第20話 ペンバートン家の三姉妹

 中庭にいたのはロミーナのふたりの姉。


 長女のエクリア。

 そして次女のカテリノ。


 エクリアは全体的に落ち着いた雰囲気で、以前聞いた話によれば王立学園に通っており、優秀な成績をおさめているらしい。

 一方、カテリノは今年から学園に通いだしたばかりの新入生だが、剣の腕前は一級品だとパウリーネさんが語っていたな。


 どちらも申し分ない才能を持っている。

 けど、ロミーナだって負けないくらい魔法の才能は素晴らしいものがある。最近ではイルデさんから「いずれはあたしを超える魔法使いとなるだろうねぇ」って褒められていたし。


 自信をつけつつあるロミーナなら、以前とは違って姉たちを前にしても堂々と立ち振る舞えるはず――と、思っていたのだが、肝心のロミーナは顔が青ざめ、体がうまく動かせないようだ。


 これは……俺が思っていたよりもずっと根深いものがありそうだな。


「綺麗なドレスね。お父様に用意してもらったのかしら」


 静かに近づく長女エクリア。

 一瞬、ロミーナの方がビクッと強張ったのを見逃さなかった俺は、気がつくとふたりの間に割って入っていた。


「あら? あなたは……」

「は、はじめまして、アズベル・ウィドマークです」

「ウィドマーク? ――そう。あなたがウィドマーク家の……」


 そう語るエクリアは恐ろしく冷たい視線を俺に投げつける。

 毛ほども関心がないからさっさとどきなさい――口にはしていないが、間違いなくそう思っていると確信できるくらいの顔つきだった。そりゃロミーナもあんな顔になっちゃうよ。


「前よりも顔色がよくなったわね。お母様もお喜びになるわ」

「っ!?」


 お母様。

 エクリアがそう口にした途端、さっきよりもロミーナの表情が暗くなる。

 どうやら、ふたりの姉よりそっちの方がヤバそうだな。


「さて、久しぶりにあなたの顔が見られてよかったわ。そろそろ行きましょうか、カテリノ」

「はいですわ!」


 不敵な笑みを浮かべながら、カテリノを連れて去っていくエクリア。

 その場に残された俺たち三人。

 未だに震えているロミーナを見て――俺は彼女の手を握る。


「ア、アズベル……?」

「大丈夫だ、ロミーナ。今の君には俺がいる」


 真っ直ぐ目を見てそう告げると、強張っていたロミーナの表情が少しずつ柔らかなものへと変わっていく。


「ありがとう……アズベル」


 いつもの笑顔を見せてくれたロミーナは俺の手を強く握り返す。その仕草は、これから待ち構えている困難に対する決意表明のように思えた。


 ちょうどその時、うちのメイドのスザンナが「そろそろホールの方へ移動をお願いします」と呼びに来てくれた。


「行こう、アズベル」

「ああ」


 最終的にロミーナに引っ張られる形となったが、その際、パウリーネさんから「ありがとうございます」と小声でお礼を言われる。


 とりあえず、最悪の事態は回避できたかな?

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