第42話
「なかなか良いのを買えたね」
「健太さんってほんとに値段気にしませんよね」
「まあ、稼いでるからね」
せっかくならとオーダーメイドで仕立てて貰うことにして、いろいろと注文をつけながら選んでいたら結構な値段になった。
成人式で着る用のちょっとお洒落なやつを彩香に選んでもらい、冠婚葬祭用のも何着か購入。
カードで一括払いした結果店員もにこにこ顔になっていた。
「それにしてもやっぱりアイテムボックスは便利ですよね」
「どこでだって役立つからね」
今日購入したものは後日宅配してもらうスーツ以外は全てアイテムボックスにしまってある。
もしアイテムボックスがなければ俺も彩香も両手を荷物でいっぱいにしてただろう。
「とりあえず衣料品で買っておくものは終わりかな?」
「そうですね。後は地下のケーキ屋さんでクリスマスケーキを予約してあるので、それを受け取るくらいですね」
「もう受け取れるなら先に受け取っちゃおうか」
そうしてエレベーターに乗って地下階にあるケーキ屋へ向かった。
「デパ地下の惣菜って美味しそうに見えるよね」
「割高ですけどね。気になるものがあれば買っておきますか?」
「いや、いいよ。彩香の手料理の方が俺は好きかな」
「褒めたって私の機嫌が良くなるくらいですからね。そこのケーキ屋さんですよ、ここのは美味しいんです」
ケーキ屋に着くと彩香は予約したケーキを受け取り俺に渡してくる。
俺はそれをアイテムボックスにしまったのだが、しまうところを店員がおもいっきり見ていたようで、かなり驚いていたのについ笑ってしまった。
「まだ夕食まで時間があるけど、何かしたいこととかある?」
「んー、健太さんと居られれば私としては結構満足なんですよね。まあ少しどこかで休憩はしたいかなって感じですけど」
「ちょっと思い付いたことあって、驚かせることになるかもしれないけどどうかな?」
「えっと、内容がすごく気になりますけど、どんなことですか?」
「空からこの街を見てみる、とか?」
「また突拍子もないことを...」
何を言ってるんだこいつはと言うような目で見られるが、思いついた事を言っただけだから気にしない。
「彩香に危険は無いし、楽しそうでしょ?自分の住む街を空から眺めるってあんまり無いからね」
「じゃあ、それでお願いします」
「そしたらテイクアウトでなにかあったかい飲み物でも買ってから行こうか」
「わかりました。気分的にココアが飲みたいです」
2人でホットココアを注文し、一旦収納した後に2人でデパートの屋上に出た。
クリスマスではあるが寒さからかあまり人はいない。
そんな屋上の中でも人気の無い方へ向かうと、彩香を抱き抱えてから彩香と自分の2人をまとめて魔力で覆った。
「今魔力で俺たちを覆ってるんだけど、わかる?」
「なんか風が吹かなくなったり心なしか暖かく感じるのはわかりますね。いつもこんな感じならやっぱりずるいです!」
「拗ねない拗ねない。じゃあ、行こうか」
そう言って魔力を固めて彩香の負担にならない程度のスピードで空へ向けて駆けて行った。
耳元で絶叫マシンに乗っているかのような叫び声を発されながら、だいたい地上から500mほどの地点で立ち止まる。
「ほら、とりあえず到着したよ」
そう声をかけると、彩香は恐る恐る顔を上げてまわりを見渡した。
「健太さん」
「ん?なんだ?」
「とっても素敵なんですけどね、恐怖感が凄いです。健太さんがいるからパニックになったりはしませんけど、なかなかに怖いですよ」
「落とす気は無いけど、仮に落ちても途中で絶対に拾えるから安心して良いよ?あ、どうせなら自分の足で立ってみる?」
「いやいやいやいや、無理ですよ!抱えててください!!」
「了解。ほら、ココア飲みながらゆっくり見渡してみな?」
魔力を固めて空中に椅子を作り座ると、彩香を横抱きにして膝の上に乗せる。
片手で腰に手を回して安定させてから、ココアを取り出して手渡した。
「健太さんって、ほんと無茶苦茶ですね」
ココアを飲んで落ち着いてきた彩香は、苦笑しつつも非難というよりは称賛に近い感情をこちらに向けてそう言い、自分たちの住む街を静かに見渡し、微笑みを浮かべていた。
そんな彩香を見ながら、自分の分のココアを取り出して口をつける。
喧騒も届かず、魔力で覆うことで暖かく、風もない。
そんな静かで心地良い時間を2人で満足するまで堪能した。
脳筋のアホが探索者になったら ばつ @huannotane
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