第31話 疑惑

「不自然……と、いうと?」

「あまりにも突然すぎる。それでいて、西門周辺を守っていた兵士たちが何者かによって倒された……いや、証言を聞く限り、倒されたというよりは魔法で意識を失ってしまったという方が正しいですな」

「じゃ、じゃあ、犯人は魔法使い?」

「あくまでも実行犯は、という注釈はつきますが」


 そいつが誰かに雇われ、支持されて行った可能性が高いとマドリガル騎士団長は睨んでいるらしい。

 

「しかし、鍛えられた騎士を短時間のうちにあれだけの数を戦闘不能状態にまで追い込める魔法使いは限られます」

「で、ですよね! それなら犯人の確保は時間の問題に――」

「いえ、そう簡単にはいかんでしょうな。それだけの実力者となると、そう簡単に尻尾を見せないでしょうから」

「た、確かに……」


 マドリガル騎士団長は非常に優秀な人のようだ。

 彼に任せておけば、近いうちに真相へとたどり着けるだろう。


 ……まあ、俺は立場上、これ以上突っ込んではいけないので、どのみち調査自体は騎士団へお任せすることにはなる。でも、少なくともカルロの件は伝えられたし、マドリガル騎士団長も前向きに取り組んでくれそうなのでひと安心だ。


 忙しい中で長居をしてはいけないと思い、とりあえず俺とパウリーネさんは執務室を出て部屋へ戻ることにした。


「ふあぁ~……」


 緊張の糸が切れたのか、不意にあくびが。

 

「お疲れさまでした、アズベル様」


 そんな俺の様子を見て、パウリーネさんがねぎらいの言葉をかけてくれる。


「ちょっと緊張したけど、伝えるべき内容は伝えられたからよかったよ」

「ご立派でしたよ。いくつもの戦場を駆けてきたマドリガル騎士団長は、立っているだけなのにとてつもない威圧感がありますからね。新兵の中には睨まれただけで涙ぐんでしまう者もいるくらいです」


 それは騎士のメンタルとしてどうなのかと不安になってしまうが、正直分からなくもない。

 めちゃくちゃおっかなかったからな、マドリガル騎士団長。


 パウリーネさんはロミーナの部屋へ寄る前にカリング様へ報告をしに行くという。なので、俺だけ先に部屋へと戻ろうとしたのだが、


「あれ?」


 ロミーナの部屋近くに誰かが立っている。

 もう深夜と言えるくらい遅い時間なのに誰だろう。

 城内だから不審者ってことはないはずだけど。


 徐々に近づいていくと、立っていたのが女性だと判明する。

 その女性は俺を視界に捉えるとジッと見つめてきた。

 な、何なんだ?

 恐る恐る近づいていくと、


「……あなたがロミーナの夫となるウィドマーク家の子ね」


 そう言いながら恐ろしく冷たい視線を向けてくる謎の女性。

 ――いや、待てよ。

 どことなくロミーナと似ている顔立ちにさっきの口ぶり……まさか、この人はロミーナの母親なのか?

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