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帰りの車の中にあったのは消極的な罵倒と積極的な沈黙でした。狭いカゴの蝉の衰弱を受け入れられない弟の駄々、苛立つ父からの過度な叱責、それを
雨は十時頃に止みました。僕は月明かりの差し始めた二階の子供部屋で、どこという事もない場所を見つめながら黙って横たわっていました。隣のベッドでは弟が眠っています。こうして過ごすのは残り数日なんだ、しかも起きている時間で計れば一日分もないんじゃないか、なんていう気がして来ました。いつも眠る前に弟と話をしていれば良かった。昨日は、今日は、明日は、どんな夢を見るのか、聞いていられたらよかった。悔しい思いが内蔵の奥の方から膨らんで僕を泣かせました。
脳というのはおかしなもので、どんな惨めな状況に縛られていようが、一度泣き出してそして止んでしまえば、冷静な
立ち上がってカーテンを
ここはとても重要な
果たしてあれは蝉といって良いものだったのでしょうか?
「何してるの?」
僕はぎょっとして冷や汗だらけになりました。しかし見ると当たり前で、弟です。僕は一体何がそんなに怖かったのだろうと我ながら不思議でした。それでもすぐ、弟の愛らしさに気持ちがいっぱいになり、離婚の事、今後の僕らの事などは今ここで打ち明けてしまった方がいいんじゃないかと考え出していました。まずは安心させようとベッドに並んで座って、蝉について伝えます。案の定、もう関心をなくしていました。そこから今日の話、この夏の話、去年にまで
「――兄ちゃんはおっかない事を言って、僕を寝れないようにしてるんだ」
この時の弟の横顔をはっきりと覚えています。僕の弟は――まだ七歳にも届いていなかった彼は――既に全てを知っていたのだろうとわかりました。家族の話の始まりから決してこちらを向かず、そんな事をすれば涙を抑えきれなくなるといわんばかりに、
先に述べた様に、この時の僕はちょっとおかしくなっていたのです。ここでやめるべきでした。どうしても、このままで弟を
お母さんはお父さんを好きじゃなくなったんだよ、と言いました。
「お父さんはお母さんが好きだっていってたよ」弟は言いました。
――お父さんもお母さんがもう好きじゃないんだ――
「僕は皆んな好きだよ。お母さんとお父さんといるよ」
――別々のお家に住んでも、またいつでも会えるんだよ――
「いらない。兄ちゃんといる」
――だめなんだ。皆んな一緒にはいられないんだ――
「いやだ」
――いやでもしょうがないんだ。だって夏が終わったら僕らはもう家族じゃ
「嘘だ!!!!!! 兄ちゃんは嘘つきだ!! お母さんもお父さんも嘘つきだ!!!!」
弟は悲しみに歪んだ顔を一瞬、驚く僕に向け、あっと思う間に部屋を飛び出して行きました。大きな音に驚いて両親が起きて来ます。しかし既に弟は、家の中にはいませんでした。
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