第41話

 駅前のデパートを2人で歩く。



「人が多いな」



「平日でもクリスマスイブですから、私たちみたいなカップルもたくさんいますね」



「どういう仕事してたらこんな昼間から遊んでられるんだろうな」



「健太さんみたいな探索者の方もいるんじゃないですか?」



「あんまり強そうな奴はいないぞ?」



「健太さんから見たら高ランク冒険者だってそこそこ止まりでしょうから、健太さんの評価はあまり当てにできません」



 彩香に苦笑されてしまった。

 たしかに年始に見た高ランクの探索者でもそこまで強いと思う奴はいなかった。

 みんなもっと鍛えれば良いのにと思わなくもないが、探索者なんてそう言った面も含めて自己責任だろう。



「とりあえず彩香の今後着るだろう服や下着でも買っていこうか」



「はい、ありがとうございます。今は妊婦用の服でもお洒落なのが多いので、健太さんも選んでくださいね」



「俺は流行とかわからないぞ?」



「健太さんが良いなと思ったらそう言ってくれれば良いんですよ。基本は私が選びますから」



 それならまあ良いかと、女性服メインのフロアへ移動した。

 そこかしこに彼女や奥さんに振り回されて疲れた様子の男が見受けられる。

 女性の買い物は長いと聞くが、それにやられるとああなるのだろう。



「買うのは妊婦用の下着と服くらいか?」



「そうですね。普通のは出産してからじゃないと体型の変化で合わなくなったりしちゃいそうですし」



「女性は大変だな。尊敬するよ」



 性差による違いに驚きつつ、どの店に行けば良いのかはわからないので彩香に着いて行く。

 最初に下着を選ぶようで、大量の下着が並ぶ店に彩香が入って行った。



「ここはもう男性立ち入り禁止にして良いだろ。気まず過ぎるぞ」



「大丈夫ですよ。そうやって気にするのも男性くらいで、女側からしたらカップルで来てるならそこまで気にしませんから」



 なんとなく入りづらさを感じながら彩香に着いて下着売り場に入って行く。

 迷わず妊婦用の下着コーナーに行くと、どんなのが良いですか?なんて言いながら色々と手に取って見せてきた。

 多少デザインの違いはあるが、俺からするとどれもそこまで変わらないとしか思えない。

 きっとそこが男女の違いなんだろうなと思いつつも、こっちの方が似合ってそう、などと無難な返事をしていった。



「いやー、居心地の悪さが凄かった」



「選んでくれてありがとうございます。おかげでたくさん買えました」



 いろいろとダメになりやすいらしいので、余裕を持って多めに買うことにした。

 次は服だなと、引き続き彩香に着いて行く形で別の店に入って行く。



「おー、妊婦用もかなりいろいろあるんだな」



「そうですよ、最近はお洒落なのも多いんですから」



 想像していたよりも多くの服があった。

 ここでも色々と手に取り、体に合わせ、どうですか?と聞いてくる。



「彩香は淡い色合いの服が似合うかな。可愛らしい顔と小柄な体に合う感じがする」



「そ、そうですか?ならここらへんの試着してみますね。お腹がもっと大きくなってから用のやつなので、今はまだあんまり似合わないかもしれないですけど」



「ベルトとかで調整できる感じみたいだし、大丈夫だよ」



 試着室に入る彩香を見送り、待つこと数分。



「ど、どうですか?」



「うん、似合ってるんじゃないかな?彩香に似合ってて、可愛らしいよ」



 そんな褒め言葉に照れる可愛い彩香。

 ならこれは買いですね、なんて言ってカーテンを閉めて、他の衣類を試着していく。



「思ったより買っちゃいました」



「どれも似合ってたからね、彩香が満足ならそれで良いよ」



「ありがとうございますっ。それじゃあ、健太さんの服も買いに行きましょうね!」



 そう言って俺の手を引き歩いて行く彩香の後ろ姿を眺めながら、男性用の衣料品がある別のフロアに移動する。



「健太さんて、探索者やってるだけあってシュッとしてて全身引き締まってるので、なんでも似合いますね」



「そうなのか?」



 俺が普段選ばないような服まで手に取り、俺の体に合わせながらそう言う彩香に首を傾げると、健太さんは自分の魅力に無頓着すぎます!と叱られた。



「俺としてはある程度品質が良くて着心地が良ければ、そこまで酷いデザインじゃない限りはなんでも良いからな」



「ダメです!健太さんにはもっとお洒落になってもらいますからね!ついでにスーツも良いやつにしましょうよ!体型が変わらないからって高校生の時買ったような奴はダメです!」



「まあ成人式も来月あるしスーツは買うべきか」



 そういえば成人式のお知らせの手紙が来てたなと思い出し、肯定しておく。



「そういえばそうでした!」



 彩香も忘れていたようで、普段着用の衣類をてきぱきと選び購入してから、スーツを選びに次の店舗に移動した。

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