エピローグ

 生徒会選挙が終われば、もうしばらくはイベントがない。

 修学旅行や体育祭、文化祭は二学期以降に行われるし、勉強の毎日が訪れることだろう。

 夏に向けて撮影も少し立て込んできたし、姉さんも多々良さんも忙しい大学生活と両立するために苦労している光景を、我が家でお見掛けする機会が増えた。


 一方で、立て込んできたとはいえある程度融通が利く俺は、貴重な休日を満喫しており―――


「あ、ゆかちゃんここで青甲羅は反則っ!」

「ふふん、一位を振り落とすためならなんでもするよ」

「あら、ありがたいことに一位ですね」

「あはは……皆、上手すぎない?」


 我が家には、珍しく騒がしい声が。

 榊原はたまに遊びに来るから聞き慣れているとはいえ、今日に限っては他にもある。

 ソファーに仲良く並んでいる三大美少女様。桜坂と楪は以前も来たことがあったが、今回は幾田の姿も。

 というのも、今日は生徒会選挙の打ち上げらしい。

 そして、どうせ打ち上げをするなら遊びたい……とのことで、現在四人はゲームをしていた。

 楪の家はゲームがないし、かといって桜坂達の家はそこまで広くはない。

 そこで、俺の家———という話になったのだ。

 この前は急だったが、事前に話をもらえるなら特に抵抗はない。片付けもできるし、榊原もいるし、うん。


(うーん……騒がしい)


 とはいえ、騒がしいのはいいことだ。

 せっかく遊んでいるのに静かな空間っていうのもおかしな話。

 ……yukiのことがバレないかハラハラはするけど。でも大丈夫、今回は事前に話が挙がったから目ぼしいものも姉さんも片づけてある。


「ふふっ、一位です」

「二位、か……悪くない」

「僕、結構やり込んでいるはずなんだけどなぁ」

「うぅ……おかしい、途中まで玉座に座っていたはずなのに、下剋上された」


 そして、ひと試合が終わったのかそれぞれ順位に応じた表情を見せる。

 どうやら、あまりゲームをしたことがない楪が一位で、それなりにやっている榊原がビリみたいだ。

 フッ……軟弱者め。それでも男か。所詮は顔だけの男よ。


「よし、じゃあ次は俺かな」


 俺は椅子から立ち上がってテレビの前へ向かう。

 今回はビリが交代するようにしている。四人対戦のゲームだからだ。


「リベンジ、任せたよ」

「おう、任せろ。ゲームをやり込んでいる男の意地っていうのを見せてやる」


 榊原からコントローラーを受け取り、そのまま床へ腰を下ろす。

 すると―――


「竜胆」

「ん?」

「私が床に座るよ」


 何故か幾田が立ち上がって、俺に場所を変えるよう言ってきた。

 別に場所にはこだわっていないからどこでもいいのだが、せっかくソファーに座っているならそのままでもいいだろうに。

 それに……幾田が座っていたのは、三人掛けソファーの真ん中。つまり、両サイドには楪と桜坂が座っているわけで。


「い、いやいやいや……女同士で座ってればいいだろ。俺がそこに入ったら絵に描いたようなハーレムができるって」

「両手に花って男の子の憧れシチュじゃない?」

「リアルで求めるのは違うんだよ!」


 距離が近くてゲームどころじゃなくなる。

 多々良さんとか他のモデルさんと関わる機会はあるが、あくまで仕事。こんな普通の休日で女の子に挟まれでもしたら、心臓がいくつあっても足りやしない。

 しかし―――


「ほら、竜胆くん始まっちゃうよ!」


 桜坂が隣を手でポンポンと叩く。

 幾田はいつの間にか俺の横に座ってスタンバイしているし、桜坂が言う通りローディングが始まってそろそろゲームが開始されてしまう。


(こ、こういうシチュエーションで喜べるって、絶対漫画だけの話だろうなぁ)


 俺は頬を引き攣らせながら、仕方なく桜坂と楪の間に腰を下ろす。

 少し場所が変わっただけだというのに、違う空間に足を踏み込んでしまったような感覚だ。

 少し体を傾ければ、横にいる誰かの肩に当たってしまう。それだけではなく、部屋の芳香剤とは違う甘い匂いが鼻腔を刺激してくる。

 ……こんなの、まともにゲームできる気がしない。

 っていうより―――


「えへへっ……竜胆くん、めっちゃ距離近いね♪」


 桜坂がただでさえ近い距離を詰めて、蠱惑的な笑みを向けてくる。

 こんなに距離が近いと、つい先日の屋上でのことを思い出してしまう―――もしかして、今の桜坂はそれが原因でこんなことをしてくるのだろうか? なんか見た目通りのギャルムーブを感じられる。


(し、強かすぎんだろ……!)


 嬉しいのは嬉しいが、戸惑いの方が大きいのは言わずもがな。

 思わず桜坂と距離を取るために離れようとすると、今度は楪と肩が当たってしまった。


「ひゃっ!?」

「ひゃっ?」


 突然聞こえてきた可愛らしい声に、思わず首を傾げてしまう。

 視線を横に向けてみると、そこには落ち着いている彼女にしては珍しい耳まで真っ赤にしている姿があった。


「ど、どうした楪……顔が真っ赤だぞ?」

「(う、嬉しいのは嬉しいのですが……流石にこれは私の心臓が持たないと言いますか、どうして由香里さんはこのようなポジションを……ッ!?)」

「ゆ、楪……?」


 しかも、何やら一人でブツブツ言っているし、まったく俺の声は届いていないようであった。


「あー、これ私勝てる気がする」

「あはは……まぁ、超有利な状況ではあるよね」


 一方で、こんな状況には「我、無関係」としている幾田と榊原は楽しそうにしている。

 どうやら、本当にこの一戦が終わらないと状況も終わりそうにない。


「竜胆くん、私絶対に勝つからね……♪」

「(で、ですが……竜胆さんとこの距離はやはりと言わざるを得ません……)」


 ―――我が学園には、有名な三大美少女様がいる。

 異性が寄り付いた話も、浮ついている話も聞かない高嶺の花。

 そんな彼女達と、日陰者の俺がまさかこんな関係になるとは……初めは露にも思わなかった。


(……でも、騒がしいのは嫌いじゃないんだよなぁ)


 きっかけなんて、言わなくても分かる。

 俺が女装してyukiとして活動して……彼女達がyukiに憧れていて。

 そこから繋がった関係が未だに続いており、こうして賑やかな空間を作っているのだ。


 願うことなら、これからもこんな時間が続いて行けばいいと思う。

 まぁ、これからはyukiの正体がバレないよう気合いを入れなければいけないのだが……きっと、なんとかなるだろう。多分。

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