第81話 魔法使い同士の戦い

 強力な魔力同士がぶつかり、それによって生じた大きな衝撃が屋敷を襲う。

 なんて戦いだ。

 エンペラー・スパイダーと戦った時とは比べ物にならない緊迫感……これが上位の実力を持つ魔法使い同士の戦いなのか。

 互いに一歩も譲らない激しい戦闘が続く――が、徐々に戦況が変化していった。


「ぐっ……」


 イルデさんが押されている。

 いつもの軽い調子は鳴りを潜め、真剣な顔つきで戦っていたのだが……しばらくすると素人目でも分かるくらい相手の魔法をさばききれなくなっていた。


「イルデさん……!」


 居ても立ってもいられなくなった俺は魔銃を手にして部屋を飛びだそうとする。

 だが、何者かが服の袖を掴み、こちらの動きを封じることでそれを阻止した。


 ――犯人はロミーナだった。


「アズベル……」


 涙目になり、訴えかけるように俺を見つめるロミーナ。行ってほしくないという気持ちとこのままではイルデさんが危ないから助けたいという気持ちがせめぎ合い、葛藤していることがうかがえる。

 心配してくれるのは嬉しいし、ありがたい。

 けど、このままではあの魔法使いにやられるのを待つだけだ。モリスさんやパウリーネさんが異変に気づいて戻ってくるまでまだ時間がかかるだろうし、ただ大人しく待っているわけにはいかない。


「ロミーナ……ここで動かなければ、すべてを失うかもしれない」

「っ!?」


 ショックな言葉だったかもしれないが、紛れもない事実。危機に直面した時、俺はロミーナを守ると決めた。原作のような暗い未来が訪れないよう……推しを必ず幸せにする、と。


「俺が君を守る。だからここは行かせてくれ。このままじゃ、イルデさんも危ないんだ」

「…………」


 話し終えると、ロミーナは静かに立ち上がった。

 そして、


「私も行く」


 力強い眼差しをこちらに向けて、そう宣言する。


「ふたりで行こう。それなら、イルデさんを助けられる可能性も高まるはずだから」

「で、でも――」

「私の氷魔法なら、相手の動きを封じられるかもしれないし……何より、私もこのまま待ち続けるなんてできない」


 さっきまでの怯えていた様子はもうどこにもない。

 腹を括ったロミーナの瞳は闘志で燃えていた。


 そもそも彼女は原作だとボスキャラになれるほどの実力者だ。

 今はまだその域に達していないかもしれないが、本人が言ったように数が多ければそれだけ倒せる可能性も上がる。

 ここはもう、それに賭けるしかない。


「よし! イルデさんを助けに行こう!」

「うん!」


 俺たちは手を取り合い、敵の魔法使いと対決するため部屋を飛び出した。

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