第5話 第一王子
私たちが学院までの大通りを歩く中、後ろから歓声が上がった。
「わぁ、あれはレオニス様ですわ」
「本当だわ。とても綺麗でかっこいいですわ」
「王子様の光り輝くオーラが眩しすぎますわ」
私たちは振り返ると、豪勢な馬車から第一王子と思しきレオニス・グリザリカが降りたところだった。レオニス王子は金髪碧眼で美形な少年だ。生徒たちはレオニスが通る道を作るように横へとズレる。
ただ、その後ろからは一人の女性が現れる。レオニスは女性の手を支えながら歩き出し、エスコートしているかのように見える。
「誰ですの?あの女性は」
「レオニス様の何なのかしら?許せないわ……」
「レオニス様の隣は私以外認めないわ……」
レオニスの横を歩く女性はエリザ様に劣らぬ美貌を持ち、その身体のラインは少女っぽさはなく大人な妖艶な色気があるように感じる。
今まさにレオニスと歩いている女性がエリザ様を陥れた元凶である。
レオニスの横を歩く女性はリリーナ・カルステン。リリーナの叔父は王の直属の部下なこともあり、リリーナはレオニスとの接点を持つ。
リリーナは帝国に秘めたる思いを持ち、そのためにレオニスを妖艶な魅力で陥れさせていく。それはまるで、暗い深淵の誰もいない世界でリリーナだけがレオニスを必要としているかのような、そんな暗示を掛けられてレオニスはリリーナの手駒にされる。
ただ、帝国が崩壊しかけないリリーナの策略とレオニスを救うのが平民である少女というのが乙女ゲームのシナリオだった。
だが、エリザ様を救うためにはシナリオ通りにはいかない。元凶であるリリーナからエリザ様への虐めをなくさなければ死という最悪な結末を回避することはできない。そのために私はリリーナの対処にあたることがこの学院でのやらなければいけないことである。
「レオニス、貴族風情が私たちの仲を羨んでいるようですね。ただでさえ愚民に見られることが不快だというのに」
「私たちが注目を浴びるのは当然のことだ。私が第一王子なのだから」
「そうね。レオニスを見る邪な視線に希望も期待もないってことを絶望でわからせてあげたいわ」
リリーナはそう言い、微笑を浮かべる。その表情は悪魔のように人が絶望に打ちひしがれるのを楽しんでいるかのようだった。
「これからの学院生活が楽しみだわ」
今大通りを歩く王子とリリーナは光と闇のように見えた。
私は間近でリリーナを見ると動揺を隠さずにはいられなかった。実際にリリーナというエリザ様を傷つけた元凶が目の前にいるのだから、込み上げてくる感情に押しつぶされそうになる。そんな私の様子を気にかけて、エリザ様が私に尋ねる。
「ルシアどうしたの?あなたには珍しく戸惑っているように見えるわ」
私はいつも冷静であることを心掛けていたが、エリザ様には見破られてしまった。
「い、いえ。何でもありません」
「そう、でももし何かあったときは私に言って、私もルシアの力になりたいのよ」
「エリザ様……。ありがとうございます」
「いいのよ。だってルシアは私の一番大切な執事なんだから」
「エリザ様にそう言ってもらえて光栄です。私はあなたを必ず守り抜いてみます」
「嬉しいけどルシアはいつも大袈裟だわ」
そう言い残してエリザ様は学院の校舎へと足を踏み入れた。こんな優しいエリザ様に乙女ゲームでは無慈悲な死が訪れた。だから今回は必ず守って幸せになっていただきたい。私の命を懸けてでも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます