第80話 まさかの正体

 イルデさんが警戒するほどの魔法使い。

 その正体は――


「こ、子ども……?」


 十歳の俺が言うのもなんだが、相手は子どもだった。しかも、年齢的には俺やロミーナよりもさらに幼く感じる。七歳か八歳くらいか?

 ――でも、待てよ。

 イルデさんだって何百年も生きている魔女だ。それでも見た目は二十代の若い女性……魔力によって外見を偽っている可能性が高い。

 それにしても、あんな小さな子に姿を変えるなんて。

これじゃあ戦いづらくて仕方がない。


でも、この感情がヤツの狙いなのだろう。子どもの姿であれば、こちらが油断したり、攻撃の手を緩めるだろうという狡猾さ……ただ、そうと分かっていれば対処ができる。


「驚いたねぇ」


 一方、イルデさんは何やら意味深なリアクション。

 中身と外見の年齢が違うというのは自分自身がやっているからそれについて驚いているとは考えられない。それ以外で、イルデさんの意表を突くような事態が起きているというわけか。


 正面から対峙しているふたりは一歩も動こうとしないし、話しもしない。

 膠着状態ってヤツだ。


 しばらく重苦しい静寂が流れる中、先手を取ったのはイルデさんだった。


「小手調べの必要はなさそうだ。――最初から本気でいかせてもらおう」


 イルデさんの強力な魔力は次第に炎に変わっていった。さらにその炎はまるでドラゴンのような姿に変貌し、真っ直ぐ敵の魔法使い目がけて飛んでいく。


「うおっ!?」


 相手は子ども――だが、あくまでも見た目のみ。

 中身はイルデさんに匹敵する実力を有した魔女だ。

 油断など許されない。

 ここと決めたのなら一気に攻め込まないと、こちらがやられてしまう。さすが、イルデさんはその辺りを十分に理解しているな。


 本気の攻撃を前に、敵の魔法使いは一歩も怯まない。

 無言のままイルデさんに匹敵するほどの魔力をまとうとそれを大量の水へと変え、さらにそれは翼を広げた巨大な鳥となった。


 ぶつかり合う炎のドラゴンと水の怪鳥。

 ふたつの魔法が激突した瞬間、大きな横揺れと衝撃が訪れる。地面はえぐれ、屋敷の窓がガタガタと震えだすほどだった。


「ぐうっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 俺とロミーナは吹き飛ばされないよう互いに抱きしめ合う。

 これが一流の魔法使い同士の戦いなのか。

 ともに戦うどころか、巻き込まれないようにするので精一杯だ。


 本当に……俺は何もできないのか?

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