第21話 ダンスホールにて

 外が暗くなってくると、いよいよ舞踏会が始まる。

 ウィドマーク家にとっては無縁とも呼べる大舞台――そのため、俺も含めた家族はガチガチに緊張していた。

 一方、公爵家令嬢であるロミーナは堂々とした振る舞いを見せていた。幼い頃……いや、今も幼いといえば幼いんだけど、それを感じさせない振る舞いに、うちの家族や使用人までもが感心している。


 ただ、今回の舞踏会は国内のみの要人を招待しているわけではない。隣国ファルザンとの友好関係を深めようという目的もある。

 なので、城内外の警備はめちゃくちゃ厳重であった。裏を返せば、オルメド側の本気度というか、絶対に失敗しないぞって熱意が溢れている。


 ――だが、だからこそこの場を襲撃してめちゃくちゃにしてやろうって輩が潜んでいるとも言える。オルメド王国もそういった情報を掴んでいるのだろう。


 いざとなれば、小型に改良した魔銃でロミーナやみんなを守れるよう注意をしておかないとな。


「随分と緊張しているようだねぇ、アズベル」


 ダンスホール前で着替え中のロミーナを待っていると、誰かに声をかけられた。

振り返ると、そこには意外すぎる人物の姿が。


「イ、イルデさん!?」

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「だ、だって……」

「支度が間に合わなくて遅くなってしまったが、こう見えてウィドマーク家の用心棒をやらせてもらっているからねぇ。行かないわけにもいかないだろう?」


 用心棒……そんな立場だったのか。

 というより、この人の場合は単に興味本位で参加したっぽいな。

 一応、舞踏会という場所を考慮してドレスを着用しているのだけど、問題はそのドレスのデザインだ。

 とにかく露出がエグい。

 正直、目のやり場に困るくらい胸元がガッツリ開いている。相手からすると十歳の少年と話しているのだからあまり気にしていないようだけど、これが本物の男子だったら間違いなく性癖が歪みそうだ。


 さっきまでとは質の違った緊張感に襲われる中、ついに舞踏会用のドレスを身にまとったロミーナがやってくる。


「おまたせ、アズベル」

「ぜ、全然待っていないよ」


 あまりの可愛さに、一瞬意識が飛んでいた。

 実に素晴らしい……原作である【ブレイブ・クエスト】にはさまざまなヒロインが登場するのだが、その誰にも負けないくらい輝いている。どうしてこんな可憐な少女が氷結女帝などと呼ばれるようになり、主人公たちと対峙するのかまったく分からない。


 そのドレス姿を見て、俺は新たに決意する。

 絶対に彼女を幸せにしよう、と。


「うぅん!」


 心の中でそう誓った直後、パウリーネさんがわざとらしく咳払いをする。

 最初は何の意味がと疑問に思ったが――そうだよ。

 危うく忘れるところだった。


「ロミーナ」

「うん?」

「よく似合っている。綺麗だよ」

「っ!? あ、ありがとう……」


 真っ赤になったロミーナは小声でお礼を言うと恥ずかしさから俯いていしまう。

 そんな彼女の後ろではパウリーネさんやメイドさんたちが満面の笑みで親指をグッと立てたのだった。

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