2.7  -(ハイフン)の 一族,持っている力(ちから)

 雉くんは,膝の上から完全に離れようとした背中を腕で支える。

 そして見つめ合ったウーヅが落ち着くまで,みな待っていた。


 子爵令嬢と公爵家の姫君とが,それぞれ元の位置へ座り直した時,既に1202列車は王都セレンの市内,その近郊も離れ,グッドロー(Good Law)・セレン線の本線を

東へ向かっている。県王の直轄地から離脱した。



 「で,クレア。昨日の話を続けようか」

 「あ,あぁ,トリスタン」


 通路から転換クロスシートのひとつに寄りかかって,腕を組んだトリスタンが,

ショイル語で切り出した。ウーヅと後輩や姫君の反応を待たずに。


 「まず、ストリング公爵家の当主夫妻は安全が中央政府に保証される,という計画

だと,魔王閣下の幻影に聞かされていたんだよな?」

 「はひ」

 「裏の騎士達が監視をしてるけど,魔王が表部隊を動かす可能性はある」

 「国防省を通さず,個々のメンバーに直接指示する,ですね,先輩」


 ―中央政府の国防省指揮下にある共和国騎士団のうち,通常の治安維持を州か付庸国かに関わらず,ショイル国全土で行っているのが,“裏の騎士”達。


 きた公園こうえんどおり信号場の近くでクレア達を襲ったのは,“ おもてに立つ騎士”。諜報活動をしているほうが”表“を名乗っているのは不自然な気がするが,これは初代の団長の,名前の漢字表記に由来するのだという。



 「表部隊の騎…士や従騎士,弓兵の…,存在を知るのは,ドクダミ庁と皇帝陛下の

政府…,そのほかは魔王ウィリアムがわざと伝えた,あたしの家族だけ……です」

 「昨日トリスタンが教えてくれたけど,それは本当?,クレアもティケも初耳だって

言ってたよ。わたしもよく知らなかったよ,雉ちゃん」

 「イヅーさん…」と何か言いかけたが,

もともと白い肌が再び青白くなり始め,黙り込むのを見た雉くんが,続きをウーヅの代わりに答える。


 「えぇ,しかもショイル国の当局者を含めた住民は,表部隊の存在を知りません。裏の騎士達でさえ,所属が同じなだけであって,表部隊の事を知っているのは一握り,です。

 これをせ,失礼、ピット子爵が話していると思いますが,俺からも」


 話し終えた雉くんは,耐火フードを降ろしたウーヅの,金糸の髪をでる。なのに,

デハ4073車内の空気がどんどん重くなっていた。

 たまりかねたクレアが,雉軸んに向かって問いかける。


 「は, ‐〘ハイフン〙の一族と呼ばれる連味家は,双瑞皇帝へ直接仕えている。それは,

かつて呪いが何も効かぬ体質の樹扶桑人がいて,建国者エグベルトが面白おもしろがって彼を

召しかかえたのがきっかけだと,伝えられている」

 「その通りです,クレア殿下。きっかけはともかく,互いの信頼を元に建国者エグベルトへ忠誠を誓っていますね」

 「彼の息子は初代皇帝,アルフレッド1世が設置し,ドクダミ庁の最初の大臣へ任ぜられ,官職を世襲する子孫は同じような体質を受け継ぐ。雉軸んと,父で現職の大臣,

隆倉も。–の一族は,呪いが効かないだけでなく,触れた相手にかけられている呪いを,誰が術者かとは無関係に解除できてしまう体質を持つのか?」

 「その認識で間違いありません」


 「なら,お願いだ…,二人は,僕の口走ったように呪い子なのかをてほしい。顔を見るだけで鑑定できるのは本当か?」


 「かしこまりました。……なにも,なんにも…,現在のティケさま,精霊イヅーのどちらにも,

呪いはかかっていません」

 「雉軸ん……,録音記録からも分かるけど,復刻者クインに呪われたのは僕や両親の方で,

ティケじゃないのは明らかなんだね」


 姫君と精霊より嬉しそうな王太子へ,さらに告げる。

 「そして殿下にかけられた呪いの方は,何らかの意図があって一時的に解かれたのではなくて,単に術者のミスで不完全だったから効果を失ったようです。―県王陛下と

お妃,あと周りのは,見てないので分かりかねます」


 「それでいいよ,雉軸ん…,目を見るだけで分かるのですね」 

 「まぁ,これでティケやイヅー,ストリング公爵が僕らを許してくれるとは思わないけど―」

 「クレア…,それ以上 わないでください。わたくしは,その気持ちだけでじゅうぶん,嬉しいんです」

 



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 2024年5月26日(土),タグのうち「タブレット」を付けるのを廃止しました。

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も宇瑛 @Ca95ry2

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