蝉
タチ・ストローベリ
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当グループが解散に至った経緯については、先日、所属事務所ホームページにてお伝えした通りです。事の発端となったセッション中の衝突は当初些細なもので、プロデューサー含め僕らは、あの二人の事だし、一週間もすれば何が争点になっていたのかも思い出せないくらいになり、またいつもの様にグルになって、僕の作詞に対し残虐な皮肉を述べてくれるものと思っていました。ところが、僕ら夫婦が旅行に行っている間に――SNSは
アティテュードはアイデンティティに養われ、次にアイデンティティがアティテュードに依存する。この癒着関係による情緒の安定的擬態はあたかも、一人格の形成の
この二ヶ月間、沢山のメッセージを頂きました。そしてその内容の多くが、僕の今回の件に対する態度についてでした。いやに落ち着き過ぎだというのです。類似する指摘は、三年前に出演したテレビの心霊企画放送直後にも少なくない数よせられました。僕は既にこのSNS以外のアカウント抹消を済ませており、今後、皆さんの目になかなか触れることがない存在になりますから、最後に、今の僕が出来上がるに至った決定的な出来事についてお話したいと思います。
それはいわゆる恐怖体験、神秘体験と呼ばれうるもので、十代の入口で
怪奇、超常なんてものは
では、何故この期に及んで僕は死なないか。疑問に思われた方はいるでしょうか。あの出来事がまさしく、僕の
小学校六年の事でした。当時、僕らはまだかろうじて父、母、小学一年の弟の四人家族でしたが、父と母のパートナーシップは暗礁に乗り上げており、僕と弟に対しそれぞれまったく反対の港の明かりを指差しながら、新規巻き直し事業の見通しを説明しようとしていました。弟はまだ幼かったものですから、時折直面する両親の露骨な不和に際し、本能的な拒絶を発現させ、強引に母の肩を持ちました。僕は、父親の
夏休みが来ました。弟にはどうだったわかりませんが、少なくとももう僕には二人の破綻を、両親は隠そうとしませんでした。弟は母が引き取り、僕は父について行く。既にそれは既定路線として暗黙の内に三者が調印を済ませたのです。
最後の思い出と思ったのでしょう、その夏は色々な場所へ連れ出されました。特に印象深いのは父、弟と三人で観に行ったスターウォーズの最終作と――物語の
終わったなと、思いました。
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