間に眠っていたのでしょうか。真っ白な朝の、ソファの上で僕は起こされました。リビングの風景が夢のプロットをかき消します。すぐに父から話がありました。はた目には、感情の読み取れない能面的な表情と見えたかもしれません。実際、父はそうなるよう意図していた筈です。ですが断言出来ます。あの時ほどの恐ろしい顔をこれから先、拝める事はないでしょう。ちょっとずつ言いよどみながら、それは伝えられました。



 弟が死んだのです。



 大事故や怪我という言葉でぼかしてあっても、それは全く役立たずです。



 弟は死んだのです。



 電車に轢かれて、入院で済む訳がありません。



 弟は死んでしまった。



 こうして僕の弟は死に、僕も死んだのでした。ええ、あの日のあの瞬間から僕はもう生きてはいないつもりです。ただし死んだと思ったのも束の間、この後、非常に捻じくれた出来事があって、今では自分が生きているか死んでいるか、最早どうでもよくなってしまいました。



 僕は父から事実を聞き出した後、ふらふらと二階へ上がりました。事件は冗談で、部屋に戻れば弟がベッドから起き出してくる、なんて考えたんだと思います。はっきりとは覚えていません。とにかく、あの部屋へ引っ張られたのです。たどり着くと扉は開けっ放しで、窓もそうでした。ゆるく風が吹き抜け、カーテンは端がなびいています。追いかけて来た父は、廊下で戦慄せんりつする僕に戸惑い、肩を抱いて視線をたどりました。だから、父もあれを見たのです。



 逆光で淡く輝くレースの上に、放った筈のあの真っ赤な蝉が、毒のある果実の如くとまっていました。



 僕はただ立ち尽くして、父の存在も、壁や床の存在も消し去ってしまった頭の中で、どこか遠い所から響いて来る、ああ、僕も蝉になってしまいたい、という自分の声をぼんやり聞いていたのです。

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タチ・ストローベリ @tachistrawbury

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