第30話 マドリガル騎士団長

 主人公カルロの不遇改善のため、勲章を授与してもらいたいとマドリガル騎士団長のもとへ直談判に訪れた俺――が、想像以上にこの騎士団長殿は怖かった。

 

騎士団長の執務室を訪れて軽く挨拶をするのだが、その際に送られた鋭い眼光に射抜かれて俺は一瞬息が止まる。スキンヘッドという髪型もまた迫力を増す要因のひとつになっていた。

それにしても……なんて視線だ。

さすがは歴戦の猛者。

漂う風格が桁違い。

逆らってはダメだと本能がビシビシと伝えていた。


「何か?」


ちょうど部下たちのあげた大型モンスター襲撃事件の報告書に目を通している最中だったらしく、最初はそれを止められて不機嫌そうな表情を見せた。しかし、来客が顔を知るパウリーネさんであることと、一応貴族である俺だと分かり、態度を改める。

……それでも敵意剥きだしって感じがして怖いんだよなぁ。


 ――って、こんなところでめげていちゃダメだ。

 俺は気を取り直し、今回の事件の情報提供者がカルロという少年であると話す。


「情報提供者は貧民街にいる子どもですと?」


 マドリガル騎士団長の眉間がピクッと動く。

 やっぱり、貧民街というワードが引っ掛かるようだ。


「あ、あの、確かに彼は貧民街で暮らしていますが、とてもいい子なんです!」


 俺の必死の訴えに対し、マドリガル騎士団長は、


「でしょうな。リスクを冒してまで城内に忍び込み、自分だけが知り得た情報をなんとか伝えようとしていた……門番たちに知らせたところで、軽くあしらわれるのが関の山ですからね。勇敢な判断だったと思いますよ」

「だから――へっ?」


 予想もしなかった答えに、思わず間の抜けた声が漏れでる。

 な、なんだ?

 他の騎士たちとは反応が違うぞ?

 ダンスホール前で警備していた者たちの反応からして、貧民街の出身というだけで問答無用って感じがしたけど……どうやら、マドリガル騎士団長は違うようだ。


「その少年の名前はカルロで間違いないですかな?」

「は、はい」

「では、明日にも部下を向かわせて城へと招きましょう」

「い、いいんですか!?」


 あまりにもスムーズに話が進むものだから思わず尋ねてしまった。もっとこう、いろいろともめると想定していたのに。


「正しい行いをした者には相応の報酬があるものです。それより、本当に連れてきた者があなたに情報を与えたカルロという少年かどうか確かめていただきたいのですが」

「よ、喜んでします!」


 よかった。

 これでカルロの頑張りが報われる。


「ありがとうございます、マドリガル騎士団長」

「お礼を言うのはむしろこちらですよ。あなたとロミーナ様がいなければ、今頃この国はどうなっていたことか……考えたくもありませんね」

 

 苦笑いを浮かべつつ、マドリガル騎士団長はさらに続ける。


「ただ、ひとつ気がかりなことがあります」

「な、なんでしょうか」

「あのモンスターの大群……どう考えても不自然なのですよ」


 それについては同意だ。

 今まで何もなかったのに、なぜ急にあれだけの大型モンスターが集結したのだろうか。

 どうやら、マドリガル騎士団長は今回の事件発生についてかなり不信感を抱いているようだった。

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