第6話 交流会
リアーナ学院は主に貴族としての教養を身につける場である。15歳の少年少女が18歳までの3年間で基本的な学問や剣術の稽古、貴族としての振る舞い方などを学び、貴族としての在り方や恥ずべきものにしないための学院である。
私たちは学院の入学式が終わった後、生徒たちと仲を深めるための交流会に参加した。交流会では生徒たちが机を取り囲みグラスを手にする。机の上にはみかんやりんご、ぶどうのジュースが置かれてある。生徒たちは緊張している様子で、周りを伺っていた。また、貴族では爵位の高い人たちが偉い。そのため、下の爵位の人たちは失礼のない様に公爵や侯爵たちから話しかけられるのを待っているようだった。
「私少しお話ししてくるわ。ルシアも話せる人くらいは作っておきなさい。それではまた後で落ち合いましょう」
「承知いたしました」
エリザ様はそそくさと私の元から離れていった。エリザ様は公の場では凛々しく令嬢としての立ち振る舞いを理解している。私はそんなエリザ様の背中に少し寂しさを覚えると同時に成長していくエリザ様を誇りに思った。私はひとまず、エリザ様の様子を伺うのと同時に周りの生徒たちと交流を図ることを決める。
エリザ様の様子を伺うと彼女は公爵家の令嬢だが、下の爵位の生徒を見下すことは決してしない。分け隔てなく、生徒に話しかけて交流を図っている様子だ。それもそのはず、私はエリザ様を社交の場によく顔を出させていた。年上の人たちとコミニケーションを取っていたこともあり、乙女ゲームをしていた頃のマイペースなエリザ様より社交的になっていた。言わば、自分に自信がついたようである。
「あの、初めまして、エリザベート・カガリと申します。あなたと仲良くなりたいと思って、話しかけました……。良ければお話ししましょう」
エリザ様はグラスを持ち、一人の令嬢の元へと話しかける。その少女は栗色の艶やか髪に純粋無垢な瞳、それに15歳にしては幼く可愛い容姿を持っていた。
「あっ…あの、エリザベート様って公爵家の方ですよね……?」
部屋の隅にただ棲む少女はエリザベートに怯えた様子で応える。
「えぇ、そうですわ。何か不都合でもお有りでしょうか」
「わ、私爵位が男爵でして、その、失礼があったら……」
「何を言ってらっしゃいますの。私はあなたと仲良くなりたいから話しかけたのですわ。友達になるのに爵位は関係ありませんよ」
「ですが……。エリザベート様に迷惑をかけてしまうかもしれませんし、品位も下げかねません……」
少女は俯きながら不安を口にする。爵位とか地位とか気にする人は居れど、ここまで直球に聞いてくる人はいなかった。それほどまでに少女は男爵としての身分を気にしているのだろうか。
「ここは学院です。誰も爵位などで人を見たりしません。それとも私と仲良く会話するのさえ嫌でしょうか?」
「そ、そんなことはないです……!私もエリザベート様とお話ししてみたかったです……。仲良くなりたいです」
(こんな可愛い子に見放されたら立ち直れなかった……。それにこんな可愛いくて保護欲を掻き立てる少女を放っておけないわ)
「安心したわ。ではお話ししましょう。初めにあなたの名前はなんて言うのかしら?」
「システィーナ・ラクナスと言います……」
「可愛い……」
エリザベートは少女の目を見つめていたら、つい心の声が漏れてしまっていた。
「え……?エリザベート様?」
「ご、ごめんなさい。システィーナが可愛いくて、つい……」
「そ、そんな、滅相もございません。私がエリザベート様に褒められるなんて……」
「システィーナ自分を卑下する必要はありません。私たちは平等ですわ」
「はい……。エリザベート様はとてもお優しい方ですね……」
「そんなことないわ。ただ当然のことを言っただけよ。それよりもこのサラサラの髪はどのようにしているのかしら?」
エリザベートは可愛い子には目がなく。ましてや同年代で可愛い子と話す機会はなかったのだ。そのため、目の前にいるシスティーナの髪や肌に触れたいという気持ちが押されられなかった。
「あ、あの……恥ずかしいですエリザベート様……」
システィーナの栗色の髪はサラサラで肌もすべすべで、それに加えて頬を赤らめて恥ずかしがる。そんなシスティーナの反応にエリザベートも顔を赤くする。
「システィーナ、私はエリザと呼んでほしいわ。それに私だけじゃ、不平等だし、システィーナも触って……?」
「エリザ様……。私が触っていいんですか……?」
「もちろんよ。私たちは平等よ」
そんなこんなでシスティーナに触られて喜ぶエリザベートは学院で初めての友達を作ったのだった。
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