第112話 対峙

「なぜこのようなことを……」


 口をついたのは純粋な疑問だった。

 今回の結界魔法による事件を仕掛けたのは十中八九このヘレン様なのだが……動機が読めなかった。


 正確に言えば、予想は立てている。

 しかし、それは娘であるロミーナにとってあまりにも残酷な内容だった。


 ヘレン様からの回答を待つが、特にこれといったアクションを起こすわけでもなくただ時間だけが過ぎていく。このまま動き出さないつもりなのかと警戒を強めた矢先だった。


「私の願いを果たすため――それ以外に理由などないわ」


 吐き捨てるようにヘレナ様は告げた。


「ね、願い?」

「これ以上は説明したところで無駄だから……終わりにしましょうか」


 話し終わった終わった直後、ヘレナ様のしている赤色の宝石がはめ込まれた指輪が光り出した。


 次の瞬間、凄まじい衝撃が全身へと襲いかかる。


「うわっ!?」


 あれが攻撃手段だったのか!?

 恐らくこれは風魔法の一種。

 ほとんど魔力を探知できなかったというのに、なぜこれほどまでに強力な魔法をたった一瞬で放てるようになるんだ!?


「くそっ!」


 なんとか踏みとどまろうとするが、俺よりも先に力尽きた者が。


「きゃあっ!?」


 前方に立っていたエクリア様だった。

 彼女もなんとか踏ん張っていたのだが、ついに耐えきれなくなって吹っ飛ばされてしまう。

 自分の娘だからすぐに風魔法を解除するのかと思いきや、ヘレナ様にそのような素振りは一切見られない。


 たとえ自分の娘を犠牲にしたとしても、願いを果たすためなら致し方のない犠牲だと割り切るつもりなのか。


「――させるかぁ!」


 咄嗟に俺はエクリア様へと飛びつく。

 彼女を抱きかかえるとさすがに踏ん張りがきかなくなって飛ばされそうになるが、うまいこと廊下の柱に背をぶつけ、とどまることに成功する。

 

 あとちょっとでもタイミングがズレていたら、粉々にガラスの散った窓から外へ放り出されるところだった。


「アズベル!」

「大丈夫だ、ロミーナ!」


 なんとか最悪の事態を免れたが……予想もしなかった事実が発覚したな。


 まさかヘレナ様も魔道具使いだったとは!

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