第38話 商人ライナンの悩み
ピクニックの途中で出会ったライナンさん。
しかし、どうにも元気がないようなので話を聞いてみたら、
「仕事がうまくいっていなくて……」
そう呟き、大きなため息をついた。
ちょっと意外だな。
原作の【ブレイブ・クエスト】では相当なヤリ手商人という紹介されていた。実際、作中では主人公たちをその広すぎる伝手で何度も助けていたっけ。
だが、それは今から数年後の未来の話。
今の彼はまだ駆けだしの新米商人ということで、むしろ失敗はつきものっていうくらい開き直った方がよさそうなのだが、どうもそう単純な話ではないらしい。
ただ、子どもであり、この世界の経済事情に疎い俺では力になれそうもない。生産魔法を駆使して解決できるような問題でもなさそうだし。
……だからと言って、このままというのもダメだな。
とりあえず、話だけでも聞いてみよう。
「実は最近になってあることに気がついたんです」
「あること?」
「これを見てください」
ライナンさんが取りだしたのはこのパルザン地方の地図だった。
「先日の大雨で大規模な土砂崩れが発生したんですよ」
「ここって……」
土砂崩れの発生した場所は、フォルザンとは反対方向で隣り合うバーメイ王国との国境近くにあり、交易路としてよく使用される渓谷だ。
「現在は領主様も交えて今後の対応を検討していますが、王国はフォルザンとの間に建設中の橋を優先してこちらにまで力を注げない可能性が高いです。フォルザンはオルメド王国にとって貿易の最大相手国ですからね。特に魔鉱石の数が国内で減少してしまうことを懸念されているので仕方がないですが」
「それは由々しき事態ですね」
ロミーナが口にしたように、魔鉱石の数が減るというのはかなりの痛手だ。
先日の舞踏会における大型モンスター襲撃の件に続き、またしても隣国との関係性に亀裂が発生しそうな案件……まさか、これも誰かが狙ってやったことなのか?
ともかく、今は犯人捜しよりも新たな交易路の確保が優先されるだろう。
国としてはフォルザンを優先してバーメイとの交易路確保はそこの領主であるうち――つまりウィドマーク家に一任するようだ。つまり丸投げってわけだな。
逆に成果をあげればうちの名を一気に広めることができるのだが、地図を見る限りでは、それも難しそうだ。
「別ルートを模索しようにも、かなり遠回りとなってしまうようですね」
「えぇ……そこが最大のネックなんです」
近くには広大な森があり、モンスターも出現するここを商人たちが通過するのは危険だ。
新たな交易路の開発……これはなかなか頭を悩ませる案件だな。
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