2023-02-06 お題「見えない!」

「ある」


乙幸(きのと みゆき)……27歳。女性。先輩。

薄一(すすき はじめ)……24歳。男性。後輩。


〇森

  森の中を歩く乙幸(27)。その右後ろ

  を歩く薄一(24)。幸、足を止める。

  薄、幸の左隣で足を止める。

幸「さて、着いたよ一君」

  薄、周囲を見回す。

薄「着いたって、何もありませんけど」

幸「まあまあ」

  幸、その場にしゃがみ込む。それを見て

  薄もその場にしゃがみ込む。

幸「一君、右手出して」

  薄、掌を上にして右手を前に出す。

  幸の左手、薄の右手を裏返す。薄の手首

  を握り、薄の右手の掌を地面に近づける。

  薄の右手、空中で停止する。

薄の声「ん? 何だこれ」

幸の声「一君、君は今何に触っている?」

  薄、右手を動かし空中をまさぐる。

薄「何に触ってるって、いや、別に何にも触

 って……あれ?」

  薄、自分の右の掌を見つめる。

  幸、立ち上がる。

幸「ふむ、成程。一君、君は本当に何にも触

 っていないのかい? それとも、触ってい

 る感覚が無いのかい?」

  薄、目を見開き立ち上がる。右に立つ幸

  の顔を見る。

薄「それです。触っている感覚が無いってい

 うか、掌の感覚自体が無いっていうか」

  幸、足元を見ながら顎に左手を当てる。

幸「一君、改めて聞くが、私たちの足元には

 何がある?」

  薄、足元を見る。

  落ち葉の積もった地面に四角い窪み。

薄の声「何も無い。何も、見えないです。」

  幸、溜息を吐き、左足を一歩踏み出す。

  幸の左足、窪みの上の空間で停止する。

幸の声「一君、これが私たちの今回の調査対

 象だ。ここには、何もないと認識させる何

 かがある」

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掌編シナリオ作品2022年度 鶻丸の煮付け @kimura010924

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